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第824話 星夜会の活動ですが何か?

 リューの周囲は、にわかに騒がしくなってきていた。


 それも裏社会がである。


 ノーエランド王国では、ミナトミュラー商会が進出しているおにぎり屋が拡大していた。


 その縄張りについて『豪鬼会』と『風神一家』が衝突し、その傘下組織による代理戦争が巻き起こっていたが、最近、それが終息し、どうやら『風神一家』側の傘下組織が勝利したらしい。


 その為、おにぎり屋にまた圧力が加わり始め、その対応に部下達が苦心しているのだ。


 それだけでもリューの頭を悩ませるには十分だったが、そこに加えて王都に密かに人員を送り込んでいた『亡屍会』による暗躍や、東部方面に勢力を拡大している不気味な『骸』の問題もあった。



「若様は忙しい身。今、この時も帝国領内に赴き、工作活動を自ら行っているのです。私達はその若様の為に、心配事を一つでも無くす努力が重要です」


 暗がりの一室。


 淡い光に、妖艶な美女が浮かび上がり、一堂に会した部下達に念を押す。


 部下達の多くは美しい女性が多く、きらびやかだ。


 男も三割ほど混ざっているが、そちらは黒服と呼ばれる従業員や用心棒の類を生業としている者達だった。


 その男女が妖艶な美女、リリス・ムーマの言葉に黙って頷く。


 誰もがこのリリス・ムーマに心酔しているようだ。


 リリス・ムーマは、淫魔族と人のハーフであり、『魅力』の能力を持っているから、人を惹きつけるのは容易い。


 魅惑のスタイルと相手を惑わす美しい笑みを併せ持つのも大きい。


 さらには頭もよく、周囲への気遣いも細かいので、一緒に仕事をしている者達は、リリスを尊敬し、手本とする者も多かった。


 その為、リリスに心酔している若い者達は多く、それが、『竜星組』ひいては、その謎のボスであるリューへの忠誠心に直結している。


「リリス様、それでは報告に移ります」


 部下の一人が、会合の進行を務める。


 部下達は、能力のある各店舗の責任者や女性従業員、黒服、用心棒の中でもリリス・ムーマやリューへの忠誠心が厚い者からメンバーが選ばれ、『星夜会せいやかい』が組織されていた。


 特にリリス・ムーマの信者がほとんどである。


 部下達は、『星夜会』のボスであるリリス・ムーマに、その日の新規の客や客層、売上、羽振りの良い客、悪い客などや、あとは気になった会話などを詳細に報告していく。


 リリス・ムーマはそれを黙って聞き、余程の事がない限り、報告を遮らない。


 彼女の頭の中で膨大な報告が整理されていき、気になった事は全員の報告後に聞くのだ。


 はじめの方の報告などは、さすがにリリス・ムーマも忘れているのではないか? と思うところだが、彼女はしっかり覚えている。


 それどころか、ほかの報告と比較して違和感のある部分をしっかり指摘して責任者に気づかせる事もある程だ。


「……『チャイム』店のサラ嬢から報告にあった昨日のお客だけど……」


「はい。『竜星組』本部事務所の構成員の方の事ですか?」


 化粧の濃い美人の女従業員が即座に起立すると、手元の報告書を確かめる。


「ええ。その構成員が連れてきた新規の顧客三名を、警戒してくれるかしら?」


「はい? 本部事務所の古参の方が紹介してくれたお客様ですし、疑わしいところはないと思いますが……? 身元も王都出身の方ですし……」


 サラ嬢はリリス・ムーマの命令に疑問を呈した。


 本部事務所の古参という事は、リューにとっても一番信用できる部下の一人という事になる。


 その人物が連れてきた新規の顧客を疑うというのは、問題になりかねない事案だ。


「ええ。それでもお願い。あなたの話だと、その新規の顧客は復興後から事業に成功して懐に余裕ができたという話よね?」


「はい。連れてきてくれた古参の構成員の方も、『事前に身元を調べたから大丈夫』と耳打ちしてくれていたので……」


「私の頭の中には、これまでの顧客のありとあらゆる情報が入っているわ。それこそ、一回の飲み代から月の訪問数、年収までね。その古参の方、三週間前から飲み代や回数が少しずつ増えてきているわ。目立った羽振りの良さではないけれど、この変化は少し気になるの。その変化に新規の顧客が関わっている可能性もあるからお願い」


「わかりました!」


 サラ嬢は相手が古参関係者という事で全面的に信用しすぎていた事もあり、細かいところは見逃していたから、尊敬するリリス・ムーマの鋭い指摘に、これ以上異論を挟まず承諾した。


「では次。──新店舗の顧客についてだけど、他の店舗の顧客名簿と被らないこの二人を注意してもらえるかしら? 今まで名簿にも載らない新規の顧客が、新店舗にいきなり現れる確率というのはかなり低いから」


 リリス・ムーマは、さらに、他店の顧客リストまで頭に入っているのか、数日前に開店したばかりの新店舗の責任者が読み上げた顧客リストから、怪しい者を抽出してみせた。


「わ、わかりました! あまりに目立たない酒量と控えめなお客だったのでほとんど注意していませんでした。次からは気をつけます!」


 新店舗の黒服は、リリス・ムーマの記憶力に驚くしかない。


 言われてみれば、新店舗の最初の客層は、他の店舗の紹介やお気に入りのホステスがそこに異動したから顔を出してみた、というのが多い。


 そこからお客の紹介などで新規を増やしていくのだ。


 だから、他のお店を訪れた事がない新規の客が新店舗にいきなりやってくる可能性は、とても低いという事なのである。


 リリス・ムーマはそれを報告された段階で、誰よりも早く気づいてしまうのだから凄いとしか言いようがないのだった。


「次は──」


 リリス・ムーマはこうして部下達の報告から自分が怪しいと睨んだ者達に注意を払わせ、それを次回また報告してもらう。


 そして、そこから絞り込むやり方で『亡屍会』関係者を見つけていくのだ。


 常に新規の顧客は現れるが、リリス・ムーマの選別に引っ掛かる者は、自身でも知らないうちに何かしら疑わしい行動を酒に酔った弾みで出しているという事だろう。


 リリス・ムーマはホステスの一人としてそれを見定める経験と頭脳があったから可能な事だった。


 こうして、リリス・ムーマ率いる『星夜会』は横の繋がりを駆使して、膨大な情報を夜の街から集めるのだった。

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