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【8巻予約開始!】裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第864話 憤怒ですが何か?

 リューの怒りは相当なものだった。


 バシャドーの街は、それこそまだ、領主就任からそんなに経過していなかったが、父ファーザから与力の自分に与えてくれた大切な街である。


 その街の領民が火に巻かれ、家を失い、もしかしたら命を失う者が出ているかもしれない状況だ。


 領民を家族として大事にするリューにとって、放火は許せないものだった。


「ミナトミュラー子爵! 少し落ち着いてくれ。こいつらは俺が代償を支払わせるから!」


 本来の敵の標的である『バシャドー義侠連合』の大幹部ケンガ・スジドーが、自分も怒り狂っていたのを忘れて、リューを宥める。


 領主に何かあったら問題になるからだ。


「こいつらは僕が落とし前をつけさせる!」


 リューは魔法収納からドスを取り出した。


 得物である『異世雷光いせのらいこう』だ。


 リューはドスを握りしめると、雷が迸る。


 静電気によってリューの赤毛が逆立ち、燃える街を背に憤怒する姿は、まるで不動明王でだった。


「なんだ、このガキは!? 部下共を吹き飛ばしたのはこいつかい!?」


『双刀斬鬼のネイ』は、爆風で転んでいたから、立ち上がった。


「うちの部下共をやってくれたのは、貴様か!」


 同じくマーダも前回に続き、計画を台無しにされた事に怒り、起き上がる。


「三下が吠えるな!」


 リューは一言、告げると、二メートルを超える巨体のマーダの前に一瞬で移動した。


 この技は、豪鬼会のボスだったゴーキの技である。


 マーダは本能的に短剣を身構えた。


 そこにリューがドス『異世雷光』を一閃する。


 マーダの短剣は、金属音を鳴り響かせると真っ二つに折れ、マーダ自身もドスに斬られた。


 刃傷から血を噴出させる。


「グハッ!」


 マーダは名工が作った短剣で咄嗟に防いだ分、即死の傷ではなかったが、それでも致命傷になりうる深い傷を負ってその場に倒れた。


 あまりに一瞬の事で、『双刀斬鬼』の異名を持つ幹部ネイも、一瞬唖然とした。


 だが、慌てて背後に飛んで距離を取り、手にしていた双刀に火魔法を宿らせた。


 魔法剣である。


「火魔法……。という事は、ここ一帯に放火したのは、……お前か?」


 リューは雷を帯びた状態で、ネイに向き直る。


 ケンガ・スジドーは、あまりに一瞬でマーダを倒した新領主に、呆然としていた。


「チッ! とんだ化け物に当たっちまったよ! ──お前は一体何者だい!?」


 ネイは、つばを吐きだして、リューに正体を問う。


「聞いているのはこっちだ。街に火を点けたのは、お前か……?」


 リューは、ギロッとネイを睨む。


「あ、ああ……。ここ一帯は私の役目だったからね。そっちも名乗りな!」


 ネイはリューの迫力に圧倒されながらも、退かない。


「死んで詫びろ」


 次の瞬間、リューがまたも、一瞬でネイの目の前まで移動すると、またもドスを一閃させる。


 ネイは、マーダがやられる瞬間を見ていたから、咄嗟に双刀を交差させて防ごうとした。


 だが、リューのドス『異世雷光』は、双刀を断った。


 ネイの双刀は、かなりの業物で魔剣と呼ばれる類のものだったが、それでも『異世雷光』の切れ味に耐える事ができなかったのである。


 ネイは吹き飛ばされながら無傷だった。


 しかし、絶対的な信用をもっていた愛刀だったから、二本とも簡単に折られて、腰を抜かし、その表情が恐怖に変わる。


 リューが、憤怒の表情そのままに、ドスを再び身構えた。


 その瞬間である。


 ケンガ・スジドーがネイとリューの間に飛び込み、護衛のスードが、リューを背後から羽交い絞めにして止めた。


「主、落ち着いてください! 相手はすでに心が折れています! 捕縛してこの件の責任はきっちり取らせましょう!」


 スードが大声で叫ぶ。


 その言葉でようやく、リューはピタリと動きを止めた。


「ふぅー……。スード君、止めてくれてありがとう……。リーンがいないから、危ないところだった」


 リューは深呼吸すると、体に帯びていた雷も収まる。


「驚いたよ。領主様はとんでもない人だな……。──あっ! あんた、もしや……、いや、今は止めておこう。急いで消火と部下達の治療が先だ」


 ケンガ・スジドーは、リューの化け物のような強さに脱帽するのだった。


「僕達はまず、消火だね。この火の勢いはヤバいかもしれない。延焼を避ける為、周囲の建物は破壊するしかないかも……」


 リューは炎の勢いを危惧する。


 上位水魔法で消火すればいいのではないかと思うが、あれはあくまで攻撃魔法の一つである。


 火事の消火に使用するのはリスクが大きい。


 周辺の領民を巻き込みかねないからだ。


 消火する為の放水魔法は、大した威力はなく、ここまでの大火には焼け石に水かもしれなかった。


「うーん……。どうしたものか……。《《あれ》》を試してみてもいいけど、使用したら反動が大きいのは、以前に使ってわかっているからなぁ……」


 リューは炎に照らされながら、考え込む。


 その間、ケンガ・スジドーは駆け付けた部下に指示をして、負傷者を運び出し、『屍人会』の連中も生存者は捕縛する指示を出した。


 リューが出合い頭に使用した魔法で、かなりの死傷者を出していたからである。


「悩んでいる暇はないな。リーンがいないから、暴発した時が心配だけど、この火事を放っておくと領民の財産と命が守れない」


 リューは相当悩んだ末、決心した。


 スードは何のことかいまいち理解していなかったが、リューが何かとんでもない事をしようとしているのはわかったから、黙って見守る。


「スード君、失敗した時は、僕の事をよろしく。今から、とっておきの魔法を使うよ。なるべく周囲を巻き込まないようにするつもりだけどね」


 リューはスードにお願いすると、膨大な魔力を消費しながら、魔法の詠唱を始めるのだった。

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