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【8巻予約開始!】裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第866話 殺し屋の激戦ですが何か?

 リュー達が戦闘に入る前。


『バシャドー・ガーディアン』の事務所は、他の事務所同様、火に覆われていた。


 エンジ・ガーディーの部下達は抵抗を続けていたが、すでに奇襲された段階で後手に回っていたし、火事の消火や領民の避難を優先した為、圧倒的劣勢に陥っていた。


 そこへリューの最強メイド長のアーサ・ヒッターと、エンジ・ガーディーが、リューの次元回廊で送り込まれた。


「うちの事務所が燃えているようですね。部下もかなり数を減らされているようだ……」


 エンジは、白髪、白眼の失明者なので、常に杖を手にしている。


 ただ、エンジは魔力の流れが見える為、人や物質の周囲を漂う魔素(魔力の元)から物事を立体的に捉える事ができるので支障がない。


「これは酷いね。──君、エンジって言ったっけ?」


 アーサは火に照らされながら、周囲を見渡し、味方の名前を確認する。


「そこにいたのか、エンジ・ガーディー! 俺の作戦遂行率を落としてしまうかと思ったぜ。呑気にメイドを連れて現れるとは馬鹿な奴だ!」


 そこへ、黒仮面を付ける部下を率いた隊長らしき男が、エンジを見つけた。


「はい。私はエンジ・ガーディー。あなたはアーサ・ヒッターさんでしたね。なるほど、メイドと言っていましたが、私の目には、とてもそのようには映りませんよ」


 エンジは、敵の隊長を無視して、アーサに答えた。


 エンジの目には、アーサが魔力により、身体強化を図っている一流の戦士にしか映っていない。


「失礼だなぁ。ボクは若様の忠実なメイドだよ? 厳密にはメイド長だから、結構、偉いんだからね?」


 アーサも敵の隊長を無視して、エンジに言い返す。


「貴様ら、俺を無視するとはいい度胸だな! 俺は『屍人会』の殺し屋精鋭部隊を率いる『殺戮完遂のジョドー』。俺に狙われて生きていた奴はいない。エンジ、貴様は今日が命日になる。残念だったな!」


