第827話 海の向こうの抗争ですが何か?
リューの命令により、ノーエランド王国で暗躍する事になったノーマンは、平民仲間達を使って至急、現在の『豪鬼会』、『風神一家』の情報を集めさせた。
ノーマンの平民仲間達は年齢もバラバラで、下はまだ、十歳。
上は三十五歳までと、一見すると接点がないと思われる者達だ。
ノーマンは孤児院時代から、才能を見せて下町ではちょっとした有名人であり、その才能に惹かれて集まってくるも者もいれば、妬んで喧嘩を売ってくる者、冷やかしでちょっかいを出してくる者、金になると悪だくみで接近する者など様々だった。
ノーマンはそういった者達を相手に、子供時代を過ごしていたから、繋がりも自然と広いものになっていた。
一つ言える事は、ノーマンの人柄で、いつの間にか仲間と呼べる集団が出来ていたという事だろう。
そして、仲間のノーマンが、その才能から国一番の学校に通えるようになった事が、平民仲間達にとっての誇りになっていた事も、友情が深いものになっていたようだ。
そのノーマンの頼みとあって、平民仲間達は各自の伝手を使ってすぐに情報をかき集め、リューとノーマンの練った作戦に沿って動いてくれた。
ノーマンは部下を十名連れていたが、その者達とは暗殺ギルドの長ミザールが育てた部下『影の十人衆』だったのである。
ノーマンの平民仲間達が集めた情報を基に、『影の十人衆』はすぐに動いた。
『豪鬼会』の幹部の一人が、数日後、仲間内の宴会帰りに不審死を遂げる事になる。
馬車内での原因不明の中毒死だった。
『豪鬼会』の関係者がこの死に当然疑問を持ち、幹部の部下への聞き取りから調査を始めたが、原因がわからない。
だが、死の原因の毒が、人工物である事はわかったので、それが自らによる服毒死なのか、外的要因によるものなのか判断がつかずにいた。
そこに、奇妙な噂が流れてきた。
それは、『豪鬼会』幹部の死んだ現場周辺で、『風神一家』に所属していた元殺し屋サン・ダーロに似た人物を目撃した者がいたというものである。
王都では、ここしばらくの間、裏社会の有名人であるサン・ダーロの目撃証言がない事から、死んだのか、どこか他所に逃げた、もしくは誰かに匿われているのでは? というのが有力説になっていた。
それだけに、もし、サン・ダーロが関わっているとしたら、背後に誰かいる可能性が高い。
幹部を殺された『豪鬼会』はありえないから、相手は自ずと限られた。
「……『風神一家』か。あいつら、組抜けしたサン・ダーロを許して、また、囲っている可能性があるな」
「すぐに、調べろ! もちろん、他の可能性についてもだ!」
『豪鬼会』の者達は当然そういう疑いを持ち、人を使って『風神一家』の周辺を調べ始めるのだった。
これで、作戦の開始である。
ノーマンは、当初の予定通り、『風神一家』にも『豪鬼会』の幹部が不審死した情報を流す。
同時に、その死を『豪鬼会』が利用して、『風神一家』のせいにしようと動いている事も噂として流した。
理由は、代理抗争で負けた事でメンツを潰されたので、幹部の不審死(代理抗争での負けの責任を取って自死したのだろう、と『風神一家』は予想していた)をきっかけに、本家の『豪鬼会』が出張ってきたという理屈である。
一応、筋が通るような理由付けはしてあるし、実際、『豪鬼会』が慌ただしく動き始め、こちらにも間者を送り込んできたので、それを裏付けとした。
『風神一家』は、『豪鬼会』がやる気だとわかると、急いで抗争の準備に取り掛かった。
これまでは、精々代理抗争で大きな争いは避けていたが、相手が動いている以上、こちらも退くつもりはない。
ここまで両者が動くと、ノーマン達は静観するだけだった。
『豪鬼会』は『風神一家』が抗争準備の為、武器をかき集めているのを間者の報告で知ると、やはり幹部殺しは『風神一家』の差し金だと判断した。
一連の流れは、代理抗争で勢いに乗っての犯行だろう、と決定づけたのである。
両者は直接対決は避けられないと判断すると、国内の傘下組織も王都に呼び寄せる事にした。
ノーマン達は、それらの動きを把握すると、どこの地方から、どの兵隊がこちらに向かっている、という情報を両陣営に流した。
当然、情報を得た相手は、王都に入られる前に潰そうと考える。
こうして連日、王都周辺で泥沼の襲撃事件が頻発するのだった。
「王都内ではまだだが、近郊ではすでに両者の勢力同士の殺し合いが始まっているぞ」
「昨日は『豪鬼会』の本部に出入りしていた二次傘下組織が、『風神一家』傘下勢力と派手にぶつかったものだから、海軍が動いて大捕り物になったみたいだ」
「さっき、『豪鬼会』の幹部が、それを知って激怒していたらしいぞ。二次傘下組織といったら、幹部待遇だからな。そこがやられたとなったら、本部もそろそろ動くだろう」
「『風神一家』も、傘下組織の被害が大きいから、そろそろ『豪鬼会』を叩かないと傘下組織に示しがつかないだろうな」
ノーマンの平民仲間達は、彼の描いた展開になっているので、楽しそうだ。
「みんな、これから本格的に王都内で両者の衝突が起きると、王都民にも被害が出る可能性がある。僕達はその被害を最小限に抑える為、王都警備隊や騎士団、海軍にいち早く情報を流して潰していくので、行動には気を付けてください」
ノーマンが、ここからが勝負とばかりに、全員の気持ちを引き締めた。
平民仲間達は、一斉に、
「「「おう!」」」
と返事をすると散っていく。
「それではみなさんも、よろしくお願いします」
ノーマンは連れてきた十名の部下『影の十人衆』に頭を下げる。
「……お任せを」
『影の十人衆』は、煙のように消えていく。
ふぅ……。そろそろ若様も来る時間かな……。
ノーマンはここまで、順調に事が進んでいるので、ようやく内心で安堵する。
そこに、『次元回廊』を使ってリューがやって来た。
「ノーマン君、お疲れ様。報告を聞かせてくれる?」
「現在──」
ノーマンはこれまでの経過を報告した。
「──もう、そこまで、進んでいるのか……、早いね! ──それじゃあ僕は、ノーエランド王家に挨拶に行ってくる。そちらは作戦を進めておいていいよ。あとは適当にこっちも参戦するから」
リューは有能な部下に満足すると馬車を用意してもらい、リーンとスードを連れて、ノーエランド王城に向かうのだった。




