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第818話 帝国内で動きますが何か?

 帝国・クレストリア王国間の国境地帯に広い縄張りを持っていた『吠え猛る金獣』は、地上からその勢力が消滅する事になった。


 そして、ぽっかり空いた縄張りには地元のチンピラ達がすぐに台頭するのも、裏社会ならではである。


『吠え猛る金獣』の勢力は国家間の密輸で財を成していた勢力だったから、そのルートと一緒に消滅した事で大きな勢力になりうる組織は今のところ出てきていない。


 だが、帝国では階級が低い扱いをされている亜人種の組織がちらほら出てきた。


 その一つが、『吠え猛る金獣』消滅後、わずか二日で狼人族により結成された『竜狼一家』である。


 組長は『吠え猛る金獣』の精鋭部隊の隊長の一人だった人物で、陰では「最強の人材だが、組織を持つ事は許されない亜人」と馬鹿にされていた。


 その狼人が、仲間を集結させて国境地帯の街で独自の組織を立ち上げたのである。


 資金がどこから出ているのかわからなかったが、『吠え猛る金獣』の資産を丸々頂いたのではないかという疑惑を持たれる事になるが、確固たる証拠はない。


 と言うのも、人族至上主義の国家にあって、狼人族に隠し資産の在処を話す馬鹿はいないはずだからだ。


 その為、新たに出来た『竜狼一家』は、謎が多いが急速に勢力を伸ばす事になる。



「骨折はリーンの治療でなんとか引っ付けたけど、全快とまではいかないから、今は無理をしないようにね」


 リューは国境にある大きな街キョウコクにある『竜狼一家』本部事務所で新たな部下になった狼人のウルガに注意をしていた。


 周囲には同じく狼人族の連中が、リューに対して深々と頭を下げている。


「若、おいら体は丈夫だから、骨が治れば全然動けますよ?」


 注意を受けていたウルガは、体躯こそリューの二倍近くある巨体なのだが、その背中を丸めて、リューに対して腰が低い。


 ウルガはリューとのサシの勝負において、完膚なきまでにやられると、それまでの態度が一転、従順な態度を取っていた。


 どうやら狼人族は強い相手には、尊敬の念を持って接するものらしい。


 狼人族最強の男だったウルガが負けた相手となると、他の狼人族も文句なしに従うようだった。


「だからまだ、治りかけだから、駄目だって。今は、部下に動いてもらって周辺の小さい組織を黙らせるんだ。それにウルガの名前はこの一帯では有名なんでしょ? これからはその名を最大限に使って手っ取り早く力を発揮していこう」


 リューはこれまで、強いのに一兵卒扱いだったウルガに、組織のリーダーとしての自覚を持たせる指導を行っていた。


「ガウ! おいら頑張るよ!」


 ウルガも上司のやり方はこれまでの経験で理解してはいるが、『吠え猛る金獣』のやり方が好きではなかったので、強者であるリューのもとで学び直そうと前向きだ。


「みんなもウルガの為に、この『竜狼一家』を盛り立ててね!」


「「「ガウ!」」」


 リューの一声で、一匹狼が多い狼人族達は一丸となるのだった。



 帝国に足掛かりとなる組織を作ったリューは、そこを拠点にして直属の部下達も『次元回廊』で呼び寄せていた。


 すでに、郊外のドワーフ職人にお願いして、身分証を大量購入しているので、帝国民として国内を自由に移動できる状態にしてある。


 組織の狼人族を動かす事もできるが、帝国では差別の対象でもあり、コソコソ動かすには目立つ欠点があるから、ここは部下を使う事にしたのだ。


 ちなみに、部下を帝国領に入れたのは、当然ながら情報収集の為である。


 アハネス帝国は、国内の移動も上位の身分証無しでは不可能であり、他国の干渉をことさら嫌う事から謎が多い国だ。


 情報は商人や旅人、冒険者などに限られる為、どこまで深い情報なのか判別も難しい。


 だから、リューが直接乗り出した形である。


 これには裏切者であるシバイン元侯爵(現シバオン侯爵)の行方を調べる事。


 表と裏、両方での進出の足掛かりを作る事(裏社会の方は作れたが)。


 あとは人材の確保なども考えている。


 旅人の情報から、すでに一人候補を考えているのだが、それも正しい情報を集め、精査してからになるだろう。


「帝国内の情報収集は大変そうね」


 リーンは文化の違う帝国で目立たないように情報を集める難しさをすぐに悟っていた。


 リーンもエルフ社会から飛び出して、街に出てきた時はとても目立った存在だった。


 その時はリューとすぐに出会った事で今があるのだが、リューに出会わなかったら、人の社会に溶け込むのにはもっと時間がかかっていたかもしれない。


 部下達には帝国文化について多少指導はしておいたが、各自、慣れてもらうしかないから、多少心配なのだ。


 直属の部下達はミナトミュラー家の家族でもある。


 リーンはもちろんの事、リューも直属の部下達一人一人の名前や家族構成、恋人の有無などもよく知っている程にだ。


 それだけに信頼は厚く、大変な任務も任せられるのだが、心配も当然あるのだった。


「みんなを信用するしかないね。それに今回は、今までとは少し変わったやり方で情報を集めさせるつもりだから」


 リューは最低限のリスクを避ける為、ウルガ達狼人族から聞いた情報を基にやり方を変更していた。


 それが、「現地民を使う」という事である。


 余所者が現地民を使って情報収集となると目立ちそうなものだが、狼人族曰く「亜人種は帝国に反感を持っている」らしい。


 つまり、人族至上主義を行う事で、アハネス帝国は、国内に潜在的な敵を作っている事になる。


 リューはそれに付け込む事にしたのだ。


 リューの部下達は、担当地域に乗り込むと、下手に動かず、現地の亜人種と接触し、報酬を支払って情報を集める。


 これなら余所者が動くよりもよっぽど目立たないし、部下も安全が確保できる。


 亜人族は自分達を差別する帝国人よりも、金払いの良い余所者の方に信用をおく者は多いだろう。


 これにより、部下は少ない数で最大限の情報を集められる事になる。


「考えたわね。地域ごとなら、移動制限のある亜人族も問題ないし、部下達は精巧な身分証があるから移動に問題なく情報共有も可能だわ」


「でしょ? さらには信用できそうな亜人族を中心に据えて各地に組織を作る事も可能だと思ったんだ」


 リューは自慢げに応じると、効率よく帝国内に情報網を形成すべく、部下達を動かすのだった。

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