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第832話 加増ですが何か?

 クレストリア王国の王宮では人手不足が続いていた。


 というのも、戦争の折に国に対して協力的でなかった貴族の降爵や爵位剥奪などで領地没収が多発した為、王家直轄地が増えたからである。


 当然そこには、管理者として役人が送り込まれ、王家に代わって領地を治める事になるのだから、人手が足りなくなるのだった。


 王家は戦争時に王家の危機に進んで兵を出した王家派の貴族に褒美を与えたが、領地の加増は場所や当人たちの都合、さらには手続きなどもあって、あまり、進捗はよくなかった。


 手柄を立てた貴族は、褒美に貰う領地は近い方が当然いいからである。


 ランドマーク伯爵家のように、遠く離れた王都の近くに飛び地として与えられる方が珍しいのだ。


 それらの理由から、人手不足の王宮で事務仕事が落ち着き、追加の褒美が行われる手筈となった。


 まずは上級貴族の加増が行われ、各地の王家派貴族は勢力を伸ばす事になっていく。


 これにより、エラインダー公爵派の貴族は眉を顰める事になるだろう。


 というのも、早くから兵を出し、実際戦った貴族達が優先されたからだ。


 これは当然の事だが、戦争終結間際に兵を出して、一兵も損なわなかった貴族は没収こそされなかったが、加増する理由にはならなかったのである。


「驚いた……。ランドマーク本家の領地がさらに広がる事になったみたいだ」


 リューは応接室で、使者からの確認の書類内容に目を通し、承諾するとサインをしてから送り帰したあと、同席していたリーンと執事のマーセナル、護衛のスードに驚きの感想を漏らした。


「どういう事? ファーザ君は、今回の戦いでスゴエラ侯爵と一緒にアハネス帝国軍に唯一、大勝したのだから、領地を加増されても不思議はないでしょ?」


 リーンが驚く要素がないとばかりに、首を傾げた。


「それがね? 新たに加増となる予定領地が、現領地に隣接するところと王都の西にある街『バシャドー』なんだ」


 リューはリーンや執事のマーセナルに事の重大さを告げた。


 リーンは街の名前について興味が無いのか、


「どんな街だっけ?」


 と反応し、


「……バシャドーの街は元々、バシャドー伯爵が治めていた街です。その伯爵はホソボソン男爵に降爵となりましたが……。バシャドーの街はその領都だったところです。そして、その街は、西部と王都を繋ぐ街道が集まる中央への玄関口であり、そこで得られる通行料などの税や、通過する者達が落とすお金だけで大いに街が潤っているところです」


 と執事のマーセナルはリューの言いたい事がわかって、驚いた様子を見せた。


「それって凄い事じゃない!」


 リーンはざっくり理解すると、パッと笑顔を見せる。


「うん、寄り親の領地加増だからとても嬉しい事なんだけど、それを僕に治めさせるって話なんだよ」


 リューは苦笑するしかない。


 西部は北西部地方に力を持つエラインダー公爵派閥をはじめ、西部地方にはルトバズキン公爵派閥もいる。


 それらの貴族が王都に顔を出す時は必ず立ち寄るのが、このバシャドーの街だから、治める事になれば、リューはそれらの貴族と顔を合わせる事もありえる話だった。


「リューなら大丈夫よ。それで、人口はマイスタの街と比べて、どのくらいなのかしら?」


 リーンはマイスタの街をこよなく愛しているから、基準はマイスタの街だった。


「私の知る限りでは、マイスタの街の三倍ほどだったかと……」


 執事のアーセナルが大まかな計算で答える。


「「「三倍!?」」」


 これには、リーンだけでなくリューやスードも目を見開いて驚く。


 つまり、優に万を超える人口の街がランドマーク家に与えられ、それを与力のミナトミュラー家に統治させるという事だから、当然の反応だった。


「はい。何度もあの街は訪れていますが、人口もさることながら、訪れる人々も相当な数になりますので、常時、二万人を超える人々が溢れる大きな街です」


「「「二万人も!?」」」


 王都の人口が十万人くらいだから、普段なら体感として驚かない。


 だが、万を超える街を治めるとなると話は変わってくる。


 次男であるジーロが治めるシーパラダインの街だけでも、辺境の領地であるランドマーク領の人口に匹敵するが、万を超える人口はいない。


 つまり、子爵ごときが治める規模ではないから、驚くのだった。


「……これは、ランドマーク伯爵家に要地を与える事で、エラインダー公爵派閥に対する防壁とする狙いかな……。オサナ国王陛下の判断というより、先王陛下と前宰相閣下の考えっぽい気がする……」


 国王と宰相の笑みが脳裏に浮かんできて、リューは呆れるのだった。


「これまでランドマーク伯爵家は、辺境の最弱派閥と言われていたじゃない? でも、こんな街を褒美として貰ったら、一気に派閥としても注目されるわね!」


 リーンは本家の評価に繋がる事に気づいて嬉しそうだ。


「これは、責任重大だぞ……。マイスタの街でも最初は統治が大変だったから、バシャドーの街はもっと大変かも」


 リューは忙しい身だから、まじめに考えこんだ。


「バシャドーの街の統治は、現状、王家の役人が統治している仕組みを利用し、そこから若様のやり方に徐々に変えていけば、問題ないかと思います」


 執事のマーセナルが、簡単な助言をする。


「そうだね。マイスタの街とは正反対の領地になりそうだし、予想外の事で情報も乏しいから焦ったけど、そうするしかなさそう。バシャドーの街は王都から三日の距離か……。空き時間に馬車を飛ばして、一度、どんなところかこの目で見ておこうかな」


「あとはランスキー殿に聞いておいた方がいいかと」


 リューがスケジュールを頭の中で確認すると、執事のマーセナルがさらに助言する。


「そうだった。──アーサ。ランスキーを呼んできてくれるかな?」


「わかったよ、若様」


 メイドのアーサは応接室を出ると、外で待機している侍従に声をかけ、ランスキーを呼ぶ。


 ランスキーはこの日、仕事で出ており、代わりにイバルがやって来た。


「どうしたんだ、リュー? ランスキーの旦那は『亡屍会』関連の事で幹部達と情報確認の為、小さな会合に参加しているぞ。報告書は後で上がってくると思う。俺は留守役だ」


「あ、イバル君。実は──」


 リューが改めて、イバルにバシャドーの街について説明した。


「……マジか!? 厄介な街を与えられたな……。その情報なら俺も最近扱っているから話せる。参考にしてくれ」


 イバルはそう言うと、リューにバシャドーについて説明を始めるのだった。

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