第872話 話はまとまりましたが何か?
魔族と人の混血であるシルバ・フェンリールと、『バシャドー義侠連合』の三大幹部達アキナ・イマモリー、ケンガ・スジドー、エンジ・ガーディー四人から、リューは四組織同盟の提案をされた。
リューは反対する理由が無いので快く承諾した。
「──ただ、『聖銀狼会』が、承諾するでしょうか?」
リューは最大のネックになりそうな事を指摘した。
「それは、『竜星組』や『死星一家』についても同じでしょう。会合を開いてみないとわからない事です」
エンジ・ガーディーが言う事は、もっともと思われた。
「『竜星組』は先程も言いましたが、(僕が言うのだから)問題ありません。『死星一家』も(僕が動けば)断らないと思いますよ」
「領主様はかなり、説得できる自信があるようですね」
エンジ・ガーディーは、リューの確信した物言いに、内心、少し戸惑う。
「ええ。ですから、会合を準備するにあたって、それまでに『聖銀狼会』を説得する材料を用意する必要があると思います」
「……材料ですか……。一応、脅威となる組織に対抗する、という大義名分はありますが?」
「それでは少し、弱いかと思います。『竜星組』と組むくらいなら、彼らは単体組織でも『屍人会』と戦う姿勢を見せるかもしれません。そうなったら、各個撃破されて終わりです。四組織同盟を成立させようと思ったら、それなりの理由が欲しいところです。……その辺りは、こちらで考えてもいいですか?」
リューはすでに何か考えているようだったが、一応、両者の顔を立てるつもりで控えめに聞く。
「……わかりました。『竜星組』側の説得もあるでしょうから、お任せします。──ケンガ、『聖銀狼会』の事務所に人を走らせてくれますか?」
エンジ・ガーディーはリューを信じる事とし、自分達も出来る事をするという事で、話はまとまるのだった。
『次元回廊』を使用して、リューは久し振りにマイスタの街に戻った。
「若、無事でしたか! 襲撃によるバシャドーの街の大火事は部下から報告で聞いています。ですが、そのあと若の消息がわからなくなったと聞いて、人を派遣しようかと話し合っていた最中ですよ」
ランスキーがリューの顔を見てホッとした様子をみせた。
どうやら、リューが寝込んで動けなくなっていた間、様子がわからなくて現場の部下が慌てたようだ。
「はははっ。だから、みんな揃っていたのか! ちょっと動けず寝込んでたんだ、ごめん」
リューはランスキーをはじめとした大幹部達、幹部数十名が、会議室に集まっていた理由に納得した。
「みんな、リューの事が大好きなんだから。ふふふっ」
リーンは嬉しそうに笑う。
「リーン姐さんも、若がそんな事になっているなら、地元の部下に知らせてやってくださいよ」
ランスキーはリューが寝込んだ事を心配した。
その言葉に、居合わせた大幹部、幹部達は大きく頷く。
「私はリューの従者として、傍に居なくてはいけなかったし、スードも護衛。アーサはメイドとしてリューの世話をしなくてはいけなかったから、手が離せなかったのよ」
リーンは正当な理由があったとばかりに、言い訳した。
これには、大幹部のマルコやルチーナ、ノストラが、少しくらい時間を割けただろうと、ぶうぶう文句を言うのだったが、ランスキーが静かにさせた。
「──それで、あっちはうまく収まりそうなんですかい?」
と、ランスキーは確認する。
「その事なんだけど……。──丁度いいや。大事な話があるからみんなに聞いてもらおうかな。実は──」
リューはバシャドーの街の復興作業や街独特の担当官などの人材問題、そして、対『屍人会』『新生・亡屍会』の為に四組織同盟案が上がっている事を話した。
「……人材問題はともかくとして、復興作業については、商会の建築部門から人を派遣するのは簡単だぜ。ただ、地元の経済を動かそうと思えば、資材の提供と、専門家の派遣に留めた方がいいだろうな」
ミナトミュラー商会の会長代理として、ノストラが最初に口を開いた。
「そうだな。うちが全てを担えば、地元に金が落ちなくなる。それだと地元経済に悪影響だ。──若、どうでしょうか?」
ランスキーが確認した。
「うん、僕の考えと一致するよ。それで準備をお願いできるかな?」
「準備はできているので、今すぐでも派遣は可能です」
ランスキーの言葉に、留守を預かっていた全員が、黙って頷く。
「もう? ──さすがだね。それじゃあ、お願い」
リューは頼もしい部下達に笑顔になる。
「残りは四組織同盟の件ですが……。うちや『死星一家』はともかく、『聖銀狼会』が素直に首を縦に振りますかね?」
『竜星組』組長代理のマルコが、みんなを代表して一番の疑問を口にした。
「それは、僕に考えがあるのだけど、『屍人会』を叩いて得た縄張りは全て、『聖銀狼会』に譲ろうかなって」
リューの考えはとんでもないものだった。
それでは『聖銀狼会』の為の同盟であり、こちらには損しかないものだからだ。
一同は、リューの説明を聞くと、
「それなら、あっちは納得するでしょうが、うちは得が無いですよ?」
というマルコの冷静な問いに、全員が頷く。
「確かに一見すると僕達には損しかないように思えるよね。でも、よく考えてみて? 『屍人会』の背後に誰がいるのか。そして、組織が巨大になり過ぎればどうなるのか……」
リューは悪い笑みを浮かべる。
「……なるほど。『屍人会』を叩けば、背後の人物の恨みを買い、巨大になれば、討伐理由になる可能性があるという事ですか」
ランスキーはリューが何を言いたいのかようやく理解した。
確かに、リューもエラインダー公爵の直接的な恨みは、買いたくない。
それが『竜星組』であってもだ。
『聖銀狼会』は西部地方の組織だから、その点はあまり気にしないかもしれない。
組織を大きくする事にも積極的だし、彼らの考えにも合う。
あくまでこれは『聖銀狼会』の望みに沿った条件を出す、という事であり、リュー側も自分達の条件に合った提案だから、問題はない。
「かぁー! 若は、悪い男だわ! あははっ!」
ルチーナが、楽しそうに笑う。
「若様は、良い男です!」
そばにいた夜のお店の女王として君臨し、『星夜会』という組織を結成しているリリス・ムーマが、ルチーナの発言を訂正する。
「はははっ、ありがとう」
リューは二人の誉め言葉を受け取った。
そして、続ける。
「あ、そうだ。リリスに聞きたい事があるんだった。シルバ・フェンリールって聞いた事ある? 魔族と人の混血らしいのだけど」
リューは淫魔との混血であるリリスに話を振った。
「シルバ・フェンリール……? ──もしかして、フェンリル一族の事でしょうか?」
「そう、それ! リーンが指摘して本人も認めていたのだけど、魔族では有名なの?」
「それはもちろんです! どちらかというと、魔族と魔獣の間に君臨する立場で、どちらからも一目置かれる存在です。まさか、こちらに現れたのですか?」
リリスは驚きの表情で、リューとリーンの表情を窺う。
「うん、バシャドーの街にね。そうか、有名なのかぁ……。──よし、良い人そうだし、どうにかして、うちに雇いたいなぁ」
リューは楽しそうだ。
「若に目をかけられるとは、運がいい奴ですね。わははっ!」
ランスキーが豪快に笑う。
「フェンリル一族の者を部下に……? ──若様、とても素晴らしい考えだと思います!」
リリス・ムーマは、それがどんなに難しい事か、理解していた。
だが、リューならきっと成し遂げるだろうと思い、同意するのだった。




