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第814話 国境の抗争ですが何か?

 東部旧シバイン派閥領と帝国本土国境地帯の裏社会は、混乱状態になっていた。


 元は『赤竜会』の縄張りだったが、戦争後は『吠え猛る金獣』のものとなり、今はその勢力が半壊状態まで追いつめられている。


 その為、力で押さえつけられていた地元の連中が、『吠え猛る金獣』に抵抗を始めているのだ。


 こういう裏社会の者達は弱った相手への嗅覚が鋭い。


 弱い相手は踏みつけて支配し、勢力を広げるというのが日常なのだ。


 それに、元『赤竜会』系組織の者達だから、前と今の扱いを比較し、どちらについた方が得か考えたのだろう。


 そうなると弱った方を叩き、強い方に従うだけだった。


「これがあるんだよね。上に立つ者が隙を見せたら噛みつかれるのが、この世界だから」


 リューは、国境の街にやってきていた。


「これは、どういう図式なのかしら?」


 リーンが大抗争状態の街で行われている戦いを目にして呆れる。


「見たところ、三勢力に分かれているみたいだね。一つは現支配者の『吠え猛る金獣』、二つ目は、それを半壊状態に追い詰めた『赤竜会』支持勢力、もう一つはこれを機に両勢力から抜けて街を支配しようと企む独立派勢力ってとこだと思う」


 リューは前世を含めた経験から、無法者が考えそうな事は容易に想像ができた。


「無法地帯になっているわね。帝国の警備隊は何をしているのかしら?」


「こういう時は潰し合いをさせ、最後の美味しいところを警備隊が持っていくんだと思うよ」


 公的組織の動きもリューには容易に想像がつく。


 特に、これ程荒れている状態のところに首を突っ込むと、警備隊組織程度では混乱を助長するだけでなく、被害も出したうえに最悪、収拾がつかない事になる。


 その場合、軍に応援を求める事になるが、そうなれば、警備隊の責任者は処罰されるだろう。


 だから、潰し合いの最中は手を出さない方がいい。


 その方が、無法者が勝手に数を減らしてくれるし、勝ち残った連中も疲弊しているから、そこを捕らえるなり、交渉して大人しくさせた方が、警備隊としては得なのだ。


 つまり、漁夫の利である。


「僕達は、静観と言いたいところだけど、『赤竜会』系組織に味方して、この抗争にケリをつけ、巻き込まれる庶民の被害を抑えたいかな」


 リューは仮面を出してリーン、スードに渡すと自らも装着した。


「ふふふっ。うちの縄張りでもないのに、そういうところはお人好しね」


 リーンは嬉しそうに仮面を付ける。


「さすが主。お供します」


 スードも仮面を付けると、ドスを抜くのだった。



 数時間後。


 突如現れた『赤竜会』の助っ人を名乗る三人により、『吠え猛る金獣』の仮設事務所は、潰される事になった。


 本土からこの街に援軍として派遣された『吠え猛る金獣』の兵隊達も、これにより街を放棄して、国境の向こう側に完全撤退した。


 そして、地元で独立を狙う組織は、この圧倒的な武力を示した助っ人を前に、停戦を求めた。


「ま、待ってくれ! うちは他所者を追い出せれば、それでいい。あんたら、助っ人という事は、『赤竜会』系じゃないって事だろう? それならうちは戦う理由が無い!」


 独立系組織を指揮していたのは、元『赤竜会』系幹部組織『国境の騎士団』のリーダー、ポンチョというがっしり体形の男だった。


 ポンチョは、『赤竜会』に戻る気はないが、敵になる気もないという。


 ただ、このレドライの街を勢力下において、独立した組織を考えているようだ。


「それだと『赤竜会』に戻ろうとしているこちらの組織『烈怒組』の立場が無いよね?」


 リューは、都合の良い言い訳に聞こえた。


「……それはそうだけどさ……。でも、こう言っちゃなんだが、『烈怒組』は隣り街を元々収めていた組織。うちはこのレドライの街を地元にする組織だ。筋という点では『国境の騎士団(うち)』の方に正当性があるだろう?」


 ポンチョの言い分は、正しい。


 他所の組織が、自分の街を治めるのには抵抗があるものだ。


 特に、地元の構成員もいないような組織だとなおさらである。


『吠え猛る金獣』は力で押さえつけていたので、地元から反発があった。


 もし、余所者の『烈怒組』がこの街を治めようとしたら、また、抗争に発展しそうである。


「でも、君達『国境の騎士団』も、もとは『赤竜会』系組織だったんだよね?」


「……そうですが、こちらも好きで傘下に入っていたわけじゃないです……」


 ポンチョはリューに問い詰められて最後の方は声が小さくなった。


「『烈怒組』は、この街を治めたいのかな?」


「できれば……ですが。でも、助っ人として、助けてくれたあんた達の判断に任せますよ。『烈怒組うち』は正直、今回の抗争では一番弱い立場でしたから……」


『烈怒組』を率いる男は幹部らしく組長命令でこの街に来ていたようだった。


「それじゃあ、地元の組織であり、今回、『吠え猛る金獣』と正面から一番やり合っていた『国境の騎士団』に花を持たせてあげようか。ただし、元『赤竜会』系組織だったこともあるから、組織名は変えよう、同じ名前だと角が立つから」


「……わかりました」


 リューの提案に筋が通っていると感じたポンチョは素直に同意した。


「それなら、うちの組長も目くじらを立てる事は無いと思います。違う組織なら話し合いの余地もありますし」


「じゃあ、決まりで。──そうですね……。今から『国境の騎士団』は、この街を裏から守る『レドライ防衛戦線』という事で」


「『レドライ防衛戦線』……!」


 地元愛の強いポンチョは、リューの命名に満足そうにつぶやく。


「うちは『吠え猛る金獣』を街から追い出せたので、それを手土産に組長を説得しますよ。今回は助っ人、ありがとうございます。お陰で助かりました。──最後に旦那達の名前を聞いていいですか?」


『烈怒組』の幹部が、リューに感謝して名を問う。


「名乗るのは恥ずかしいかなぁ。あ、でも、所縁のある組織名だけは名乗っておこうか。──困った時は『竜星組』までどうぞ」


 リューは裏社会の組織に対して正直に名乗るわけにもいかないので、関係者とだけわかるように、冗談っぽく答える。


「「あの『竜星組』!?」」


 ポンチョと『烈怒組』幹部は、王都の大組織である『竜星組』の事を知っていたから驚かずにはいられない。


「そういう事。うちとしては今でも、ここは帝国領ではなくクレストリア王国領だと思っているからね。せめて、裏社会だけでもその気概は持っておいて欲しい」


「わかりました! 新生『レドライ防衛戦線』は、『竜星組』の想いを共にし、目標としますぜ!」


 ポンチョはリューを『竜星組』の組長とはさすがに思ってはいなかったが、そこから派遣された武闘派幹部クラスだと判断した。


 そして、目標がリューと一致した事で、賛同するのだった。


「うちは『赤竜会』本部に伺いを立てる必要がありますが、その気持ちには同意しますよ」


『烈怒組』幹部もリューの言葉に賛同すると、三人はがっちり握手を交わすのだった。

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