82話 受験勉強ですが何か?
豊穣祭が無事大盛況で終ると、リューは時折、『次元回廊』の出入り口を設置しておいたマミーレ子爵領に行き来していた。
それはマミーレ子爵領の経済立て直しの為であったが、順調にいっていて、一番の収入源であるこの収穫時期も比較的に豊作で例年にない税収が見込めそうだという。
それは急に収穫率が上がったというわけではなく、田畑の正確な検地による税収の適正化により、誤魔化しが出来なくなった事、着服などによる不正が調査により発覚し処分された事、不要な部署の撤廃による経費削減などで入ってくるものが正常化したのだ。
昨年の帳簿と比べると歴然で、この結果には指導したセバスチャンも喜んでいた。
問題は、ブナーン子爵だが、そちらには足を運んでいない。
何しろ自分達を殺害、担保の品を強奪をしようとした主犯だ。
父ファーザがスゴエラ侯爵からブナーン子爵が所属する派閥の長に話を通して圧力をかけた事は聞いていた。
だが表面上は何も起きてない事になっているが、危険な狼の巣に直接利息を回収しに行くほどお人好しではない。
なのでマミーレ子爵から人を出して貰い、この収穫期に予定していた支払い分を回収しに行って貰った。
二日後、マミーレ子爵の屋敷を訪れると、マミーレ子爵からリューにすぐブナーン子爵から無事回収されたと報告がされた。
ブナーン子爵は意外にも素直に利息の支払いに応じたという。
よほど、派閥の長から厳しく叱責された様で、本当に大人しくしている様だ。
父ファーザにも報告すると、
「下手をすると罪を問われてブナーン家の存続にも影響が出るから当然だろうな」
と、何か知ってる風ではあったが、リューには詳しく話してくれなかった。
一年後、ブナーン子爵が成人したての息子に爵位を譲って隠居した時、リューはファーザの含みのある言葉を思い出すのだった。
毎年恒例のコヒン豆の収穫が始まる頃には、リューはリーンと共に受験に向けて本格的に勉強に取り組んでいた。
カカオン豆の収穫も始まってランドマーク領内は仕入れの商人も訪れ繁忙期だったが、今はもう、一日中勉強している状況だ。
「魔法の実践練習もした方がいいんじゃない?」
一日中勉強させられているから体を動かしたくなったのだろう、リーンが勉強を見てくれている母セシルに探る様に提案した。
「魔法技術はリーンちゃんの歳なら私の時よりも十分優秀だから安心して。ほら、ここの問題、答え間違ってるわよ。はい、やり直し」
提案が裏目に出てセシルから問題用紙を追加され、リーンはがっくりと肩を落とした。
リューもリーンの提案に期待したのだが、リーンが裏目に出たので何も言わずに問題とにらめっこし直す事になった。
「リューも何か言いなさいよ!」
小声でリーンがリューにこの状況の打破を提案した。
「言ったら逆に問題用紙増えるからやだよ!」
リューは小声で断固拒否したが、
「女の子にだけ言わせて、男の子が言わないのも情けないわよ?」
と、母セシルは指摘すると、罰とばかりに問題用紙をリューの机の上に追加した。
「それは、理不尽だよお母さん!」
頭を抱えるリューであったが、これ以上文句を言っても問題用紙が増えるだけなのは容易に想像できた。
なので、グッと堪えると追加された問題用紙を受け入れるのだった。
「二人とも、勉強がきついのはわかるけど、目指すのは国内最高位に位置する王立学園なんだから合格できるかもわからないのよ?勉強して、し過ぎるという事はないはず。年が明けると受験の為に王都まで行かないといけないんだから今が勝負時よ」
確かにそうなのだ。
王都の学校は全国から当然ながら優秀な人材が集まってくる。
無事入学して卒業できれば将来が約束される様なものだから当然だ。
そんな学校であるから、リューとリーンも受験して二人とも落ちる可能性もある。
一応、一方だけ合格した場合は、入学を断ってスゴエラ侯爵領の領都の学校を受験する事にしている。
リーンがリューと一緒じゃないなら拒否すると言ったからだ。
ただし、リューが合格したら、リーンは従者として残ると言ったのだが、王都の学校は寮がある。
従者は基本、連れて行けないので、これはリューが拒否した。
「二人とも仲良いわね。うふふ。じゃあ、領都の方の受験手続きもしておくけど、基本は王立学園合格を目指してね」
「「うん!」」
二人は元気よく答えると俄然やる気が戻った。
母セシルはその二人のやる気に頷くと、容赦なく問題用紙を追加するのだった。
「お、お母さん!」
「セシルちゃん!」
二人は改めて母セシルの容赦なさに悲鳴を上げるのだった。