第833話 加増の街の情報ですが何か?
リューは、執務室に移動すると、そこでイバルから今回加増される事になったバシャドーの街について色々と教えてもらう事になった。
まずは人口が一万人を超える規模の街である事。
王都と西部地方を結ぶ街道の街という事で、経済的にもかなり潤っている事。
沢山の人が出入りするところなので、西部地方の貴族や商人、諸外国の要人の出入りも多い要所である事などが、事細かに報告された。
「聞くからにかなり大変そうだけど、イバル君が心配する厄介な点はなさそうな気が……」
リューはイバルが最初に告げた厄介というよりは、報告の内容を聞く限り、大変そうという印象を受けていた。
「表だけなら、大変だけで済むだろうな。だが、厄介なのはここからさ。バシャドーの裏社会が厄介なんだ」
「あっ。もしかして、『屍人会』とか『亡屍会』関連?」
イバルの言葉に、リューは街の位置から厄介さの原因にようやく想像がついた。
「それもある。だが、バシャドーの街の裏社会は、『バシャドー義侠連合』という任侠組織が束ねているんだ。あそこは、西部地方と王都の経済を結ぶ重要地点だから、この『バシャドー義侠連合』の役割がかなり大きい。『竜星組』もマルコさんがこの組織には気を遣って、縄張りには手を出さないようにしているくらいにな」
「そう言えば、以前報告を受けた気がするなぁ。独自の勢力文化を持つ組織が裏社会を押さえているって」
リューはイバルの説明に以前の記憶を思い出した。
「『バシャドー義侠連合』は、裏社会でも特異な組織でな。どこからも中立を保っている組織なんだ。それを可能にしているのが、街の経済と圧倒的な人口による物量だ。これにより、西部地方の『聖銀狼会』がうちとやり合う為、王都進出の際には、この組織に挨拶してから通過している」
「あの武闘派の『聖銀狼会』がよく黙って通してもらえたね」
「それは『バシャドー義侠連合』が、長い年月、中立的な立場で街の裏社会を治めていたからだろうな。バシャドーの街に他所者が手を出そうとすれば、あの街の利用者である西部や、北西部の一部、南西部地方の一部の組織も黙っていない。だから、長い間、要所でありながら、どこも手を出そうとしなかったのさ」
イバルが何故厄介なのかをようやく暗に匂わせた。
「……それって、『竜星組』の長である僕が治めるといろんな問題が生じるって事だね?」
「そういう事だ。さらには、リューの最初の指摘通り、あの周辺は『屍人会』、『亡屍会』、そして、『聖銀狼会』の縄張りが接するところでもある。それだけでどのくらい厄介な土地かわかるだろう? それに最近は、『屍人会』と『亡屍会』がバシャドーの街を狙っているんじゃないかという噂があってな。ランスキーさんはその辺りを調べさせていたのさ」
イバルは厄介な理由を全て伝え終えた。
「『バシャドー義侠連合』か……。──連合というからには、いくつかの組織で成立しているのかな?」
リューは気になったのでイバルに確認する。
「以前は、商人を守る為に結成された『バシャドー商人護衛連隊』、無頼漢から弱者を守っていた『喧嘩屋義侠団』、バシャドー裏社会をまとめ外部組織から街を守っていた『バシャドー・ガーディアン』の三つの組織からできていたらしい。今は、それも形式上の話で、三人の大幹部で治める組織になっているようだ」
「街全体を守る組織みたいだね。という事は、以前の領主ともズブズブの関係なのかな?」
「さあな。そこまではわかっていないが、街を守る為にはある程度、関係性は保たれていたんじゃないか? まあ、一つ言えるのは、西部地方の情報を集めるのに『バシャドー義侠連合』には世話になっているって事かな」
「そうなの?」
「サン・ダーロの管理下だが、毎回、うちの関係者が通過する街だからな。街にも人は配置しているから、万が一問題が起きた場合に備えて『バシャドー義侠連合』に挨拶くらいはしているらしいぞ?」
イバルも詳しくは知らないようだった。
「細かい雑務は現場に任せていたから、ほとんど知らなかったよ……。うーん、僕の立場的にどう街を治めるべきか、難しそうだね……」
リューもイバルの指摘通り厄介な街だと把握する事になった。
「それなら、バシャドーの街を下見に行かないとね」
リーンが悩む素振りも見せない。
「そうだね。このマイスタの街を与えられた時も、二人で下見に来たんだった」
リューは自分の半身とも言うべき、リーンの提案に笑って応じた。
その通りだからだ。
悩むくらいなら現地に足を運び確認する。
それから具体案を考えればいい。
「それならサン・ダーロに道案内させたいところだが、あっちは『サンドラ商会』とバンスカーの『骸』の件で忙しいから、俺が責任者として同行するよ」
イバルが、バシャドーに向かう気になっている二人に同行を申し出た。
「それじゃあ、僕とリーン、スード君とイバル君の四人で行こうか。王都から三日の距離なら、うちの馬車で、二日もかからず到着できるよね。じゃあ、『次元回廊』の出入り口を作る為、ちょっと行ってくる!」
リューはそう告げると、表に出ていく。
そして、いつでも動ける準備をしている御者と馬車を確認すると、『次元回廊』を使って王都の西側に移動するのだった。
リューは一日半でバシャドーの街まで走破して、『次元回廊』の出入り口を設置すると、マイスタの街まで『次元回廊』を使って戻ってきた。
「何とか休日内に到着できたよ」
リューは笑って留守を預かっていたランスキーに知らせる。
「若、無茶をし過ぎですよ。バシャドーの街の加増は二週間後と聞きましたぜ? 本家の方も、南東部の領地加増の手配は若の『次元回廊』で使者を移動させなくてはいけないんですから。使者も若の留守を知って困っていましたよ?」
二日近く留守にしていたので、リューを頼っていた王宮の使者も困っていたようだ。
「ごめん、そうだった! つい盛り上がっちゃって……。でも、これで、バシャドーの街までは、一瞬で移動できるようになったから、急ぎの時は聞いてね? ──それじゃあ、王宮の使者をランドマーク本領に案内して来るよ」
リューはランスキーに謝ると、『次元回廊』で王宮へと向かうのだった。