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第820話 国境を越えた問題ですが何か?

 リューの忙しさはいつも通りだったが、そこに突然、王都における仕事を部下達に全て任せると通達した。


 特に、重要と思われる王都裏社会におけるものも当分の間、マルコとルチーナ、リリス・ムーマ、クーロンにである。


 これには、大幹部達も驚く。


 ただ、ミナトミュラー家の一切を把握しているランスキーだけは、事前に説明を受けていた。


 頭の切れるノストラも言われずとも、その理由をしっかり理解しているようだった。


 マルコやルチーナはなんとなく状況から理解している様子である。


 リューが最近、東部裏社会や帝国裏社会に、手を伸ばしているからだ。


 そちらが忙しくて王都の方は自分達に任せるというのはありそうな事だった。


「だが、《《一切を》》、となると話が違ってくるんだがな」


 マルコは考え込まずにはいられない。


 リューが忙しいのはわかっている。


 こちらの情報は逐一上げるようにと、リューは口を酸っぱくして注意していたからだ。


 それが理由もなしに変更されたのは当然だが納得がいかない。


 この事を先輩幹部であるランスキーに相談したが、


「今、若が王都裏社会に関わっているのはマズい。全ては念の為だ」


 としか説明がないのである。


「まあ、やる事は変わらないんだが……」


 マルコは、リューに何か考えがあるのだろう事はわかっていたから、自身の仕事に黙って戻る事にした。


 そんな中、ルチーナはノストラに今回の事について気付いている事の説明を求めていた。


 ノストラは本当の理由はわかっていたので、ランスキーと違い口止めはされていない。


「若は個人的に王都裏社会と少し距離を取る事にしたのさ」


「どういう事だい? あの若が『竜星組』と距離を取るなんてあり得ないだろう?」


 ルチーナは自分の予想とは違うノストラの意外な返答に驚き、理由を求めた。


「マルコには言うなよ? マルコの動きが読まれている可能性があるから、本人にそれを話して動きが変化する事を、若は案じているのさ」


「? ますますわからないんだけど? ……もしかして、マルコを狙った『亡屍会』の事かい?」


 ルチーナは本能的な勘だけで真相に迫る。


「相変わらず、鋭い勘をしているな……。これは若に確認したわけじゃないから、当たっているかどうかはわからないが──」


 前置きをしてからノストラは自分が予想した事を話し始めた。


 それは、当然『亡屍会』の動きについてだった。


 この短期間でマルコの暗殺未遂にまで迫った情報収集能力は驚くべきものだった。


 しかし、それならば、幹部構成員の刺傷事件を起こさず、警戒されていない状態でいきなり本丸であるはずのマルコを狙えばよかったはずだ。


 それをやらなかったのは、小さい事件を起こし、『竜星組』の反応を見ているのではないかと、リューは睨んだのだろう。


 当初、『竜星組』は幹部構成員が複数刺された事でその対処に動き、『亡屍会』の可能性を見抜いて、防止策の徹底などを図った。


 通常ならこの対応は正しいが、『亡屍会』にとっては、『竜星組』の反応を観察する為のものでしかなかったとノストラは想像した。


 そして、今度は組長代理であるマルコの動きにまで迫り、命を狙った。


 では、これが本命だったのか?


 と言うと、「これも怪しい」とノストラは言う。


 大幹部の一人であるマルコ暗殺事件さえも、真の目的を果たす為の囮ではないかと指摘したのだ。


「真の目的って……、まさか!?」


 ルチーナは目を見開く。


「……そういう事だ。『亡屍会』は『竜星組』の謎の組長である『若』の正体を暴こうとしているのさ。だが、対抗するこっちは『亡屍会』の情報がまだ少ない。だから、マルコには下手に事実を知って複雑な動きをされるよりも、いつも通りに動いてもらう為に、情報を出さないでいるのだと思うぜ?」


 ノストラはリューの考えをほぼ的中させていた。


「……でも、マルコは悩んでいるんじゃないかい?」


 ルチーナはリューの考えが読めなくて困っているのではないかと推察した。


「頭のいいマルコなら、すぐに気づくだろう。だが、それも含めて『亡屍会』の分析力がどの程度のものかわからないから、若は慎重になっているのさ」


「……王都占領事件から、『亡屍会』に対して後手になっているのは確かだけど、そんなに厄介な相手なのかい?」


「それはわからん。『屍黒』の大幹部筆頭だったクーロンの言葉を信用するなら、頭が相当切れて人を操るのに長けている人物らしいからな。マルコを狙った企みさえも伏線だったとしたら、若に辿り着く可能性があるかもしれない」


「……わかったよ。まさか、マルコも泳がされて若に迫ろうとする奴がいるとはね……。マルコには黙っておくよ。……でも、私はどうしたものか」


 ルチーナは総務隊の役割で、表と裏どちらにも関わる立場である。


 悩むのも当然だった。


「今は、下手に動いて相手にこちらの存在を知らせない方がいい。しばらくの間は『竜星組』の事は『竜星組』に任せるこった」


 ノストラは、ルチーナに助言をすると、帳簿を広げて仕事に戻る。


 ルチーナは納得すると、ノストラの執務室をあとにするのだった。



「マルコはやっぱり、納得いっていない感じだね」


 リューは自分が出した使いが『竜星組』事務所から戻ってきて報告を受けていた。


「事実を知っている時と知らない時では行動に変化が出るものね。マルコがマークされているのなら、余計な情報を与えて行動されても困るから仕方がないわ。でも、マルコもリューの真意にはすぐに気づくと思うわよ?」


「それでいいんだよ。知って急に行動が変化するのと、知らなかったけど徐々に気づいて行動が変わるのでは、分析している側に与える情報はかなり変わってくるから。それに、下手な小細工をして警戒されても、せっかく掴めそうな尻尾を取り逃がすから慎重にやらないといけない。その間に、リリス・ムーマの『星夜会せいやかい』やみんなの集める情報から王都に潜む『亡屍会』の連中を炙り出さないとね」


 リューは、今、出来る事を慎重に行うしかない。


 それに、占領されている東部地方や帝国本土の事もある。


 ノーエランド王国の方でも、おにぎり屋の縄張り問題について、『豪鬼会』と『風神一家』の衝突も激しさを増しているらしい。


 こちらから派遣している部下達も苦労しているようだから、そろそろ自分が出ていく必要があるかもしれない。


 国境を越えた裏社会の問題が山積みの中、リューの苦労は終わらないのだった。

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