第850話 エルフとの共生ですが何か?
ランドマーク本領において、エルフの村の完成とその後方に堂々と育つ千年樹は新たな象徴と言ってよいものになった。
領民達も急に出現した千年樹に興味津々だった事もあり、とっつきにくい存在であるはずのエルフの村に見物に足を運び、親しくなるきっかけになっているようだ。
エルフは従来、外の世界に興味を持たず、外から異文化が入ってくる事にも難色を示す種族である。
だが、戦争で村を焼かれ、魔境の森を横断してランドマーク領に保護される経験は、彼らが考え方を改めるきっかけとなった。
ランドマーク領の領民達はとても善良だったし、何より知識に優れている者が多かったので、エルフ達がイメージする野蛮的な雰囲気が無かったからだ。
これは、領主であるランドマーク家の賜物である。
善政を布く事を当然とし、学校を作る事で自主独立性を図る教育が、領民をいい方向に動かしている。
それがエルフ達にはとても、好感が持てるものだったのだ。
「千年樹はランドマーク領に豊穣の加護を与える事になる。黄竜フォレス様の加護もあるし、この土地は辺境だが、どこよりも栄える事になるだろうな」
リーンの父、エルフの英雄リンデスは、新たなエルフの村の出入り口の傍で、千年樹を見上げながら、領主であるファーザに領地の明るい未来を語った。
「栄えるかどうかは領主の統治能力次第ですよ。土地が恵まれていても、人が災いになる事がある。それが、人の世ですから」
ファーザは慢心する気持ちが全くない。
祖父カミーザもそうだが、冒険者をやっていた事から、自惚れは死に直結すると考えていた事が大きい。
だから、子供達の教育にも色濃く反映されている。
次期領主である長男タウロをはじめ、末娘のハンナまで秀でた能力を持っていても、奢るところがないのは、この親の教育があってこそだった。
その中でも、リューは特異な存在であったが、親としては愛情溢れる子供に育ってくれているだけで満足していた。
「それにしても、カミーザから聞いていたが、リューという子供は、エルフから見ても驚く程の魔力を秘めているな」
リンデスもリューの存在を確認して、目を見張るものを感じていたようだ。
「はははっ。あの子は人一倍家族思いで思いやりのある子です。日々努力を怠らず、自分を高める事を忘れないので、家族の誰もが刺激を受けていますよ」
父ファーザは自分の息子が英雄リンデスに注目されて嬉しそうである。
「うちの娘が自慢するのもよくわかる。ところで、うちの娘はどうだ? カミーザに聞いても要領を得なくてな」
リンデスは、家を飛び出して外の世界で頑張っているリーンの事を、実はかなり気にしているようだ。
「リーンちゃんは、家族の一員ですからね。リューのもとでよくやってくれています」
父ファーザは笑顔で答える。
「いや、そういう事ではなくて、だな?」
リンデスはこのファーザもそういう話に疎い事が、この返事でようやく理解した。
カミーザも息子のファーザも、そういう意識がなさそうだ。となるとリーンの嫁姿は見るのは少し先かもしれん……。
父親としてはリューとリーンの関係を知りたかったのだが、この反応だと近すぎてそういう関係ではないようだと納得するしかないのだった。
「リーンのお父さん、かなりの魔力の持ち主だね」
リューは『次元回廊』で王都の自宅に戻ってきていた。
イバルやノーマンは他の仕事があったので別れると、護衛のスードも休みを与えた。
「パパは弓の名手で村一番の魔法使いでもあったから、当然よ。それまでの千年樹の育成もパパが中心になって魔力を注いでいたわ。これからはランドマーク家との協力で育てていく事になるみたいだけど」
「千年樹かぁ。確か、端々の枝なんかでも、縁起がいいんだっけ?」
「うん、魔力の込め方で加護の付き方が変わってくると言われているから、どうなるかはこれからのランドマーク領の様子から判断する事になるわね」
「ちなみに、前の千年樹の時はどうだったの?」
「当然だけど、森の繁栄の加護だったわ。エルフにとって、精霊が住みやすい環境を作り、その恩恵に与って生活するのがこれまでの生き方だったから」
「へー。──まあ、どちらにせよ、ランドマークの領民とエルフ族が仲良く暮らせる領地になれば、問題はないね」
「そうね。保守的なエルフにとって人と暮らすというのは、結構難しい事なのだけど、ランドマーク領の領民は優しく、気遣いの出来る人達で、エルフに対する偏見もないから大丈夫だと思うわ」
リーンは初めてランドマーク領に来た時の事を思い出していた。
エルフの存在が自体が珍しかった中、リューと一緒に防壁整備をコツコツと行っていた事で、領民からは好感を持って歓迎され、リーンも家族の一員として温かく迎え入れられた経緯がある。
その意味では、リーンがエルフの印象を良くしたお陰で、移住してきたエルフ達に、領民達は偏見なく歓迎できたのだった。
リーンがそれを自分のお陰だと思っていないところが、リューは「リーンらしいなぁ」とほのぼのする。
二人がリビングで寛いでいると、部下から報告がやってきた。
「若、新領地となるバシャドーの街に、新領主任命の報が正式に届きました。それでマイスタの街に早速、バシャドーの街の組合組織から使者が派遣されたようです」
「「組合組織から使者が?」」
リューとリーンは首を傾げる。
マイスタの時はそんな事はなかったので、想像ができない。
「現地事務所の者からの報告だと、就任祝いと就任後、各組合組織との会合をお願いする使者だろうとの事です」
「マイスタの街の時はそんなのなかったけど、大きなところだと色々あるのかもね」
部下の報告にリューが納得する。
「就任前から、そこまで気を遣うとか、大きな街の組織は厄介そうだね。それに、裏社会の『バシャドー義侠連合』だっけ? あそこも、どう付き合っていくか難しいところだし……」
今のところ、現地に直接行って情報を集めたり、部下に報告させてはいる。
しかし、あまり派手に動くと『バシャドー義侠連合』を刺激するかもしれないと、現地の部下から危ぶむ指摘があった。
「独自の勢力で街を治めているから、こっちの間者の動きも筒抜けの可能性はあるかもしれないわ」
リーンも注意を促した。
「とりあえず、使者が来てから対応を考えようか。就任まであと一週間はあるんだし」
リューはその間に、さらに街の情報を集めたかったので、また、バシャドーに行ってみるのだった。
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