 ジョドーは、エンジに死刑宣告した。


「メイド長でしたか。あなたのご主人の人選は、よくわからないですね……」


 エンジはまたも、ジョドーを無視した。


「若様の人選は完璧だよ。ボクは今の仕事が楽しいからね。──君、人のよさそうな言葉遣いだけど、その杖からは血の臭いしかしない。それ、仕込み剣だよね?」


 アーサも示し合わせたかのように、ジョドーを無視して話を進める。


 エンジはアーサの指摘に、軽く驚いた。


 指摘通り、手にしている杖は特殊な仕込み剣が内蔵されているからだ。


 それも、血の匂いを嗅ぎ分けたのだから、身体強化は嗅覚も強化されているらしい。


「あなた、元同業者ですか。驚きました」


 エンジは領主のメイドがまさか、元同業者とは思っていなかった。


 厳密には『元』ではなく現役と言った方がいいだろう。


 アーサにしてみると、メイドがメインの仕事であり、殺し屋業は、副業と答えるだろうが……。


「いい加減にしろよ、貴様ら! そっちのメイド、大目に見てやろうと思っていたが、考えが変わった。……二人とも切り刻む!」


 ジョドーは無視され続ける事に怒りを露わにした。


「「やっとその気になったか」」


 アーサとエンジが声を揃えて、ようやくジョドーに反応した。


 二人ともジョドーとその部下を舐めていたわけでない。


 どちらかというと、相当な精鋭と見て、警戒していたくらいである。


 だから、二人は敢えて無視し、挑発する事で少しでもこちらに優位に運ぶように仕向けたのだ。


 二人とも同じ考えだったのは、同業者故だろう。


 ジョドーは部下達に手で合図を出す。


 その瞬間だった。


 ジョドーの側にいた腹心二人が、身を反らして倒れる。


 小さい投げナイフが仮面を貫いて、眉間に深々と突き刺さっていた。


 隙を見てアーサが先制攻撃を加えたのだ。


「これで厄介そうなのが減ったね」


 アーサがニヤリと笑みを浮かべ、支給されていたドスを抜く。


「くそっ! 油断するな! こいつらの見た目に騙されると痛い目に遭うぞ!」


 ジョドーは、歯噛みすると、自らも針のような剣を抜く。



 敵の主力を不意討ちで仕留めたアーサは、エンジと共にジョドー率いる殺し屋精鋭部隊と、殺し合いに入った。


 アーサもエンジも人体の事をよく理解した戦い方を行う。


 手足の腱を断ち、急所を突き、無駄な動きは一切ない。


 敵は動きやすそうで、なおかつ丈夫そうな鎧に身を包んでいたが、二人とも隙間を狙って的確に仕留めていった。


「エンジ・ガーディーが強いかもしれないとは聞いていたが、このメイドの強さは何なんだ!?」


 ジョドーは精鋭の部下が次々にやられていくのに、唖然とする。


 だが、ようやくジョドーも冷静になった。


「全員、組み直せ! 『決死』だ!」


 ジョドーが不意に部下達に命令を下す。


 アーサとエンジには意味不明だったが、部下達は、二人一組になっていく。


「たった二人相手に、必死じゃないか」


 アーサが呆れた様子を見せる。


「もう挑発には乗らんぞ。──やれ!」


 ジョドーの命令で、二人一組の部下がアーサ達に襲い掛かった。


 殺し屋達は、二人縦に並んで向かってくる。


 一見すると無防備に見える突撃だ。


 アーサが先頭の殺し屋の脇の下に、ドスを突き刺す。


「ぬ、抜けない!?」


 アーサが初めて動揺した声を上げる。


 刺された殺し屋は、ドスを握ったアーサの手首を掴んだまま、死んで動かない。


 その間に、もう一人が、アーサに襲い掛かった。


「なんてね」


 アーサが不敵な笑みを浮かべると、ドスの効果を発動した。


 ドスは、柄と刃の間から黒い光が漏れると刃のように飛び出した。


 闇の刃は、アーサの手首を掴んだ手を、回転して斬り落とす。


 そして、ドスの刀身を闇の刃が覆って剣のような形状になった。


 アーサは闇の刃を翻し、襲い掛かった殺し屋を鎧ごと切り伏せる。


「魔剣!?」


 あまりの切れ味に、ジョドーどころか、隣で戦っていたエンジもこれには驚く。


「若様から貰ったボク専用のドスさ。いいでしょ?」


 アーサは自慢してみせるのだった。



 二人が精鋭部隊を片付ける事により、ジョドーとエンジがサシで勝負できるところまで持ち込む事ができた。


「エンジ、頑張れ~!」


 アーサが気が抜けるような応援をする。


 だが、その姿は、火事で舞い上がる煤で汚れ、戦いのせいでボロボロになっていた。


『屍人会』の精鋭殺し屋部隊も伊達ではなかったという事である。


「うちの部隊をここまで減らしたのは、貴様達が初めてだ。だが、サシなら負けない。貴様を仕留めて、作戦を完遂する」


 ジョドーは、針の剣を構えた。


 エンジは、仕込み剣を逆手に握ると、縦に構える。


 剣先が下だ。


 ジョドーは深く息を吐くと、次の瞬間、目にも止まらぬ突きを繰り出していた。


 エンジはあまりの速さに反応が遅れたが、手首を返す事で仕込み剣の刃を微妙に動かし、剣先を反らす。


 ジョドーの針剣の剣先は、エンジの脇腹を貫くが致命傷にはならない。


 ジョドーが、


「ぎゃっ!」


 と短く悲鳴を上げると、針剣を握った右腕が、肘の下から地面に落ちた。


 エンジは仕込み剣で敵の攻撃を微かに反らしつつ、切り上げると動作で腕を斬り落としたのである。


 ジョドーは、背後に飛び退ると、部下達が急いで立ちはだかった。


「……退くぞ」


 ジョドーが、アーサにほとんど倒され、戦えなくなっている数名の部下に撤退を命令する。


「あれれ? 作戦を完遂しなくていいのかい?」


 疲れ果てて、実はもう動けないアーサが、軽口を叩いて挑発した。


「くっ!」


 ジョドーは悔しそうな表情を浮かべると、部下に守られながら撤退するのだった。

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