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第838話 魔法対決ですが何か?

「水魔法? ──確か『竜星組』の構成員には、子供がいるらしいという情報があったが、そいつらか」


『亡屍会』会長テッドは、馬で駆けながら敵に迫られているにも拘らず、慌てる様子はない。


 それどころか、集めた情報から、分析する余裕さえあった。


 追手の五名は、こちらの火魔法に驚いて一旦停止したが、子供二人とエルフ一人が新たに追手に加わると、そのあとを追うようにまた、走り出した。


「数が増えたが、俺の魔法は火属性だけじゃない」


 テッドはまた、走りながら後方に手をかざすと、今度は水魔法の反属性である土魔法を繰り出した。


 巨大な岩の塊が、追手のリュー達を襲う。


 すると今度は、土魔法の反属性である風魔法をリーンが繰り出す。


 無詠唱で放たれた風の刃が岩の塊をあっさりと砕いてしまった。


「なんと!? ──チッ。精鋭を俺の追手に寄越していたわけか……。『竜星組』の真のボス、ランスキーはそこまでキレる人物だったか……。だが、これならどうだ!」


 テッドは、逃げ切れないと思ったのか、手綱を牽いて馬を止める。


 そして、詠唱を始め、両手をリュー達に向けた。


 すると、手から雷が迸り、追手を襲う。


「俺は全ての属性魔法を使えるのさ!」


 テッドはとっておきだった雷魔法を使用して勝利を確信する。


 だが、先頭を走っていたリューが、無詠唱で同じく雷魔法を発動した。


 それも、テッドが繰り出した威力の数倍上の魔法である。


 リューの雷魔法は、テッドのものを飲み込むと、威力が増してテッドの横を紙一重で通過し、地面を抉り焦がして消滅した。


「なっ!? くそっ! やるな! だが、俺は全ての属性と言ったぞ!?」


 テッドは、リューの魔法の威力に驚きはしたものの、怯む事無くさらに魔法を発動する。


「俺の光魔法を喰らえ!」


 無数の光の矢が、リュー達に降り注ぐ。


「光魔法まで!? やるね!」


 これにはリュー達も馬を止めて、防御に回る。


 リューは上位の土魔法に鉄の壁で光の矢の攻撃を全て防いで見せた。


 光の矢は磨き上げられた鉄の壁に跳ね返される。


「鏡の反射のような使い方を!? だが、これはどうだ!」


 今度は闇魔法をテッドは発動した。


 リュー達の足元が闇に包まれる。


「目隠しの靄を足元に?」


 これにはリューも思わず疑問を口にした。


 闇魔法の初歩で、通常、相手の顔辺りに靄を発動して視界を奪うものだからだ。


 だが、次の瞬間、その理由がわかった。


 リュー達の足元が不意に柔らかくなり、地面に飲み込まれたからである。


「闇魔法と土魔法の組み合わせ技か!」


 リューが感心していると、テッドはその間に馬に飛び乗る。


 どうやら、足止め用の魔法だったようだ。


「でも、そんな事では僕達は止められないよ」


 リューが意味ありげに、告げた。


 すると、リーンが水魔法を発動し、頭上から大量の水が発生させ、テッドに降り注いだ。


 これには、テッドの乗っていた馬が驚いてテッドを振り落とした。


 水の上に落ちたテッドが立ち上がると、今度は、リューが魔法を発動する。


 テッドのひざ下まである水が、一瞬で凍り付いた。


 リューは氷魔法を使用したのだ。


 ちなみに、氷魔法は雷魔法や植物魔法と一緒で特殊な部類の魔法である。


 使用するには天性の魔法スキルが必要になるが、リューは努力でそれもカバーしているのは、昔、本領の豊穣祭の屋台でかき氷を出した時点で示していた。


「俺と同レベルの魔法を使える奴が『竜星組』にもいたのか!」


 テッドは驚きを隠せず、難敵であるリューを睨む。


 だがそれと同時に、火魔法で氷魔法を溶かす事も忘れない。


 しかし、リューはその時間を与えるつもりはなかった。


 足に、土魔法で鉄のスケートを作ると、氷の上を滑って接近する。


 この国ではアイススケートの概念はないから、これにはテッドだけでなく、リーンやスードも驚いた。


 テッドは、片方では氷を溶かす火魔法を、もう片方ではリューを返り討ちにする為に水魔法を発動した。


 氷の上を勢いよく滑って迫るリューに、水の矢が襲う。


「それは悪手だったね」


 リューは一瞬でその水の矢を氷魔法で氷漬けにすると、氷の矢になった魔法は、その場に落ちてしまった。


「しまった! 焦り過ぎた!」


 テッドは慌てて、今度は火魔法をリューに発動した。


 だが、リューは勢いそのままに、火魔法ごとテッドの首にラリアットを入れるのだった。



「熱い! 熱い!」


 火魔法に突っ込んだ形のリューは、服や髪に引火していた。


 すぐさま、リーンが水魔法で、燃えるリューを消火する。


「ありがとう、リーン」


 リューは、びしょ濡れ状態で感謝すると、氷の上で気を失っているテッドの捕縛をあとから追ってきた部下に任せた。


「この男が『亡屍会』のボス、テッドか。顔を知っているクーロンの特徴通り、水色髪に黒い目、身長や体格からも本人みたいだね」


 リューはテッドの目を指で開いて確認した。


「全ての魔法を使用できるというのは、イバルより凄いみたいだけど、器用なだけの気もするわね」


 リーンが意外に楽勝だった事から呆れた様子を見せた。


「このテッドの本領は、分析力と作戦の立案を得意とする頭脳だろうね。『亡屍会』は幽霊商会を利用してお金や物を動かすのに長けていたみたいだし。それに、今回は正直、正体がバレるかと焦ったよ。こういうタイプは、ちょっと苦手かな。ノストラとはまた別のタイプの頭脳派だね」


 リュー個人は、過去一番で警戒した相手だった事を明かした。


「そうね、これまでで一番、リューの正体に迫ろうとした相手だったのは確かね。あっ、『亡屍会』の本拠点を攻めているマルコ達はどうするの?」


「それはそのまま、続行だよ。ちなみに、場所が南部に近いからシシドー一家にも念の為動いてもらっているからね。『亡屍会』も思わぬ挟み撃ちに今頃、慌てていると思う」


 リューはニヤリと笑みを浮かべた。


 これにはリーンとスードも驚く。


 二人も知らされていない事だったからだ。


 どうやら、誰にも知らせず、『次元回廊』で南部に行くとシシドーに直接命令を下していたようである。


「呆れた! 私にも内緒で動くなんてずるいわよ!」


「一応念の為にね? テッドの監視がどこまで迫っているのかわからなかったから、極秘裏に動くしかなかったんだよ。まあ、結局はランスキーを真のボスだと勘違いしてくれてたわけだけどさ」


 リューは安堵する。


「それで、このテッドはどうするの?」


 リーンは、呆れた様子のまま、巨大組織のボスの扱いを問うた。


「とりあえず、ランスキーに任せるよ。『亡屍会』の組織の全容も知りたいし、エラインダー公爵や『屍人会』、『骸』との繋がりも吐かせたいからね」


 リューは現実的な問題を口にすると、『次元回廊』を開いて『竜星組』本部事務所にテッドを連行するのだった。

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