第852話 他勢力の抗争勃発ですが何か?
王都から来た金持ちのボンボン扱いされたリュー一行は道案内によって、『バシャドー義侠連合』大幹部の一人で獅子人族の二メートルを超える体躯の巨人、ケンガ・スジドーの活躍の場に足を運ぶ事になった。
現場はバシャドーの裏歓楽街にある賭場。
すでに場は大荒れで、『屍人会』の連中十名程と『死星一家』の十名程が、周囲を巻き込んで大乱闘を繰り広げていた。
目を見張るのは、両組織とも中々の猛者らしい事だ。
止めに入ったバシャドー側の者達が何人も負傷して運ばれていく。
「貴様ら、誰の縄張りで暴れているのかわかっているんだろうな!!?」
現場に駆け付けたケンガ・スジドーが周囲の被害を確認後、怒りを爆発させた。
だが、ケンガの怒声も暴れている連中には、どこ吹く風である。
ケンガは、その大きな体躯からは想像できない速度で暴れている連中に襲い掛かった。
自慢の大きな拳が繰り出され、殴られた者は壁を突き破って吹き飛び、白目を剥いて気を失う。
これには一瞬、暴れていた者達も手が止まり、視線がケンガに向けられた。
「誰だ貴様!? うちと『死星一家』とかいうボンクラ組織の問題に首を突っ込んでいるんじゃねぇ!」
『屍人会』の、こちらもケンガに引けを取らない大男が怒って前に出てきた。
「誰がボンクラだ、コラァ!」
『死星一家』の者達が、反応してブチ切れる。
「そのままの意味だろうが!」
『屍人会』の大男は、背中越しに相手を詰り、視線はケンガに向けていた。
どうやら、ケンガをただ者ではないと感じたようだ。
「それは『バシャドー義侠連合』を敵に回すという事だな?」
ケンガのこめかみがピクリと動く。
「あん!? 貴様ら義侠連合は、うまく立ち回って相手構わず、甘い汁啜っているだけの腰抜けだろうが! そんな時代はもう終わりなんだよ!」
大男はケンガ相手に引く気がない。
もしかしたら、最初からそれが狙いだったのかもしれないと思われる反応だった。
それに対し、『死星一家』の面々は、相手がケンガ・スジドーとわかって、喧嘩していた連中が、幹部と思われる者のところに集まった。
「ヤバいです。ボスから義侠連合とはやり合うな、とお達しがきていますぜ……?」
「……わかっている。相手をするのは『屍人会』の糞共だけだ」
幹部は口元の血を拭って冷静になる。
その間に『屍人会』の者達も大男の下に集まってきた。
どうやら、大男が連中の上司のようだ。
「止めろと忠告したぞ?」
ケンガが、一言告げる。
「はぁ? そんな暇があるなら殴ってきてみろ? 『屍人会』相手に戦争する度胸があるなら──」
大男が最後までいう暇もなく、ケンガの拳が大男の鳩尾付近に入った。
「ぐはっ!」
大男が吐血すると、膝を突く。
「「「この野郎!」」」
他の構成員達は上司がやられた事に怒り狂うと、ケンガに襲いかかった。
ケンガは、大きな体を丸めて踏み込むと、その体を爆発させるように、伸びあがると拳を相手に叩き込んでいく。
あまりの速さに相手は圧倒され、繰り出される強力な拳に、一瞬で気を失い、バタバタと倒れていく。
多分、目が覚めたら前後の記憶が飛んでいてもおかしくない威力だ。
構成員達が返り討ちに遭うと、大男はその間にダメージが回復したのか、立ち上がった。
「……そうか、貴様が有名な『喧嘩屋・スジドー』だな? 俺は『屍人会』幹部、『皆殺しのマーダ』だ!」
マーダと名乗った男は、懐に隠してあった短剣で斬りかかる。
ケンガは、短剣を紙一重で躱して、背後に軽々と飛び退った。
二メートルを超える身の軽さに、見学しているリューも内心感心する。
「……そっちの狙いは何となくわかった」
ケンガは、懐から手甲を取り出して装備した。
どうやら、喧嘩っ早いだけでなく、頭もキレるようだ。
「……どういう事?」
リーンがリューに耳打ちする。
「……多分、『屍人会』は最初から義侠連合とやり合う気でいた、という事じゃないかな? 本部の幹部を送り込んで争いを起こすというのは、そういう事じゃない?」
これまでは、バシャドーの地理的条件からも、お互い問題を起こさない関係を続けてきた。
しかし、『屍人会』がその必要性を感じなくなった、という事だろう。
その理由には、最近の『屍人会』の勢力拡大があると思われる。
『亡屍会』も『新生・亡屍会』と『死星一家』に分裂。
元の半分は『屍人会』に吸収された。
『亡屍会』は同盟組織ではあったが、気を遣う相手ではあった。
ボスが頭のキレるテッドだった事もあり、『屍人会』としては、これまで動きづらいところがあったのかもしれない。
それが無くなった今、方針が大きく変わったという事なのだろう。
「まさか、早速、大幹部の一人が出てきてくれるとは思わなかった。これで、不可侵協定は解消だな」
マーダは、部下達がやられた事を示唆するように、周囲を見渡す。
そこに、ぞろぞろと強面の連中が入ってきた。
どうやら、『屍人会』の援軍のようで、ケンガの部下達が取り囲まれた。
「どうする? 降参するか? まあ、お前の命は保証できないがな。──お前ら、『新生・亡屍会』にも声をかけているから、『死星一家』と一緒にこいつも血祭りに上げるぞ!」
マーダが勝ち誇った様子で、援軍として現れた部下達に命令を下す。
「おめでたい連中だな。うちがそんな脅しに屈するようなら、このバシャドー裏社会は、当の昔にどこかの傘下に入っているさ。──舐めるな!」
ケンガは、マーダを睨みつけると襲い掛かる。
だが、マーダとの間には援軍としてきた連中が間に入って、近づけなくなった。
それでもケンガと部下達は、数で勝る相手に退く事なく、互角に渡り合う。
「どうやら、ここ以外でも、問題が起きているのかもしれないね。ここは義侠連合の縄張り。本来、援軍が先に来るのは、彼らの部下のはずだから」
リューは冷静な分析を行う。
指摘通り、この日は、『屍人会』や『新生・亡屍会』の連中がバシャドーの街に相当な数入り込み、各場所で問題を起こしていた。
つまり、リューが訪れたタイミングで、『屍人会』は『バシャドー義侠連合』に戦争を吹っかけたのだ。
『死星一家』は丁度、その場にいたのできっかけ作りに利用されたという事だろう。
「どうするリュー? 私達も参戦する?」
リーンがワクワクした様子である。
「落ちついて、もう少し様子を見ようか。義侠連合の底力を見てみたいしね」
リューはリーンを宥めるのだった。




