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第816話 帝国の街を散策ですが何か?

 偽造身分証を手に入れたリュー一行は、堂々と正面から街に入る事にした。


 ちなみに、リュー達の身分証は帝国で上級国民を示すものである。


 リュー自身は帝国地方貴族の嫡男、リーンはエルフという事で、帝国ではほとんどが下級国民扱いされるところだが、身分証には上級国民のハーフエルフと記載、スードは武官の子弟、御者は貴族の三男という扱いだ。


 門番は身分証を見るなり敬礼して、リュー達の乗る馬車をすぐに通した。


「おお……。なんだか身分証の効果が絶大だね」


 リューは身分証を改めて確認した。


「大金を払っているんだから、このぐらい当然よ」


 リーンはハーフエルフ扱いに不満があるようだが、それは口にしない。


 アハネス帝国は人族至上主義のところがあり、純粋なエルフ族は平民以下の扱いを受ける事がある。


 だが、人族の血が入っているハーフエルフは急に扱いが変わるのだ。


 元々、エルフと人では子孫が生まれにくいという事もある。


 人の血を受け継いだハーフエルフは、それだけで人族がエルフ族を越え、エルフ族が人に屈したという象徴に帝国ではなるらしい。


 他の種族では、そういう事もないようだが。


 数が希少なハーフエルフのみに適用されるそうだから、帝国のエルフに対するコンプレックスの裏返しと、リューには感じるところだった。


 リーンはエルフである事に誇りを感じているが、その発想には納得できない。


 だから不満であったが、ハーフエルフを批判するつもりはない。


 リーンは閉鎖的なエルフにあって、人とエルフが愛し合った結果ならば問題ないだろうという考え方だからだ。


「まあ、いいわ。帝国内を自由に移動できるだけ、職人の技術が優れているという事ね」


 リーンは自分の中で、納得したとばかりに頷くのだった。



 帝国の街内部は、規則正しく家々が連なり、建物も似たり寄ったりの個性のない家が多い。


 たまに個性があると思う建物は上級国民の家やお店、施設のようだから、階級によって建物の扱いも異なるであろう事は、自ずと理解できた。


 リューは、異国の街並みやその雰囲気をしばらく楽しんでいたが、それも帝国の特徴を掴む為だった。


 国の文化に違いがある以上、その雰囲気が人から滲み出てしまえば、観察眼に優れた者には違和感として映る可能性が高い。


 つまり、「浮いて見える」というやつである。


 前世だと都会に上京したての田舎者が、浮いて見えるというのと同じ理屈だ。


 そうならないように、リューは帝国の雰囲気に馴染む為、とりあえず楽しんで文化に溶け込もうとしていたのだった。


「よし、何となく雰囲気は掴めたかな。ただし、服はクレストリア王国の流行とはちょっと違うみたいだから、こっち向けの物を購入しておこう」


 リューは御者に適当な裁縫店の前につけてくれるようにお願いした。


 御者は初めての土地ながら、街をぐるっと巡った時点でおおよその見当がついているのか、迷うことなく近くの裁縫店の前に横付けする。


 リューはすでに、帝国で使われている貨幣と換金していたから、適当に見繕うと購入していく。


 リーンやスード、御者の分もサイズを確認して、迷うことはない。


 それどころか、帝国に潜入させる予定の部下達の服もまとめて買い始めたので、店主は突然現れた大口の客にホクホク顔だ。


「上級国民のお方が、うちなんぞに来てくれるだけでもありがたい事です!」


 店主はリューがどこかの貴族の子供だと悟って、揉み手で感謝する。


 店内にある商品は一応、技術を示す為に高級な流行の服も多少は用意してあるが、ほとんどは一般国民向けのものが多い。


 他にはそれ以下の下級国民用の粗末なものも置いてある。


 需要があるという事だろう。


 商品をマジック収納付き鞄に入れる素振りを見せて、実際は自らのマジック収納に大量の服を回収した。


「ありがとうございます! また、お越しください! それまでにご満足頂けるものをまた、仕立てておきますから!」


 店主は羽振りの良いリューに満面の笑顔で接客すると、ハンカチをひらひらさせながら、馬車が去るのを見送るのだった。



「もう夜かぁ……。次回からは部下を帝国内に潜入させるかな」


 リューは空を見上げ、移動が困難な時間になった事を確認した。


 部下を潜入させる前に、自分で確認しておきたかったから、目的が果たせて満足そうである。


「他に何かしておく事ってあったかしら?」


 リーンが、忘れ物を確認する親のように問う。


「そうだね……。──あっ! この街には『吠え猛る金獣』大幹部の事務所があるはずだから、挨拶しておこうか」


「いいわね。夜の闇に紛れて止めを刺しておきましょう」


 オブラートに包んだリューの言葉をリーンが直訳する。


「お二人共、相手からしたら、死刑宣告みたいな事を言ってますよ」


 スードが主とその右腕の物騒な言葉に苦笑してツッコミを入れた。


「はははっ。でも、ここの街の大幹部は『吠え猛る金獣』の留守役を務めていた人物だからね。ここを叩いておけば、『赤竜会』の当面の敵はいなくなるから大事だよ」


「必要な仕事よ、スード。国境周辺の地方闇社会で『吠え猛る金獣』の影響力は大きいそうだから、ここで黙らせましょう」


 リューとリーンはやる気十分だ。


「もちろん、賛成ですので従います。──御者さん、『吠え猛る金獣』の事務所がある裏通りに向かってください」


 スードは頼もしい上司に賛同すると、御者に移動をお願いするのだった。

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