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第829話 遠い昔話ですが何か?

 クレストリア王国に戻ったリューの予定は、埋まっていた。


 まず、学園では試験期間に入ったので、勉強の時間をそこに入れないといけない。


 自分だけならいざ知らず、部下であるリーンやスード達も勉強の時間を作らないといけない立場だからだ。


 イバルやノーマンなどは、すでにリューのもとで雇用されているのだから、最悪、退学でも構わないという態度ではあった。


 しかし、イバルに関してはコートナイン男爵家の人間なので不名誉な事はさせたくない。


 リューがその指摘をするとイバルも渋々頷くしかなかった。


 そういうわけで、この日はランドマーク総合ビルの自宅で、部下一同を集めての勉強会である。


 リューとリーンは教える側に回り、イバル、スード、ラーシュ、ノーマンはひたすらわからないところを重点的に勉強する形だった。


 その甲斐があってか、イバル達の筆記試験については問題なさそうである。


 あとは実技試験だろう。


 剣や魔法については、授業で習ったおさらいが中心である。


 ただ才能の限りを尽くして無闇に剣を振るったり、強力な魔法を行使すればいいわけでもないのだ。


 特に三年生にもなると、技術的な動きや繊細な魔力操作に依る魔法の行使も求められてくる。


 その点では繊細さが苦手なリューも油断すると点を取り損ねそうだが、彼の場合、剣術については、技術的な動きに豪快さと、さらなる実用性をプラスする事で逆に大幅加点を得ていた。


 魔法の実技に関しても、繊細な使用のところ、全体的に規模を大きくする事で、苦手分野を力業で乗り越える傾向にあり、それが結果的に大きな加点に繋がっていた。


 イバル達はそんな努力の鬼で何事も大きく上回っていくリューとリーンを見ては、自分達が凡才にしか思えず、呆れるしかない。


 だが、教え方は上手いので試験期間中、イバル達は熱心にリュー達の言葉に耳を傾けるのだった。



「今回の試験もリューとリーンの上位は変わらないな」


 イバルが休憩時間に入ると、改めて有能な上司に感心する。


「主達は学園一の努力家ですから。でも、あの方の動きが気になるところですね」


 スードがイバルの言葉に反応した。


「……イエラ・フォレス嬢か……。黄竜フォレスの化身の実力はどの程度なんだろうな? いきなり現れて、一度は、リュー達に成績で勝ってしまったわけだが……」


 イバルが首を竦める。


「でも、これからは三番を目指すと宣言されてましたよね?」


 ラーシュが、誰もがイエラ・フォレスの強力な認識阻害能力のせいで、忘れそうになっていた発言を掘り起こした。


「……そう言えば、そんな事をおっしゃっていましたね」


 ノーマンも先程まで忘れていた自分に軽く驚いた。


「はははっ。イエラ・フォレスさんは目立ちたくないからね。あくまでも彼女は今の世界の様子を観察している身で、そのついでにランドマーク本領の守護神になってくれているわけだから」


 リューは笑うと、リビングの神棚に向かって手を合わせる。


 それは当然、黄竜フォレスを祀るものだ。


 リーンが続いて手を合わせると、イバル達も慌てて手を合わせて祈る姿勢を取った。


「まあ、他の友人同様、普通に接していれば問題ないから。──ね、イエラさん?」


 リューは、神棚に祈る姿勢から、気配に気づいて振り返った。


「呼ばれた気がしてやってきたが、我を崇めるのは結構な事じゃ」


 リュー以外の全員が驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか制服姿のイエラ・フォレスが立っていた。


「「「うわっ!」」」


 リュー以外の全員が思わず声を上げる。


「あははっ、ちょうどよかった。今、休憩を取ってお茶にしようと思っていたところだから、イエラさんもどう?」


 リューはみんなのリアクションを笑いながら、突然の訪問者イエラ・フォレスも誘う。


「ふむ、よいで訪れたみたいじゃのう。リューの用意するお菓子は美味だから楽しみじゃ」


 イエラ・フォレスは見かけこそ、金髪ポニーテールの美少女だが、それはあくまで分身体であり、本体は魔境の森の奥に潜む世界最強クラスの皇帝竜である。


 年齢は数千年を過ぎているらしいから、話し方も独特だった。


 イエラ・フォレスは気兼ねする事無く空いていたラーシュの横の椅子に座る。


 ラーシュは、綺麗なイエラ・フォレスを間近に感じると、爽やかな薬草の香りに気づいた。


「いい香りがする……」


「なんじゃ、気になるか? これは、我の本体が寝床として使っている洞窟に自生する薬草の香りじゃ。確か……、『最上位霊薬ラストエリクサー』精製に使われるものじゃな」


 イエラ・フォレスはしれっととんでもない事を口にした。


「「「!?」」」


 意味を理解できていないスード以外の、その場にいた一同は驚きのあまり固まった。


 というのも、『最上位霊薬』とは、万物の霊薬の頂点に当たる薬であり、お伽噺にしか登場しない架空の薬だからである。


 つまり、その架空の薬が存在する事を、数千年生きるイエラ・フォレスが匂わせたのだから、リュー達もざわつかずにはいられない。


 特に、リューはポーション作りが得意であり、自作の魔力回復ポーションなどは、妹ハンナが引き継いでさらに強力なものを作るきっかけになっているほど詳しい。


「なんじゃ、興味があるのか? そう言えば、お主はポーション作りが得意じゃったな。だが、この薬草は、お主達が名付けた魔境の森とやらの奥地にわけ入り、自ら入手した者だけ使用できる代物だから駄目なのじゃ」


 イエラ・フォレスは素っ気なくノーを突きつけた。


「それは残念。でも、いずれは魔境の森も冒険したいと思っているので、その時、また、訪ねますね」


 リューは残念そうに見えない笑顔で応じた。


「リュー、あの『最上位霊薬』よ!? 死者蘇生もできるという逸話があるアレよ!?」


 リーンは珍しく荒々しくリューの襟を掴んで揺らす。


「確かにあれは死者蘇生が可能なものじゃな。それに、一度死んだらリセットされるスキルの成長値も一定確率で元に戻す事ができるから、誰もが欲しがった時代はあったのう……」


 イエラ・フォレス昔を思い出したようだった。


「……それって、どのくらい前の話ですか?」


 ラーシュが興味を惹かれた。


「そうじゃのう……。千五百……、いや、二千年くらい前が最後だった気もするが、忘れてしまったのじゃ」


「そんな昔にとんでもない薬があったのか……」


 イバルが昔の規模がはるかに遠すぎて言葉を失う。


「……イエラ・フォレスさんから見て、この時代は、昔より栄えているのでしょうか?」


 ノーマンが気になった事を聞く。


「……ふむ。──技術で優っている部分も沢山あるが、失ったものも多いかもしれないのう。歴史というだけで、現在の自分達が文化発展して進んだ存在だと勘違いしている者もいるようじゃが、我から見たら退化している部分も多いと感じる。失われた技術も多いようだし、一長一短じゃな」


 イエラ・フォレスは、はるか昔を思い出し、客観的な事実を告げた。


 ……ゴクリッ。


 誰もが過去より発展した文化のもとで生きていると思っていただけに、その言葉を重く感じた。


「そんな事より、リュー。早くお菓子を出さぬか。我はその為に来ているのじゃぞ」


 イエラ・フォレスがリューを急かした。


「はははっ、そうでした! ──リーン、『コーヒー』を淹れてくれる? 僕はケーキを準備するから」


 リューは笑うと急かすイエラに応じ、マジック収納からホールのケーキを取り出すと、みんなに切り分けるのだった。

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