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第813話 忙しさは変わりませんが何か?

 リューは暗殺計画任務の成功で王都に帰還したが、改めて東部地方を訪れていた。


 理由は三つあり、一つは、『赤蜥蜴組』のリザッドに、先輩格の蜥蜴人族であるリザ郎、リザ吉、リザ助の三人を引き合わせる事。


 もう一つは、リュー達によって半壊状態となった『吠え猛る金獣』の様子を帝国本領との境界線周辺の街まで様子を窺いに行く事。


 最後に、その『吠え猛る金獣』の境界線を越えて本領との出入りを可能にしている『道』が利用できるかの確認であった。



「リザ郎の兄貴達無事でしたか!」


 蜥蜴人族のリザッドは、蜥蜴人族の英雄的存在であるリザ郎達に久し振りに会えた事を素直に喜んだ。


「リザッド、元気にしていたか。俺達は今、若のご命令で『蒼亀組』の客分として、動いている。お前達とは敵対組織になるが、今回は若の配慮で顔を出す事にした」


 リザ郎達は、以前の粗暴で軽薄、横柄な態度が目立つ人物だったが、ランドマーク本領に送られ、祖父カミーザの下で更生した事で別人のようだった。


 リザッドは、その様子に呆然とする。


「兄貴達……、以前のような豪快というか荒々しいというか、傍若無人な雰囲気が無いですね……?」


「わははっ! 俺達も成長したという事だ。その為に、若には大変な迷惑をかけたが、お陰でリザ吉、リザ助の三人、力を合わせてその恩に報いるべく働いているのさ」


 リザ郎は巨体を揺らして笑うと、リューに頭を下げた。


 この礼儀まで覚えた様子に、リザッドは改めて驚く。


 リザ郎達三人は蜥蜴人族の英雄的存在であったが、その分、手が付けられないくらいの暴れん坊だった。


 それが許される程に、蜥蜴人族の中でも圧倒的な強さだったのだ。


 しかし、半分の大きさしかないリューに頭を下げ、へりくだっている。


 リザッドもリューの凄味は何となく感じていたが、この三人が人族の子供相手に頭を下げるというのは、想像できなかった。


「兄貴達、俺は今、『赤蜥蜴組』を率いています。これを兄貴達に譲りたいんだが、どうでしょうか?」


 リザッドは、元々、三人の代理として蜥蜴人族の猛者達を率いていたから、三人が戻った以上、当然の申し出をした。


「おいおい、話を聞いていなかったのか? 俺達は今、『蒼亀組』の客分として働いている。『赤竜会』の幹部組織である組を俺達が引き受けてどうする」


 リザ郎はリザッドの申し出に呆れた様子だ。


「それなら、いつでも『赤竜会』から組抜けして、兄貴達のもとに行きますよ」


「いや、それは、やめろ。『赤竜会』については若から話を聞いている。今、お前らが抜けたら、『赤竜会』がガタガタになるだろ」


 リザ郎は、以前ならあり得ない程、気を遣えるようになっていた。


 それに筋というものを通せるようになっている。


 これも、祖父カミーザの教育の賜物だろう。


「ですが……」


 リザッドは、一番強い者が、組を率いるのが筋だと考えていた。


 それに、今のリザ郎達は、強いだけでなく周囲へ気配りもできるようだ。


 本来は部下が気をつければいい事も、三人には見えている。


 リザッドは自分の立場は三人の部下である事が相応しいと考えていた。


「まあ、聞け。若は、『蒼亀組』と『赤竜会』の間に入って、手打ちにするおつもりだ。『赤竜会』は、『黒虎一家』との抗争があるから、お前らがまだ必要だろう。それに俺達とお前の組が間に入って『蒼亀組』との懸け橋になる方が都合がいい。──できるか?」


 リザ郎はリューに視線を向けながら提案する。


 リザッドは、驚きながら話を聞いていたが、この少年貴族のアイディアであろう事は予想がついた。


「……わかりました。兄貴達がそう望むのなら、『赤蜥蜴組』に文句はありません」


 リザッドは、深々と頭を下げる。


「若、これでいいですか?」


 リザ郎が、リューにお伺いを立てた。


「ありがとう、気を遣わせたね。でもこれで、新体制の『赤竜会』が生き残れる道が出来たと思う。両者が力を合わせる事で新たな力にも対抗できるでしょ」


「新たな力?」


 リザッドが、首を傾げた。


 今まで抗争を展開していたのは、『黒虎一家』である。


 あそこは、新たな力というよりは、古参の組織だ。


『吠え猛る金獣』は、ボスが『赤竜会』に引き渡され、組織自体も大損害を受けている。


 留守を守っていた『吠え猛る金獣』のナンバー2、ビーゴルの動きは気になるところだが、大規模遠征で精鋭の部下達を大量に失ったので、すぐに何かできるという事はないだろうと、リザッド達も予想できた。


「『骸』という組織が、今、急速に力を付けてきているんだ。そこが『蒼亀組』や弱っている『赤竜会』に触手を伸ばして来てもおかしくないくらいにね。僕としては仲良くさせてもらっている『蒼亀組』や今回の件で縁ができた『赤竜会』には滅んでほしくないんだ」


「その名前、聞いた事があります。戦争前に、うちにも接触してきました」


「そうなの? ……思った以上に早く動いていたのかぁ……。──まあ、そういう事だから、君達も気をつけて動いてくれると助かるよ」


「「「わかりました」」」


 リザ郎達三人は声を揃えて応じる。


 これにはリザッドも驚くが、三人が従うのならと応じるのだった。



「それじゃあ、次は、帝国本土近くの街まで行こうか」


 リューはリザ郎達三人を『蒼亀組』事務所まで『次元回廊』で送り届けると、リーンに提案する。


「それはいいけど、リューは『赤竜会』の新会長カイアと話をつけなくていいの?」


「話って?」


「『吠え猛る金獣』のボスを引き渡したじゃない。あの男を交渉材料にその残党を脅せると思うから、殺すのを引き留める必要があるんじゃない?」


「はははっ、うちが『赤竜会』の看板で『金獣』に壊滅的打撃を与えた以上、その役目は『赤竜会』に任せないと。僕は、僕の看板で動くだけさ」


 リューは仕事を増やそうとするリーンに、笑うと道理を説く。


「そうだったわね。じゃあ、帝国や、『吠え猛る金獣』を含めた帝国裏社会の情報収集に向かいましょう」


 リーンは納得すると、リューの手を取り、『次元回廊』で東部国境付近に向かうのだった。

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