第830話 試験も終え、仕事ですが何か?
リュー達三年生は、無事テスト期間を乗り切った。
特に、リュー達ミナトミュラー家に関わるイバル達は、かなり手応えを感じた様子だった。
「うーん……。やっぱり、三年の試験ともなると、難しい内容になっていたなぁ」
クラスメイトのランスが、少し、難解さを感じたのか、不安を漏らした。
「……私も今回、二年生時と比べたら、かなり基準が上がったように感じたかも」
侯爵令嬢であるシズがランスの意見に同意する。
「四年生は三年間の復習と就職活動の年だから別として、三年は実質、学園の集大成とも言えるからな。それに、リューのせいで、試験内容も例年より、かなり水準が上がっていると、先生も言っていたよ」
シズの幼馴染であるナジンが、試験が難しかった理由の一端を口にした。
「僕のせいなの!?」
リューは心外とばかりに驚く。
「そりゃそうだろう。リューとその関係者のリーンやイバル、スード、ラーシュ、ノーマン、それに、近くで色々と教えてもらっているみんなが点数を取るから、一部の問題を難しくして、リュー達に合わせるしかなかったんだよ」
ナジンが当然の事とばかりに答えた。
「……それ、ナジン君も入っている話だよ?」
シズがツッコミを入れる。
「うっ……。まあ、色々教えてもらってはいるけど、リューの勉強会には自分達は参加していないから、まだ、違うんじゃないか?」
ナジンはシズのツッコミに動揺した。
「本当はその差を少しでも埋める為、塾をやる予定だったんだけど、戦争で有耶無耶になったからなぁ。一応、本領の方で学校を任せている人に相談はしているのだけど、塾自体はその人に任せて開講するかもしれないよ」
リューは企画は進んでいる事を示唆した。
「そうなのか? あ、でも、俺は学校以外は親父の仕事の手伝いだからなぁ。たまに、リズの家庭教師を務めている先生に教えてもらえる特典があるけどな」
王宮に仕事で出入りしているランスが残念そうな顔をした。
「先生がランス君の事を褒めていたわ。『さすがボジーン男爵家の嫡男だ』って」
リズ王女が同じ教師から学ぶ者として、友人を褒めた。
「そうか? へへへっ! リューのお陰で勉強が苦にならないどころか、楽しくなってきたからな。成績が上がるとやる気にもなるし」
まんざらでもない様子でランスは嬉しそうである。
これにはみんなも同意見らしく、大きく頷くのだった。
試験を終えたリューは、ミナトミュラー商会の仕事についてのみ、動いていた。
王都裏社会の仕事については、全てマルコ達に任せているからだ。
その為、ここ最近の仕事の打ち合わせはほとんど、ノストラ達商会関係者のみである。
王都裏社会については、王都に潜入している『亡屍会』の連中を炙り出すまでリューは下手に関わらないようにしていた。
あちらの分析能力を評価しているからだ。
マルコの暗殺未遂にまで迫った情報収集を行った連中だから、相当厄介なのはわかっていたので、リューも慎重だった。
だから、今は被害を受けているミナトミュラー商会の飲食部門の立て直しを図っていた。
「ラーメン屋の店舗は半分が燃えちまったから、以前の残りの五店舗を維持。その分、おにぎり屋クレストリア店を三店舗、さらに、ノーエランド王国からの海鮮輸入を活かして海鮮大衆食堂『水竜』の一店舗を、今月開店予定になってるぜ」
ミナトミュラー商会、会長代理であるノストラが、移動する馬車の中でリューに報告する。
「ようやく建て直して、新たな新店舗も形になるね」
リューは安堵の笑みを浮かべた。
ミナトミュラー商会は、戦争での大きな出費と王都占領事件の際の略奪、放火の為、大きなダメージを受けていたから、そこからようやく持ち直してきていた。
まあ、マイスタの街に本部があるので、致命的なダメージは避けられたが、戦争は利益をもたらしていたものをあっさり、ゼロにしてしまう事はリューも痛感していた。
「まだ、商会の関係ビル建設も残っているがな。だがそれも、今月中には終わるだろう。戻すだけでも大変だったぜ」
ノストラは、リューに同意すると安堵した。
商会を任せられている以上、ノストラもここまで、主であるリューの失ったものを取り戻す為、寝る間も惜しんで頑張ってきたのだ。
「この短期間での回復は、ノストラの陣頭指揮があってこそだよ。本当にありがとう。──僕の楽しみとしては、海鮮大衆食堂『水竜』開店なんだけどね」
リューは満面の笑みを浮かべた。
「いろんなメニューを、若はよく考えるもんだよ。職人達もその発想に、毎回驚かされているしな」
ノストラは感心するしかなかった。
一同が乗っている馬車は、その海鮮大衆食堂『水竜』に到着した。
すでに店内の内装作業も終え、料理人達が中で、最終調整を行っていた。
従業員達も作業員をお客に見立てて、接客を行っている。
この日は、建築に関わった業者から、海鮮や機材などを運び込んだ運搬業者、宣伝広告の担当者など、仕事に絡んでくれた者達を呼んでの開店、前世でいうところのプレオープンを行っていた。
大衆食堂という事で、敷地は広めで、席は百席ほど確保してある。
関係者達は、食べた事がない『定食』に舌鼓を打っていた。
「『サバ味噌煮定食』が美味い……!」
「こっちの『アジフライ定食』もサクサクフワフワで美味しいぞ」
「『焼き鮭定食』の脂と塩加減が絶妙なんだが……!」
「俺は断然この『エビフライ定食』が一番だね!」
関係者達は、自分達が携わったお店の食事に満足し、自分が食べた定食が一番だと感動を口にする。
その光景にリューは満足そうだ。
ちなみに、この海鮮大衆食堂は、リューが普段から食べたいという理由で以前から計画されていたものである。
戦争に入った為、その計画も浮いたままになり、王都占領事件で王都が一部焼け野原になった事で再開発計画に大衆受けしそうなお店をねじ込んで、今回の開店に繋げたのだ。
大衆食堂というだけあって、なるべく安い金額で提供できるように、値段設定してある。
海鮮は海から遠い王都では超高級食材だが、リューが以前にマジック収納付き鞄を大量にかき集め、それをピストン移動で運ぶ事で短時間で港から王都まで運び込める体制を整えた。
これにより、海鮮はミナトミュラー商会のみが、安価で販売できる。
リューとしては、前世の貧乏時代からお世話になっていた大衆食堂をイメージして、王都の復興に貢献している王都民に美味しいものを安価で提供する食堂を作ったのだった。
料理人達もリューのアイディアを形にする為、かなり努力してくれた。
そして、このプレオープンにこぎつけた事に喜ぶ暇もないくらい忙しく料理を作って提供していた。
「味は僕の保証付きだよ。ノストラ達は何を食べる? ──大将、僕は、刺身盛り定食をお願い!」
リューが最初から決まっていたとばかりに、即座に注文した。
「私は海鮮丼定食よ!」
リーンが迷う事無く、リューと一緒に生魚系の定食を頼む。
「自分はかき揚げ丼定食を!」
スードもリュー達が頼み終わるのを見計らって間髪を入れずに注文した。
「「「あいよ!」」」
料理人達が一斉に返事をする。
「三人とも早すぎるぞ! ──……じゃあ、俺は……、生姜焼き定食!」
海鮮とは関係ないが、食堂の人気メニューの一つになるであろう料理を、ノストラは頼む。
こうして、一同はプレオープンの代表挨拶をそっちのけで、美味しい料理を楽しむのだった。
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