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第835話 一掃しましたが何か?

 一般に飲み屋や集会所など人が集まるところというのは、情報集めにはもってこいの場所である。


 特に、夜のお店というのは、綺麗な女性従業員のお酌で美味なお酒に酔いしれられるから、舌も滑らかになり、大事な話もしてしまうので、情報が集めやすい。


 だから、他所の間者という者は、自然と夜のお店に集まってくるのだ。


 リリス・ムーマはそれを逆手にとって、ゴキブリホイホイのように使用した。


 情報を集めている最中の間者程、隙が多い。


 特に酔っ払って大事な情報を話している者から、聞き出す事程、楽で効率がいいものはなく、それこそ酔っ払いをチョロいと見下している瞬間だから、間者の方も無防備だったのである。


 リリス・ムーマはそれを利用して無血で最大の成果を上げた。


 『亡屍会』の間者達はまんまと捕縛され、各店舗の地下室で待機していた『竜星会』の者達に引き渡した。


 そこで拷問を受け、長い夜を体験する事になった。



「リリスの『星夜会』は凄い成果を上げたね」


 翌日の朝、報告を受けたリューは、感心していた。


『星夜会』はあくまでも夜のお店で働く従業員達の為の、自助会に近い組織だと思っていたのだ。


 それがまさか、『竜星組』が手を拱いていた『亡屍会』の間者を一気にまとめて拘束してしまったのだから、これにはマルコも舌を巻く。


 ただ、マルコの直属の部下で『屍黒』の大幹部出身であるクーロンは、リリス・ムーマの実力をよく知っているから、驚く様子はない。


「それで、その間者や、うちの関係者は何か吐いたの?」


 リューは『竜星組』直系の構成員が関わっていた事に、嘆息した。


「はい。奴ら、一網打尽を避けて、ひとグループ四人で行動していたようです。捕縛した連中は、各グループの情報収集担当だったので、夜明け前にルチーナの総務隊が各拠点を襲撃しています。すでに、拘束した連中は『竜星組』本部事務所の地下に収容しており、尋問が続いています」


 マルコは口頭で最新の情報を伝える。


「……そっちは任せるよ。それでうちの構成員は?」


 リューにとって家族と言っていい部下の裏切りは、特に気になるところだ。


「先程報告を受けた時点では、うちの拷問部隊を見て全てを察したのか、顔を青ざめさせて、『商会長が亡屍会関係者とは思ってもいませんでした! 若の顔に泥を塗る事になってすみません、ですが、『竜星組』内部の機密情報は口にしていません! 信じてください!』と泣きながら謝罪していました。商会長《亡屍会》からお金も受け取っていたのですが、そちらは出来心だったようです」


「……どう思う?」


 リューも部下の初めてと言える大きな失態だったので、マルコにその裁定内容を問うた。


「本人は『責任を取るので死なせてくれ』とも、口にしています」


「外に漏れた情報の具体的な内容は?」


「同期で出世した幹部構成員の名前を自慢してしゃべってしまったようです」


「以前、刺された?」


「はい、ですがそれも一人だけでして。他の刺された連中は、別の関係者から情報が漏れたようです。私を狙った刺客については、やはり、会談場所を設けた『月下狼』の部下から漏れたものかと……。あっちも昨夜、うちと同じく間者の炙り出しを行ったはずなので、報告待ちです」


「……幸いうちは死人が出ていない。マルコも紙一重だったけど無事だから、その構成員が死ぬ必要はないよ。ただし、破門だよ。その後の仕事の斡旋は総務隊に任せる」


「……いいんですか?」


 マルコがリューの寛大な措置に、疑問を呈す。


 少し間違えれば、リューの正体が『亡屍会』に暴かれていたかもしれないのだ。


 死の制裁を持って直属の部下達に示しを付ける必要がありそうだった。


「愚問ね。リューにとって、家族の事よ? 死で代償を払わせる行為は、家族を死なせるような行為を行った時だけ。破門は温情ではあるけど、次はないという警告。マルコもわかっているでしょう?」


 リーンがリューに代わってマルコに答えた。


「姐さん失礼しました。──そして、温情ありがとうございます……。今回、失態を犯した構成員は、『闇組織』時代からの古参で、信頼していた部下だったのでありがたいです」


 マルコは、リューとリーンに深々と頭を下げる。


 今回の失態の責任は自分にあると思っていたから、厳しい処罰で臨むつもりでいたのだ。


 マルコとしては前世でいうところの『泣いて馬謖を斬る』という心境だったかもしれない。


 主であるリューの為、組織を預けられている者の責任として、可愛い身内も心を鬼にして切り捨てる覚悟を密かにしていたのだった。


「日頃お世話になっているマルコに、余計な責任は負わせられないよ」


 リューは笑顔で応じる。


 どうやら、マルコの気持ちを察していたようだ。


 リーンもそれは同じだった。


「マルコ、私達の敵は『亡屍会』よ。大事な味方を殺す暇があったら、敵を減らす努力をしなさい。リューの正体を暴こうとした時点で、手加減の余地は最早、皆無よ!」


 リーンはリューの正体に迫った『亡屍会』の刺客と間者に、容赦しない事を宣言する。


「他にも捕らえ損ねた連中がいるかもしれないから、引き続き用心はしてね? 『月下狼』と『黒炎の羊』との連携も一層進めて王都裏社会の守りを固めておこう」


「承知しました」


 マルコは、リューに改めて深々と頭を下げると、部下のクーロンを連れて、街長邸をあとにするのだった。



「これで王都に潜入した『亡屍会』の連中を一掃できたと思う?」


 リーンが、執務室のリューに問う。


「ううん。今回、二百人近い関係者を、『月下狼』、『黒炎の羊』と協力して拘束できたはずだけど、僕の予想ではまだ、二、三十人は残っている気がするんだよね。特に、未遂とはいえ、マルコの命にまで迫った連中の最終目標は僕だったはず。僕の正体を暴き、出来れば命を獲る、という狙いでまだ動いている者が、まだ、拘束されていない気がするんだよなぁ」


「私もそう思う。今回の騒動の主格となる連中は、独立して様子を見ていた気がするわ」


 リーンはリューがしっかり状況を冷静に把握しているので、同意した。


「主格のメンバーが他にいるのですか!? 主の事は自分が命を賭してお守りします!」


 黙って二人の会話を聞いていたスードが驚くと、決意を口にする。


「それは当然でしょ、護衛なんだから。それよりも、リューの危機にならないように、未然に防ぐのよ」


 リーンがスードの決意を受け流し、もっともな注意をした。


「二人とも、ありがとう。お陰で僕は他の仕事に集中できるよ」


 リューは頼もしい二人に感謝すると笑顔になるのだった。

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