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第831話 飲食部門再開ですが何か?

 ミナトミュラー商会飲食部門は、新たな海鮮大衆食堂をはじめとした新規も含めて無事、改装開店された。


 ラーメン屋はすでに多くのファンが付いていたので心配はなかったから、再開初日から行列ができていた。


 新装開店の一つおにぎり屋も、炊き出しで王都民に振舞っていた事もあり、味を知っているお客が並ぶ事で口コミと相まって多くのお客に恵まれている。


 そうなると一番の売りである海鮮大衆食堂だが、復興支援の為に現場で働いている労働者を中心に昼時、一気に押し寄せていた。


 ミナトミュラー商会建築部門が中心に現場で宣伝した事もあるが、何と言っても、安い値段でお腹いっぱい食べられる定食は、労働者に喜ばれたのが大きい。


 お米は銅貨一枚追加でお替わり自由だったし、味噌汁や漬物なども同じシステムにしてあったのだ。


 馴染みのない定食というものに、労働者はお得さを感じて、お店に足を運ぶ。


 そうなればこちらのもので、味はリュー監修の元、マイスタの料理人が腕を振るっているのだから美味しくないわけがない。


 すぐに昼時だけでなく、それ以外の時間も客足が絶えないのだった。



「客足が伸びて良かった……。評判も良いし、あとはランドマーク本領のようにハシが浸透すれば、最高かな」


 リューは開店初日の午前中は客足が伸びなかったので、心配していたのが嘘のような笑顔である。


「ミナトミュラー商会ブランドのファンは、ラーメン屋に集まっていたものね」


 リーンの指摘の通りで、おにぎり屋は炊き出しでお世話になった客層が多かった。


 結果的に、海鮮大衆食堂はファンからすると後回しになったのだが、全てをはしごしてやってくる強者もいた。


「お勧めの贅沢定食でメインを二品選べるから、煮魚とオークの角煮を選択したが、何という満足感……。残念なのはラーメン屋とおにぎり屋をハシゴした後だから、お腹が空いていない……。これは不覚……。ここは、お腹を空かせ、本気で食事をする為に来るところだったな……」


 ナントカーン子爵は、ランドマーク商会ブランドのファンという事で、その与力であるミナトミュラー商会ブランドもチェックしていた。


 だから、ラーメン屋は有名だから知っていたし、おにぎり屋も炊き出し活動で出されていたもので知名度があったから、行列ができる事を予想して優先したのだ。


「ラーメン屋とおにぎり屋はもちろんだが、価格設定もあって、ここの客層は労働者が多い。だがその味は、ランドマーク商会の高級店天ぷら屋に匹敵する美味さだ。今度は、妻と子供と一緒にゆっくり味わいたいな……」


 ナントカーン子爵は、お腹を膨らませながら、満足した様子だ。


 彼はお会計をすると、リュー達が視察に来ている事に気付き、お辞儀をして去っていく。


「ナントカーン子爵って、最近、執筆した王都観光本にランドマーク本家とうちのブランドについて、紹介してくれているけど、今日、自腹で来てたんだよね? 来る前に連絡くれれば、席を設けて案内したのになぁ」


 リューはすでに顔なじみになっているナントカーン子爵の馬車を見送って、リーンに残念そうに漏らす。


「ふふふっ。あの子爵。『自分のお金で食べないと採点が甘くなるかもしれないのでお断りしています』って、ノストラの招待を断ったみたいよ」


 リーンが可笑しそうに笑う。


「自分もあの本読みましたが、よくできていましたね。特にランドマーク商会関係のお店は軒並み、最上位評価になっていましたよ。内容的にはランドマーク本家、ミナトミュラー家の宣伝本と思えるくらいでした」


 護衛のスードが感想を漏らす。


「『クレストリア王都の歩き方』だっけ? いきなりランドマーク総合ビルの楽しみ方から始まるじゃない? 照れるくらいべた褒めしていて恥ずかしくなったけど、かなり評判がいい本なんでしょ?」


 リューはそう言うと、マジック収納から本を取り出してみせた。


「みたいね。私はよくわからないけど、シズが『……私の次くらいに、ランドマークブランドのファンかもしれない』って褒めていたわよ」


「はははっ。それは凄いなぁ。──ナントカーン子爵には、お礼をしたいくらいだけど、それをやると賄賂みたいになるだろうから、新店舗の情報はこれまで通り、人を使って知らせるくらいに留めておこうか」


 リューは宣伝してくれるナントカーン子爵には、以前から情報を流していた。


 それは常連さんを大事にする為でもあったし、以前からうちに対して敬意を持って訪問してくれるお客さんとして、感謝していたからである。


 ランドマーク総合ビル開店の時には、エレベーターの情報を教える事で、新装開店の喫茶『ランドマーク』の第一号のお客にもなってもらった。


 こちらとしては、本での宣伝に対するお礼もあり、もっと特別扱いしてもいいお客だったが、本人が望まないので、良いお客さんという立場でこれからも接していく事になるだろう。


「そうだわ、リュー。みんなも招待したいところね。特にエマ王女殿下一行は天ぷら屋の料理にも喜んでいたのだから、このお店もかなり喜ぶのではないかしら?」


 リーンが思い付きを口にした。


「そうなると、個室を用意したいところかな。王女殿下達に庶民と同じところで食べさせるわけにもいかないし」


 リューは少し考え込む。


「個室は別にいいんじゃない? エマ王女殿下は、この国の文化に馴染むのが早かったし、本人も特別扱いはあまり望んでいない感じがするもの」


「エマ王女殿下が良くても、周りのみんながいるしなぁ……」


 リューもその辺りは悩みどころだった。


 エマ王女の周囲には宰相の息子をはじめとした貴族の子息令嬢が付いているからだ。


 唯一の平民ノーマンは最近、護衛役を外れて、完全にリューのもとで働いている。


「そこはエマ王女殿下の判断に任せましょう」


 リーンの言葉に信じてリューも納得して頷く。


 そして、後日、エマ王女一行を海鮮大衆食堂『水龍』に招待すると、一行は天ぷら屋同様、大いに喜んで食事をしてくれる事になる。


 中でも、エマ王女一行の留学責任者役として王都に留まっているテレーゼ女男爵は、リーズナブルな価格設定もあってか、招待後、毎日のように通っているらしい事を従業員から報告を受けて知るのだった。

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