第870話 思わぬドッキリですが何か?
隠し地下室から救い出す事になった、魔族と人の混血であるシルバ・フェンリールは、リューの許可の元、城館の一室で保護してもらう事になった。
脱水症状も回復し、現在は体力回復の為、栄養のある食事を与えられている。
リューは、横になっているシルバを訪れ、拷問された理由を聞いた。
普通、魔族と聞いたら、問答無用で殺されていてもおかしくないからだ。
それくらい邪悪な存在だと思われているし、実際、暗黒大陸に近い国では魔族による犯行で凄惨な事件も沢山起きていると聞く。
「……この街にいる理由や、魔族の力について私が知っている事を吐かされていた……」
シルバは、素直にリューに答えた。
だが、それは一部のようにも思える。
答えるまで、間があるからだ。
都合が悪い事は当然だが、答えないように慎重になっているように見えた。
「もしかして、呪術についてしゃべった?」
リューが思い当たる節があった。
ワルゾンという代官付きの執事が、代官の口封じに使用したのを思い出したからだ。
「……どうしてそれを?」
「やっぱり! この街の代官を捕縛した時、執事が代官を呪術で口封じしたんだよ」
リューは隠す事無く、この身元もよくわからないシルバに話した。
「……あの代官を捕縛……? 口封じ?」
「《《どの》》かはわからないけど、代官は不正をしていたから、僕達が取り締まる事になったんだ。でも、口封じされた事で、誰が背後にいたのか、明確な証拠は発見できなかったけどね」
リューはリーン達に視線を向けて残念そうな表情をする。
「そうか……」
シルバは代官の死を聞いて少し、安堵した様子を見せた。
自分を捕らえさせた人物だから、色々な思いがあっておかしくない。
「そういう事だから、安心して療養すると良いよ」
リューはシルバがまだ、心を開いてくれていないのがわかったので、一旦、会話を終わらせると、部屋を出るのだった。
「まだ、何か隠しているわね」
リーンが不満そうな顔をした。
「彼にしたら、人間相手の時点で不信感があるだろうし、ましてや、代官の仲間かもしれないと思っていただろうから、警戒もすると思うよ」
リューは、シルバの気持ちを察した。
容姿や生まれ、環境などで差別される事は、リューも前世で経験している。
自分の時はそれが原因で自暴自棄になり、ろくに学校にも行かず暴れていた。
中学もろくに通わず卒業すると、すぐに日雇い労働者になり、いろんな変遷があって極道の世界に入ったのだ。
だが、シルバは目が死んでいなかった。
自分の時よりまだ、人生を捨てていない者の目だと、リューは感じていた。
「……そうね。私も最初、リューは、痛い子だと思っていたし」
リーンが自分にいきなり声をかけて、雇おうとした時の事を思い出した。
「ちょっと! いつの話しているのさ!」
リューは慌ててツッコミを入れる。
「主にも痛い子の時が……。──人に歴史あり、ですね!」
護衛役のスードが、リーンの発言を鵜呑みにした。
「違うから! どちらかというと、世間知らずで犬猿の仲のドワーフ相手に無茶言ってたリーンの方が、痛い子だったから!」
リューは当時のリーンを思い出した。
リーンが今度は言い返そうとすると、執務室に到着した。
そこへ、侍従の一人が慌ててやってきた。
「失礼します、領主様! 表にアキナ・イマモリー様達が訪ねて来られています!」
「「達?」」
リューとリーンが視線を交わす。
「予約なしで来るって、よっぽど急いでいるのかな? 街は火事からの復興で忙しくて、アキナも地元商会へ復興作業の協力を申し出て回っているから、大変みたいだったけど……。──じゃあ、応接室に通しておいて」
リューも、体が回復したばかりだったが、すでに事務仕事は再開していたから、ついでに会う事にするのだった。
「先日の面会の時には、襲撃事件で話す事もできませんでしたので、改めて参りました」
アキナ・イマモリーが、リューのもとで、商業統括官に就任していたから、代表して早速、話を切り出した。
「ああ! ──そうだったね。それでどんな要件かな?」
リューは切迫している様子のアキナ・イマモリー、ケンガ・スジドー、エンジ・ガーディーの三人を交互に見渡した。
「「「領主様にお願いがあります」」」
はやる気持ちから、三人は同時に口を開いた。
三人は言葉が揃ったので、ハッとすると深呼吸する。
「領主様はご存じかも知れませんが……、我々、『バシャドー義侠連合』という組織の幹部をしております」
白い髪、白い目のエンジ・ガーディーが、代表して再度口を開いた。
「うん。知っているよ。──三人が大幹部として、組織をまとめ、この街を裏から支えてくれているんだよね?」
「はい……。この『バシャドー義侠連合』は、我々三人が代表を務める三つの組織が中心にできています。それもご存じですか?」
「うん」
「もともと、我々はこの街を守る気持ちは同じでしたが、組織の代表としての自尊心が強く、一つになる事はありませんでした。ですが、ある時、この街を訪れた男により、考え方を改めさせられ、現在の義侠連合という形になったのです」
エンジ・ガーディーは、見えない目でリューを真っ直ぐ見つめていた。
その目に映っているのは、魔力で象られたリューである。
その魔力には変な揺らぎがない。
「へー。やっぱり、関わった人がいるんだね」
リューもボスがいない『バシャドー義侠連合』の形には疑問を持っていたので納得した気持ちになる。
「はい、ただ、その人物は、ボスになる事を拒み、あくまで相談役として、我々を支えてくれました。しかし、その人物はある時、この街にやってきた代官によって捕縛されてしまいました。それが、数か月前の事です……。我々は彼の安否を調べましたが、全く掴めませんでした。そして、どうやら捕縛後すぐ、闇に葬られたようだと、我々は結論付けました……。領主様には、彼がどのような形で亡くなったのかの調査と、遺体があるならば、その引き渡しをお願いしたい……。彼はこの街の恩人なので、私達三人で供養がしたいのです……。どうか、よろしくお願い致します……」
バシャドー裏社会のドンでもあるエンジ・ガーディーは、少年領主相手に、深々と頭を下げた。
アキナ・イマモリー、ケンガ・スジドーは、涙を浮かべ、続いて頭を下げる。
「……それってもしかして……。シルバ・フェンリールの事?」
リューは三人の様子から、すぐにシルバの存在に行き着いた。
「ど、どうしてそれを!? ……まさか、遺体はすでに発見されているのですか……!? ならば、こちらに譲ってください!」
アキナが立ち上がると、リューにすがるように前に出る。
「……うーん、それはできないかなぁ……」
リューは考え込むと、勿体ぶって答えた。
「「「な、なぜ!?」」」
三人は、リューが遺体を引き渡さない事が理解できない、という驚きの表情を浮かべた。
「だって、生きているもの」
「「「えっ……?」」」
思わぬ返答に三人が固まる。
「うちで療養中だからね。せっかく助けたのに、遺体にして引き渡すわけにはいかないよ。はははっ!」
リューは三人に嬉しいドッキリができて、思わず笑ってしまうのだった。
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