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第825話 赤字でも困っていませんが何か?

 リューはランドマーク伯爵家の与力として、王都の復興には惜しみない支援を行っている。


 それに、王都周辺に領地を持つ貴族である事も当然関係していた。


 王家からは被害が少なかった周辺貴族に、王都復興の協力を要請していたからだ。


 リューも当然、焼け出された人の為に、週に三回は炊き出しをしている。


 と言っても、ミナトミュラー家としては週に一回だが、残り二回は『竜星組』として行っていたので、複数回なのである。


 これだけでも、資金は結構飛んでいくのだが、それに加えて、焼け出された人達の為に、利益が出ない額で新たな家も建ててもいた。


 現在、復興の為、建築ラッシュだからその合間ではあったが。


 最近ではこの事が、ようやく王家の耳に入ったようで、ミナトミュラー家や『竜星組』に対してかなり高い評価がなされ始めていた。


 特に『竜星組』に関しては、報復の為の暗殺作戦で力を示した事から評価はもちろんだが、それと同時に恐れられる可能性を危惧していた。


 しかし、復興にもかなり協力的な姿勢を貫いていたので、王家や重臣もその点の心配は消えつつあるようである。


 それに、リューが同じ炊き出しをする王都民という形で『竜星組』を評価する態度を最近始めていた。


 ミナトミュラー家の関係者からしたら、これはただの身内贔屓にしか見えない。


 だが、それは関係者以外ほとんど知らないので、『王家の騎士』の称号持ちであるリューの評価は、『竜星組』に対する恐れを無くす効果に繋がるのだった。


 これでリューは『竜星組』と表立って交流を持てる事になったのもやりやすくなってきた。


 実際、『竜星組』には、他にも複数の貴族が接触を始めている。


 それは復興の協力に伴う事業の話し合いなどであり、後ろめたい事ではない。


 こういった事から、リューと『竜星組』の王都における評価は全体的にかなり上がりつつある。


 それに反して評価が下がった者もいた。


 それはエラインダー公爵である。


 一時期は王都奪還に貢献した人物として民衆の評価を得ていたが、その後、『竜星組』を名指しで批判したり、すぐに自領に戻って新国王の国内復興事業に協力する姿が見られないからだ。


 特に、王都復興に尽力している『竜星組』への批判は、『竜星組』が民衆に貢献すればする程、エラインダー公爵に疑問を持つ者が増えたのだった。


 もちろん、これはリューの仕業であったが。


 エラインダー公爵が自領に帰ったのは、リューが彼の屋敷を部下に放火させ、全焼させた事が原因である。


 さらには、王都不在のエラインダー公爵の株が下がるように噂を流したのもリューだった。


 エラインダー公爵に出し抜かれた分は、リューも当然、裏で動いて報復していたのだった。



「ミナトミュラー子爵様と言えば、飛ぶ鳥を落とす勢いのランドマーク伯爵家の与力貴族だが、その本家から王都復興を任せられているらしい」


「焼け出された私達にとってはありがたい事だよ。貴族様が陣頭に立って私達の為に働いてくださるんだからさ」


「うちの家、ミナトミュラー子爵様の商会に建ててもらったんだが、住み心地がいいぜ?」


「うちも来週、着工する予定さ。それも安い価格で引き受けてくれるのだから、子爵様に足を向けて寝られないさね」


 リューによって生活が改善した民衆達が井戸端会議で、その評判を上げてくれる。


「うちは『竜星組』に感謝かなぁ。焼け出された後、土地の境界線を巡って近所と揉めたんだが、仲介に入ってくれてね。ちゃんと測量して敷地を定めてくれたから助かったよ」


「どこもかしこも、何かしら困って揉めているからね。ああいった力がある人達が、間に入ってくれると、揉め事もすぐ治まるからありがたいよ」


「火事場泥棒もいるからね。手が回らない警備隊に代わって『竜星組』が見回りしてくれるから、ここいら一帯は安全さ」


『竜星組』の評判もかなり上がっている。


 他にも『竜星組』の呼びかけですぐに動いた『月下狼』や『黒炎の羊』の縄張りも評判がいい。


 戦争は極力避けたいものだったが、これにより、裏社会の評判が上がったのは、必然だった。


 混乱に強いのが裏社会とも言えたからだ。


 純粋な力がものをいう時、というものがあり、それが混乱時である。


 普段からその力を持ち、統制している組織ならいいが、混乱に乗じて力を得た者はその力に酔う事がある。


 今回の戦争の事後処理では、その力を正しく示せたのが、『竜星組』を中心とした裏社会だった。


 もちろん、その中心にいたのはリューだが、それを知っているのは身内だけである。


「王都での評判は結構良いし、エラインダー公爵の評判を落とせたのも良かったけど、ミナトミュラー家(うち)は、大赤字を出して大変だからなぁ」


 リューはランドマーク総合ビルの七階自宅から王都を眺めて、苦笑していた。


「それにしてはあまり困っていないじゃない」


 リーンが茶々を入れる。


「そりゃあね。お父さんからの援助もだけど、サン・ダーロが裏金の資金洗浄を行ってくれているお陰で、表に資金を移動してくれているから、赤字の補填の見込みはついてきたんだよ」


 リューはサン・ダーロに任せた『サンドラ商会』が、思いのほか活躍してくれているのでホクホク顔だ。


「サン・ダーロは『骸』との接触もあって、危険な立場だけど大丈夫かしら?」


 リーンはそこから、ミナトミュラー家に辿り着かれないかを心配した。


「そこは大丈夫。いざという時は逃げられるように、ルチーナの部隊に証拠を消させる形を作っているから。そして、うちについても間にいろんな商会を挟んでいるからね。資金の動きが細かすぎて辿り着くのはほぼ不可能だよ」


 この辺りは、リューもそうだが、『闇組織』を運営していたマルコもその手の事には慣れているから心配はしていなかった。


 ただし、『骸』のボス、バンスカーは最大組織だった『屍』の元ボスだから、油断はできない。


「リューもマルコもそんな事をどこで覚えたのかと呆れるわ。『サンドラ商会』はいつでも解体可能なのよね?」


 リーンは呆れたというより、感心した様子だ。


「危険に対する嗅覚が鋭いサン・ダーロと頭脳派のユキタのコンビに任せているからね。万が一の場合は、即座に煙のように撤収すると思うよ」


 リューは逃げ足についてサン・ダーロを高く評価していた。


「ならいいけど……。──私としては今回、『竜星組』の評価が高まっているのが、一番嬉しいのだけど」


 リーンは真面目な話から一転、笑顔を見せた。


 それもそうだろう、『竜星組』はマイスタの街の分身とも言えるからだ。


 リューの気持ちも当然一緒だったから、笑顔で頷くのだった。

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