第851話 裏歓楽街ですが何か?
リュー達一行は、バシャドーの街にまた、赴いていた。
前回は、食事をしながら噂話を拾ったりする情報収集が主だったが、今回は積極的に『バシャドー義侠連合』の縄張りにも入っていく予定だ。
リュー達は仮面を付けてお忍び風を装っている。
メンバーはリューの他にリーン、スード、イバルの四人。
ノーマンは、ノーエランド王国での活躍から、休暇を与えている。
「坊ちゃん、あの角を曲がった辺りから義侠連合の縄張りらしいぜ」
イバルが、リューの名前を呼ばず、お忍びの設定を忠実に守っていた。
「うちの連中でも縄張りの中心には入った事がないんだっけ?」
リューは部下達も相手勢力に気を遣い、立ち入っていないという報告を聞いていた。
「ああ。あそこは地元関係者が出入りする裏歓楽街みたいな扱いになっているが、出入り口が制限されている事から余所者が入るとすぐにバレる。うちの関係者を送り込んでバレて揉めでもしたら、街自体の出入りにも支障きたす可能性があるから避けていたんだ」
イバルは西部地方との玄関口であるバシャドーの街は、情報収集の為にも拠点の一つとしておきたい場所だったから、余計なトラブルを起こさないようにしていた。
『バシャドー義侠連合』は特に、裏社会関係者の出入りに対して厳しいから、下手な動きはできなかったのだ。
とはいえ、中立を謳って独自の勢力を守ってきた『バシャドー義侠連合』は、余計な事さえしなければ寛大なのも事実である。
イバルの情報では、この街には『竜星組』をはじめ、『聖銀狼会』、『屍人会』、『新生・亡屍会』、『死星一家』などの大組織の関係者をはじめ、各地の地方組織、各国の間者も出入りしているらしい。
問題さえ起こさなければ、排除される事はないという街なのだ。
「でも、最近、『屍人会』や『新生・亡屍会』が活発になっているんでしょ?」
マスク姿のリーンが、フードで隠れた自慢の耳を生地の上から気にしながら聞く。
「ああ、最近は『死星一家』の関係者も入ってきて、揉めているらしい。まあ、今や、うちと同盟関係になって『屍人会』と『新生・亡屍会』を敵に回しているから当然揉めるよな」
イバルは肩を竦めて見せた。
「それで義侠連合の対応は?」
「喧嘩両成敗さ。問題が起きた時点で、すぐ介入してきてどっちも潰す。そして、街の外に放り出す。もちろん、街の者に被害が出ていたら、賠償金を回収してからだけどな」
「へー、よっぽど腕っぷしに自信がある組織なんだね」
リューは興味を惹かれた。
「まあな。相手が国内最大組織の『屍人会』でもバシャドーの街の中なら、一歩も引かない連中だぜ? 中でも義侠連合の一つ『喧嘩屋義侠団』の代表、ケンガ・スジドーが出てきたら、『屍人会』もビビるって話らしい」
イバルは新たな情報を披露する。
「確か義侠連合は、三つの組織からできていたわよね? 『バシャドー商人護衛連隊』の代表アキナ・イマモリーっていう女性代表も強いんでしょ?」
リーンが前回の情報収集のおさらいとばかりに言う。
「ああ。もう一つが『バシャドー・ガーディアン』の代表エンジ・ガーディーな。こちらは元々バシャドー裏社会をまとめる顔役で、義侠連合のリーダーはこいつじゃないかという話もあるらしい」
「そうなの? 確か義侠連合は大幹部三人で動いている組織で、リーダーはいないはずだよね?」
リューはイバルの新たな情報に疑問を口にした。
「俺もそう思っていたんだが、部下の新たな情報だと、代官が赴任してくるまでリーダーがいた、という噂があったらしい」
イバルも確証を得ていないようだ。
「代官の赴任まで? それはそれで興味深い話だね」
リューが考え込む。
一行は地元の者がほとんどの裏歓楽街と呼ばれる場所の出入り口に差し掛かった。
門があり、そこは開いているが、両端に門番のような男達が立っている。
周辺にも人がたむろしていて、余所者には近寄りがたい雰囲気だ。
リュー達は気にする様子もなく、門を潜る。
「そこのガキ共。見かけない顔だな。どこから来た?」
入ってすぐ、リュー達に気づいた二メートルはありそうな大きな獅子人族の男が、声をかけてきた。
「え? 王都ですけど?」
イバルが声をかけられてビックリという演技をする。
「王都? 金持ちのボンボンか……。──ここがどういうところかわかってきているのか?」
「バシャドーの街の観光名所の一つですよね? 地元の娯楽施設に行くなら、ここだと聞きました」
リューがマスク越しに笑顔で応じた。
「……間違っちゃいないが、娯楽の意味がかなり違うぞ。いや、王都の金持ちなら大丈夫か……。──おい、誰か、この小僧達を適当に案内してやれ」
獅子人族の男は手下に声をかけた。
「いくらですか?」
リューは心得た様子だ。
「初めてみたいだから、一人銀貨一枚でいいぞ。案内役に渡しな」
獅子人族の男は、案内役に顎で指し示す。
リューは懐から出すように見せて、魔法収納から銀貨四枚を案内役に渡す。
そこへ、
「ケンガの旦那! 賭場で『新生・亡屍会』と『死星一家』の連中が喧嘩おっぱじめました! 用心棒では止めきれないので助けてください!」
と急いで走ってきた賭場の従業員らしい若い衆が、助けを求めた。
「わかった! ──お前らは門を固めて、問題起こした連中に逃げられないようにしろ!」
ケンガと呼ばれた獅子人族の男は、あっという間に走って人混みに消えていく。
「ケンガって人……。もしかして、うわさに名高い『喧嘩屋義侠団』の関係者ですか?」
リューは案内役に雇ったチンピラに確認する。
「ああ、そのケンガ・スジドーさんだ。この裏歓楽街の名所の一つが、あの人の喧嘩を見る事だからな。どうだい、案内してもいいぜ?」
チンピラは自分が見たい事もあり、ワクワクした様子でリュー達に勧める。
「それではお願いします」
リューもあの巨体の獣人族がどう戦うのか見たくなり、案内をお願いするのだった。




