第840話 心強い同盟ですが何か?
リューの思惑を見透かしたのか、それとも『屍人会』に自分の留守の間に、『亡屍会』の一部を奪われた事で方向転換しただけなのか、会長であるテッドは、尋問相手であるマルコの部下に取引を持ち掛けてきた。
それは、リューが想像した通りの展開になった。
いや、テッドもリュー同様、現状で今やれる事を考えた結果、最良の判断が同じだっただけなのかもしれない。
テッドは、『竜星組』に同盟を申し込んだ。
それも、対『屍人会』同盟である。
つまり、表だって『エラインダー公爵』に敵対するという事を鮮明にするものだった。
リューはテッドをどう口説こうかと考えていた最中だったから、これは嬉しい申し出である。
ただし条件もあり、『亡屍会』を裏切り、『屍人会』に寝返った組織の殲滅に手を貸す事が、条件となっていた。
これにはマルコだけでなくリューも眉をひそめる。
そもそも、テッドは『竜星組』に拘束されている身であり、注文を付けられる立場ではない。
それに、資金力がある『亡屍会』、それもこの頭のキレるテッドの力を付ける為に、協力するのは危険しかないからだ。
「自信があるのは大いに結構だけど、足元が見えていないのは頂けないな」
リューはマルコにそう伝えるように告げた。
テッドは、未だ、ボスがランスキーだと思っていたから、交渉の余地があると考えていたようだったが、想像していたのと反応が違ったので少し困惑した。
「……『竜星組』のボスはランスキーじゃないのか?」
地下の牢屋に拘束されているテッドは、訪ねてきたマルコに直接質問をぶつけた。
「誰がそんな事を言った? そもそもランスキーは『竜星組』と関係ないぞ」
マルコは嘘を言っていない。
ランスキーは表向き、ミナトミュラー家の臣下として、マイスタの街を治める為に働いている立場だからだ。
『竜星組』の組長代理がマルコであり、その上に上司としてランスキーがいるが、直接的に『竜星組』は指揮していないから、関りは否定できた。
テッドは散々分析してきたマルコの嘘を見抜こうと、目や口元などの微細な動きから嘘を見抜こうとじっと見つめていた。
だが、嘘ではないようだと判断するしかなかった。
「……俺とした事が……、まさか、別にボスがいるとは……な。──くそっ! 焼きが回ったもんだ」
テッドは自分の分析能力には余程自信があったのか、あからさまに落胆した。
「落ち込むのは勝手だが、貴様は捕虜の身だ。首が胴体から離れるかどうかの瀬戸際だぞ」
マルコは淡々と脅しをかけた。
いや、マルコの細い目が、冗談ではない色を見せている。
「……本気のようだな……。──……わかった。そっちの条件を飲もう。何が望みだ? 残った『亡屍会』を傘下に入れる事か? それとも吸収して消滅させ、『竜星組』の名を全国に轟かせる事か?」
テッドは諦めた様子を見せた。
「まだ、自分が助かると思っているだろう?」
マルコが細い目をさらに細くして、テッドを見つめる。
睨む、ではない。ただ見つめている。
それも、テッドの奥底が凍えるような冷徹な視線で、である。
テッドはそこで初めて、ゾッとした。
マルコという男を見誤っていたと感じたのだ。
もしかしたら、この男が本当のボスなのではないかと思う程にである。
マルコも『闇組織』のボスを務めていた男だから、テッドよりもボスの風格はあった。
イル・カモネ時代の冷酷なキャラはリューの部下になった時点で捨てていたから、本人も久し振りにその雰囲気を出した。
「すまなかった……。本当にこちらの負けだ。駆け引きは無しでそちらの条件を教えてくれ。残った部下達もそちらの傘下に入るように説得してもいい。そのあとで俺の首をそちらに渡す」
テッドは、マルコが『竜星組』のボスだと確信して、完全に屈する事を誓う。
「ならば、『亡屍会』の看板を下げてもらう。その上で、新たな看板を立てろ。そうだな……、以前の名前は完全に死に、新たな星と掲げる……。──『死星一家』にでもしろ。そのうえで『竜星組』と、同盟を結んでもらう」
「看板はそれでいいが、俺達はそちらの傘下に入るんじゃないのか?」
マルコから容赦がない誓いをさせられると思っていただけに、テッドは驚きを隠せない。
「うちのボスが、対等な関係をお望みだ。テッド、俺ごときに気を取られていると、また、足元を掬われるぞ。ボスはお前を高く評価している。だが、裏切りを許さない人だ。気をつけておけ。──それと、看板を下げた時点で、さらに『屍人会』に人は流れるだろうから、今後の組織運営は大変だぞ」
マルコは、リューとテッドの格の差を示しつつ、自分と対等な扱いをする事で、同盟者である事を確認した。
「……それは、大丈夫だ。うちの組織は、俺が死んだ時、遺産が部下に分散して入る仕組みにしているが、俺は生きている。裏切った連中は何も手にせず、『屍人会』に寝返っただけだから、今後、裏切りが出ても、資金と忠実な部下が残っていればあとは何とでもなるさ」
テッドは、いつもの調子を取り戻してニヤリと笑みを浮かべる。
そして、マルコが手を差し出すと、その手を握り、『竜星組』と『死星一家』の同盟が結ばれるのだった。
「さすがマルコだね。厄介な相手だったテッドを手懐けちゃったよ」
リューは報告を聞いて、笑顔になる。
頭脳派のテッドは理詰めで攻めたうえに、格の差を示して納得させるのは大変だろうと考えていたからだ。
だが、イル・カモネ時代の自分を出す事で説得できたというから、マルコはまた、一皮剝けたと言っていいだろう。
「でも、テッドが『死星一家』に改名しても、『亡屍会』の看板のまま、独立した幹部連中がいるのでしょ?」
その後、テッドに従わず、『亡屍会』のまま反旗を翻した幹部達がいた事をリーンは指摘した。
これはリューも予想していた事なので、驚きはない。
だが、『死星一家』は、『亡屍会』の元の大きさの四分の一になってしまった。
だが、報告では、テッドのもとにある資産は相当なものらしく、すぐ回復させると本人は自信満々らしい。
ちなみに、その直後、テッド自慢の幽霊商会を利用する商売は、サン・ダーロ率いる『サンドラ商会』に水面下で動かれ、いくつも潰されて大損害を受け、慌てる事になった。
もちろん、リューが急いで止めた事で、被害もすぐに収まるのだったが、テッドは泣き面に蜂という状況で、『死星一家』の舵を取る事になるのだった。
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