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第843話 最悪の噂話ですが何か?

 リュー一行は、大通りから一つ内に入った通りの食堂に立ち寄った。


 大通りは、旅人や商人を相手にしたお店が多かったからだ。


 地元の人間はそれを避けて、人通りの落ち着いたお店で食事をとっているようだった。


「いらっしゃい、坊ちゃん方。地元の学生ではないみたいだけど、王都に行く途中かい?」


 食堂の店主の男は、リュー達を一目見て、余所者だとわかった様子である。


 やはり、毎日、余所者が王都を目指して立ち寄る街だから、雰囲気だけで地元民との見分けができるようだ。


「ちょっと違うけど、この街に来るのは初めてなので、おすすめ料理とかありますか?」


 リューは笑顔で応じる。


「そうだなぁ。この店のお勧めは、肉饅頭かな。使用している肉から他所とは違うから、一口食べると肉汁が溢れてきて、虜になる事請け合いよ。店特製スープに浸して食べるというのも、地元の連中がよくやっているかな」


 店主はメニューを指差した。


「坊主達、店主のお勧め通り、この店に来たら肉饅頭と特製スープを頼みな。これ以外は食えたもんじゃないからな! はははっ!」


 店の常連と思われる男が、自身もそのセットを食べながら笑う。


「風評被害は止めてくれよ! ──うちはそのセットが人気があり過ぎるだけさ。それ以外も美味しいが、なぜかみんな、セットに落ち着くんだ」


 店主は常連に文句を言いながら、笑ってリュー達に向き直った。


「じゃあ、全員分の肉饅頭とスープをお願いします」


 リューは笑って、店主に注文するのだった。



 リュー一行は美味しい肉饅頭を頬張りながら、店内のお客達の会話に聞き耳を立てていた。


 特に、エルフであるリーンは能力もさることながら、元々耳がいい種族という事もあり、店内の会話は筒抜けだった。


「聞いたか? 代官がこの街を去るらしいぞ?」


「どこの情報だよ。伯爵が降爵されて、王家直轄地になったばかりじゃないか。代官がいないと、この街道の街は回らないぞ?」


「それが、新領主がやってくるとかなんとか……」


「おいおい、下手な事を言うもんじゃないぜ? 今、『バシャドー義侠連合』がピリついている時期だからな。この街は国の要所という事で、王家直轄地になった今、そう易々と余所者の貴族に任せるつもりはないと思うぞ?」


 商人風の姿をした男達は、店の片隅の席でひそひそと話し始めた。


 リーンが、聞こえてきた事をリュー達に、小さい声で一言一句間違えずに伝える。


「義侠連合が? 何かあったのか?」


「馬鹿、今、周辺の大組織がこの街の裏社会に進出しようとしているって噂知らないのかよ? そっちの適当な情報と違ってこっちは、義侠連合大幹部、アキナ・イマモリーさんの部下から聞いたから間違いない」


「アキナ・イマモリーって、元『バシャドー商人護衛連隊』隊長のか!?」


「大きい声で口にするな……! ──いいか? 義侠連合に統一されたとはいえ、組織は三つに部門分けされているから、元じゃないんだよ。それに、アキナさんは耳がいい人だから、変な噂を立てたらすぐに《《これ》》だぞ?」


 男は首を掻っ切る素振りを見せる。


「おっと……、いけねぇ……。あの女隊長さん、ファンが多いんだった……。──それよりも、この街はこれまでずっと中立を保ってきたのに、急にどういう事だ?」


「わからねぇ。王都から代官が派遣された辺りから、きな臭い話ばかりだ」


「そういや、そうだった。義侠連合は代官赴任からいろんな噂が出ていたよな? これまでは領主と義侠連合はいい関係だったのに、急に内部で揉め始めたって話だし……」


「義侠連合自体は揉めてないって。揉めたのは代官との間さ」


「代官と?」


「ああ。俺もよく知らないが、代官が義侠連合からお金を受け取っても、話を聞かなくなったって話さ」


「それって、良い事じゃないのか?」


「表向きはな。だが、どうも、代官がどこかの裏組織勢力の片棒を担いでいるんじゃないか、って言われているらしい」


「その代官が去るなら都合がいいんじゃ……、あっ! 新領主は代官と同じか、それよりももっとヤバい奴の可能性が高いって事が予想されるのか? それなら……、義侠連合は今以上に都合が悪くなるからヤバいと考えているわけだな……?」


 代官異動の情報を口にした男は、ハッとして口を閉ざす。


「それはわからないが、ただでさえ、外部の組織にここを狙われているうえ、代官にも悩まされていたのに、新領主がくるなんてデマが流れたら大ごとだろう?」


「……でも、この情報。王都のキングーヌ商会関係者から聞いた話だぜ?」


「王家御用達商会の!? 何でそれを先に言わないんだ……! えらいことだぞ……。アキナさんに知らせた方がいいかもしれない。──店主、勘定を頼む!」


 商人風の男二人は、席を立つと精算を済ませて店を出ていくのだった。



「……赴任前から新領主情報が届いているじゃん」


 リューが眉間にしわを寄せた。


「それよりも、この街を狙う外部の大規模裏組織って、『屍人会』や『新生・亡屍会』の事じゃないの? イバルが言ってた噂が本当だったって事でしょ?」


 イバルが以前、リューに報告していた噂が事実らしい事に、リーンが驚く。


「うちでも未確認の情報なんだが、地元の人間が話しているって事は、事実の可能性は高いかもしれないな……」


 イバルも根拠のある情報ではなかったので、言葉を慎重に選んだ。


「うーん……。『竜星組』の僕が新領主になると、この街の裏社会では角が立つうえ、『屍人会』、『新生・亡屍会』と抗争の可能性まであるとしたら相当大変じゃん……」


 リューは前途多難な状況に、頭を悩ませるしかない。


 なにしろ、ノーエランド王国にもミナトミュラー家として領兵を派遣する予定だし、帝国領内にも現在、部下を出して情報網を構築中。


 狼人族による組織も形成中だから、人もお金も沢山いる状況である。


 さらに、バシャドーの街を統治するうえで、人材を探さなくてはいけないのに、裏社会では『屍人会』と『新生・亡屍会』と揉めるかもしれないのだ。


 加勢する事でバシャドー義侠連合に恩を売るチャンスとも言えるが、敵はエラインダー公爵を背景とする国内最大組織だから、多少の被害どころか、こちらが全滅する可能性も帯びてくる。


 さらにその抗争次第では、新領主であるリューの統治力の無さとして信用問題にも関わってくるから、表も裏もリューの尻に火が付く可能性を帯びているのだった。

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