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第812話 成功報告ですが何か?

『竜星組』と『暗殺ギルド』という王都裏社会に、クレストリア王国が依頼した仕事は、無事遂行された。


 現場監督として成功を確認した、という立場になっているリューは、報告の為、王宮を訪れていた。


 報告を聞く為、先王エドワードをはじめ、前宰相ジョージ・シュタイン侯爵、そして、新宰相オーテン侯爵や重臣達が集まっている。


 オサナ国王は、学校の時間だから、この場にはいない。


 汚れ仕事という事もあり、オサナ国王には聞かせられないという判断もあって、この時間だった。


「──ミナトミュラー子爵がこうも早く報告に来るとは思っていなかった。まだ、ひと月も経っておらんが、やはり難しいのか?」


 先王エドワードが、予想よりもかなり早い報告に、暗殺計画が発覚、もしくは、実行が困難なのかもしれないと察した。


「先王陛下、ミナトミュラー子爵はあくまでも現場管理の役割ですから、お責めにならないでください。実行は裏社会の者達に一任しています。彼らが無理であれば早々に他の案を考えるべきかと」


 重臣の一人も、リューが断念報告に来たと思ったのだろう、先王が眉をひそめていたので、庇う為に言葉を挟んだ。


「暗殺が無理となると……、国庫が心配ですが、半年後、収穫を待ってから軍を編成し、旧シバイン領に攻め込む事で武威を示すという形、を検討いたしますか?」


 他の重臣も、暗殺計画に期待していなかったのか、他の案を練っていたようだった。


「あ、いえ、今日は──」


「ミナトミュラー子爵に大変な仕事をいきなりさせてしまって、すまなかった。だが、子爵の『次元回廊』があってこその計画だったから仕方がなかったのだ。今回の失敗は、織り込み済みだったから、肩を落とさずともよいからな」


 勘違いしている重臣の一人が、リューを遮って励ました。


「そうだぞ。お主はこれからの人材だ。今のうちに失敗を糧にするといい」


「私も若い頃は失敗を経験して、今の地位があるから、子爵も気を落とされるな」


「失敗は成功の基。次を考えよう」


 他の重臣達も、リューを王国の次代の人材と考えているのか気を遣う。


「今日は、成功報告の為に参上しました」


 リューは重臣達の励ましが止んだところで、ようやく報告に移る。


「「「うん?」」」


 先王をはじめ、重臣達はリューの言葉を聞き間違いかと思い、疑問符が頭に浮かぶ。


 前宰相ジョージと新宰相オーテンだけがすぐに理解して、


「「真か!?」」


 と声を上げた。


 そこでようやく先王や他の重臣達も、聞き間違いでない事に色めき立つ。


「成功したのか……? ──だ、誰をやったのだ!? 一人仕留めただけでも、王国のメンツは保たれるというもの。よくやったぞ、ミナトミュラー子爵!」


「シバイン元侯爵やその両腕であるヤバンシー伯爵、ヨシヌン子爵は無理としても、シバイン派閥の貴族は武芸に秀でている者が多かった。それを一人始末できただけでも結果としては上々ですな!」


「いやー、良かった! これでオサナ国王陛下の御世が軽んじられる事もなくなりますぞ!」


「子爵、現場指揮ご苦労様でした! 暗殺という事で、表だった功績にはできませんが、我らの胸に刻んでおりますから安心されよ」


 重臣達は、成功報告に手放しで喜ぶ。


「それで彼らは誰を始末してくれたのだ?」


 先王が具体的な名を聞く。


「えっと……、シヌネン子爵──」


「おお! 奴か! 奴は、シバイン元侯爵の元与力で武勇に優れていた男。よくそんな人物を仕留めてくれたものだ!」


 重臣の一人が、すぐに反応して報告に歓喜する。


「──他にはティータム子爵にナレーシ男爵など五名を、まずは始末してもらいました」


「「「うん?」」」


 またも、重臣達はリューの報告に頭が追い付かず、会議室のざわめきが止まった。


「ミ、ミナトミュラー子爵よ。今、……五名と言ったか?」


 新宰相オーテン侯爵が、その沈黙を破った。


「はい。そして──」


「ま、待て、ミナトミュラー子爵。貴殿は今、《《まずは》》と言わなかったか?」


 他の重臣が驚きの表情で、聞き返す。


「ええ。その後、警戒が厳しくなった為、彼らも一度様子を見ていたのですが、その警戒網の穴を見つけると再度挑戦してくれました。そして、シバイン元侯爵の両腕であるヤバンシー伯爵、ヨシヌン子爵の両名を、『裏切り者に対する制裁』とわかる方法で始末してくれました」


 リューはあくまで現場監督という立場で全ての結果を報告した。


 …………


「「「おお!」」」


 重臣達は、一瞬の沈黙後、想像以上の結果に再度、歓声を上げる。


「十二分過ぎる結果だ!」


「お伽噺の存在と言われていた『暗殺ギルド』の腕は本物だったか!」


「王都裏社会のドンである『竜星組』の働きもあるのでしょう。彼らは王家に対する忠義を見せていましたから、今回、依頼したのは正解でしたな!」


 重臣達は、手放しで喜ぶ。


「うむ。これで肩の荷が一つ降りたな。安くない報酬だったが、それでも十分な成果で応えてくれた。これでシバイン元侯爵も裏切った事を後悔し、今頃、怯えているだろう。よくやってくれた、ミナトミュラー子爵」


 先王は、重責を果たしてくれたリューを労った。


「いえ、彼らも王国の人間としての誇りがあったようで、依頼に十分応えてくれました。それに、今回の短期間での成功には、他にも協力してくれた者達がいます」


 リューは、このまま『竜星組』、『暗殺ギルド』の手柄としても良かった。


 しかし、今の流れは後々組織を脅威に感じる事に繋がるかもしれない、と察して付け足す事にした。


「協力者?」


「はい、旧シバイン領に勢力を持つ『赤竜会』という裏社会の組織です。彼らが情報を提供して手引してくれたので、今回の成果に繋がったと殺し屋達は話していました」


 先王の疑問に、リューが事実の一つを伝える。


「ほう……。そのような者達がまた、なぜ、こちらに?」


 先王は、裏社会についてはあまり詳しくない。


「『赤竜会』は元々、シバイン元侯爵とは関係を持っていましたが、帝国の手引きに憤慨していたようです。彼らもまた、王国の民。だからこそ、協力してくれたようです」


 リューは嘘と事実を織り交ぜた。


 帝国の手引きをした点は、『赤竜会』も同じだった。


 だが、今回の短期間での成功の要因は、『赤竜会』の情報が基になっている。


 だから、その名誉を譲る事でお礼としたのである。


「そうか……、『竜星組』が例外だと思っていたが、裏社会には他にも道理が通じる者達がいるのだな……。『赤竜会』という組織にも褒美を取らせないといけない。何か求めるものはあるのか?」



 先王はリューに『赤竜会』の希望を聞く。


「『赤竜会』については、接触した『竜星組』が代わりにお礼をするそうです。彼らの流儀もあるでしょうから、当人達に任せるのがよろしいかと思います」


「そうか……。オーテン宰相、儂が言う事ではないが──」


「わかりました。『竜星組』には追加で報酬を贈る手はずを整えましょう」


 オーテン宰相は、承知したとばかりに、頷くのだった。



 こうして、クレストリア王国のメンツを守る為に行われた暗殺計画は、リューの指揮の元、見事、裏切者に死を与える事で成功を収めた。


 そして、帝国に対して一矢報いる事ができたのだった。

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