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第839話 大組織の動きですが何か?

『亡屍会』のボス、テッドの捕縛によって、組織も終わりかと思われた。


 しかし、ここでテッドの智謀が発揮された。


 というのも、『竜星組』とシシドー一家によるボス不在の『亡屍会』本拠点の攻撃は、まんまと躱される事になったからである。


 ボスのテッドは、自分が王都に自ら出向くにあたって、万が一の為に拠点を密かに動かし、他の支部事務所などには罠を張り、もしもの為に万全の備えを行っていたのだ。


 お陰で『亡屍会』の反撃に遭い、『竜星組』とシシドー一家は、少なからず負傷者を出した。


 『竜星組』は、『亡屍会』に打撃を与える事が目標であったから退かず、大きな抗争に発展しそうな様相を呈した。


 しかし、これも、テッドが準備していた策なのか、エラインダー公爵の完全な支配下にある『屍人会』がタイミングよく介入してきた。


 これにはさすがのマルコも、独断で二つの巨大組織を相手にするわけにいかないので、撤退を判断する。


 シシドー一家はこのまま戦う事を主張したが、リューからも撤退命令が下った事で、渋々了承。


 全面抗争になる事なく両者、矛を収める事になるのだった。



「こちらも準備万端のつもりで攻撃させたのに、『亡屍会』はボスがいなくても動ける組織だったわけか……。それに、『屍人会』まで動かれたらこちらは手も足も出ないよ」


 マルコからの報告を聞いたリューは、自分の作戦が甘かった事を認めた。


「若の作戦は『亡屍会』単体に対して十分機能していました。シシドー一家との連携もよかったですし。ただ、テッドという男の用心深さが異常だった、のかと……」


 マルコは攻撃隊を率いた者として、現場での感触をそう表現した。


「そのテッドは、今、ランスキーの部下が相手しているけど……。──マルコが引き継いでくれるかな? 情報を引き出すのはマルコの部下の方が上手いだろうから」


「どのくらいの加減でやりますか?」


 マルコは、名誉挽回とばかりに、命令なら徹底的にやりそうな雰囲気だ。


「うーん……。あまり、やり過ぎない程度で。情報を引き出せれば、無闇に傷みつけなくていいよ。ただし、今後の危険になるようなら、その時はその時でお願い」


「承知しました」


 マルコは頷くと遠征の疲れも口にせず、本部事務所に向かうのだった。


「シシドーも本領を発揮できずに撤退だから、不満は残っているだろうなぁ」


 半端な結果に、リューは苦笑するしかない。


「シシドーは大丈夫よ。リューに文句を言うくらいなら、自分達の不甲斐なさを反省して部下の強化に励むタイプじゃない?」


 リーンは魔境の森帰りのシシドーを思い浮かべると、性格を指摘した。


「そうかな? 一応、あとで顔を出しておくよ。まあ、『亡屍会』のボスを捕縛できたから満足かな」


 リューも出来過ぎな結果だったから、あまり贅沢は言わない事にした。


 そもそも、『亡屍会』は、以前に潰した『屍黒』と違い、資金力にものを言わせている組織であり、潰すのは大変だと考えていたのだ。


 ボスであるテッドも慎重な男だったから、いざ抗争になれば、泥沼の戦いになる事も想定していた。


 しかし、慎重な反面、大胆な行動を取る人物だった事が災いして、リューに捕縛された。


 リューとしては、ボスを捕らえれば組織はどうとでもなると考えていたが、『亡屍会』は特殊だった。


 テッドは尋問中だが、得た情報だけでも、緊急時の行動マニュアルを用意し、それと共に独自に動く幹部を教育していたのだ。


 お陰で反撃を喰らったうえに、『屍人会』が援軍としてすぐに駆け付ける事態になったのである。


 それにしても、『屍人会』の援軍は早過ぎた。


 多分、王都潜入組が捕縛された時点で、『亡屍会』幹部が援軍要請をしていたと思われる。


 そのくらい早い段階で、裏で動いていたと思われる援軍だった。



 マルコにテッドの尋問を任せて、三日目。


 学園から帰宅し、マイスタの街長邸に顔を出したリューに報告がいくつかあった。


 その一つは、『亡屍会』の半分近くが、『屍人会』へ鞍替えしたというものである。


 これは、午前中にマルコのもとにいち早く届いたそうだが、リューは授業中だったので、帰宅まで報告を待った。


 学園に知らせても迷惑なだけだし、知らせたところで結果は変わらない情報だった事もある。


 さらに、もう一つの報告は、マルコがその情報を基に、テッドに尋問を行った事だった。


 マルコは元『闇組織』のボスとして自分の留守の間に、組織の一部を同盟相手に盗まれたら、はらわたが煮えくり返る思いをするだろう、と想像できたのである。


 これは、とても効果的だったようだ。


 テッドは最初、その場で『屍人会』のボス、ヒューマに対し、呪いの言葉を散々吐き散らした後、裏切った幹部組織や自分が知り得る限りの情報をべらべらと話し始めたからである。


 どうやら、身内の裏切り行為は、知恵者のテッドも想像していなかったようだ。


 テッドの話では、『屍人会』はエラインダー公爵の裏仕事をする組織になっているらしい。


『亡屍会』はエラインダー公爵の傘下に入ってはいたが、それも自由意志であり、テッド曰く「『屍人会』程、魂は売っていない」という事だった。


 だが、幹部の一部がその『屍人会』に買収されていた事に、とても腹を立てていた。


「そういえば、『骸』のボス、バンスカーらしき人物は、『屍人会』や『亡屍会』関連の商会をサン・ダーロの『サンドラ商会』が潰す事を喜んでいる節があったよね?」


 リューはふと、『屍』から分裂した四つの組織の関係性について、頭の中で勢力図を描いた。


 すでに『屍黒』はリューが滅ぼしたが、ボスであるブラックは、自分の欲に忠実でエラインダー公爵を毛嫌いしていたようだった。


『屍人会』は完全にエラインダー公爵の支配下になっているが、『亡屍会』は傘下に入っても、気に食わなければ独立するくらいには、ボスのテッドが自由に差配していたようである。


 最後に組織された『骸』は、多分、バンスカーに忠実な組織として結成されている。


 つまり、バンスカー死亡説が浮上後の組織は、エラインダー公爵が『屍人会』を作らせて『屍』の組織の一部を奪い、『亡屍会』も傘下に収めた。


『屍黒』はそれを嫌って独立後、ボスの敵討ちとばかりに、王都裏社会に宣戦布告したが、リューの謀略により、王国まで敵に回す事になって滅びた。


 今、『亡屍会』の一部が『屍人会』に奪われたという事は、テッドを説得できる材料が転がっている事になる。


 さらに、自分が築き上げてきた『屍』が、対等の同盟者であったはずのエラインダー公爵に、勢力の半数以上を奪われた形のバンスカーも、恨みがあるのではないか?


 リューはそこまで考えると、対エラインダー公爵で同盟が築けるのではないかと頭を巡らせるのだった。

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