81話 大盛況でしたが何か?
ランドマーク家の出店が大通りから1つ入った角に設置された事は、広場で山を張って出来た行列の後ろの方に並んでいた者達が、いち早く気づく事になった。
もう、そちら側がざわざわし始めているのが見えたからだ。
気づいた者は、誰にも言わず、そっと列を離れてそちらに走って向かう。
その前に並んでいた者も、その気配に気づくとまた、列から離れてそちらに走る。
それが、徐々に流れとなり誰かが、
「あれ?もしかして坊ちゃん達の出店、あっちか?」
と、口走った事により、広場に出来ていた何本もの行列の人々は、それを聞いて一気に雪崩を打ってリュー達の出店の場所に向かうのだった。
「押さないでちゃんと並んで下さい!順番を守らない人は、僕達が覚えてリュー坊ちゃんにお知らせします!」
リューの子分、もとい、リューの妹ハンナを守る会の子供達が行列の整理を行っていく。
列の先頭には、離れの村からやってきた村人達がドキドキしながら待機していた。
その後ろに並ぶ男が言う。
「あんたら、よそ者だろ?よく気づいたな!俺は去年食えなかったから今年こそはと、仕事をサボり、館からリュー坊ちゃん達を張ってたのに先を越されちまったぜ」
「うちらは偶然だったんですけどね……」
「なんだい、運だったのかよ?そりゃ、あんたら来年も幸運に恵まれそうなくらいついてるな!がははは!」
行列は待っている間、話に花を咲かせて今年のリューの用意する甘味に期待に胸を膨らませるのだった。
昼になり、豊穣祭の開始の魔法が広場の上空に打ち上げられて大きい音と共に知らされた。
「それではランドマーク家の出店を始めます!」
リューが行列に大声で知らせると、
おお!
と、歓声が沸き起こる。
早速、先頭の一団が、フルーツがいっぱい乗った生クリームとチョコでデコレーションされたクレープをお金を支払うと手渡される。
受け取った一団は見た目だけで感動すると、その場に固まってしまったが、子供達に広場に誘導されゆっくり食べる事にした。
「こんな美味しいもの、初めてだ……!」
「オラもだ!こんなに甘くて果物の酸味があって美味しいもの食べた事ねぇ!」
「今日は、来て良かったな!」
「これが噂で聞いて憧れたリュー坊ちゃんのお菓子なのね!素敵!」
「『クレープ』って凄く美味しいよ父ちゃん!」
広場には過去最高の味に感動の渦が出来ていた。
リュー達は切れない行列に忙しくその反応を直接見る事はできなかったが、子供達が大評判だと知らせてくれた。
「ね?言った通りでしょ!このクレープは最高なんだから!それを作ったリューは凄いのよ!」
リーンが子供達の報告を聞いてリューを褒め、自分の事の様に喜び、その傍らでハンナも大きく頷いた。
リューも最高の評価が領民達からされて、笑顔満面でクレープを売りさばくのだった。
用意した1200食分は夕方には完売した。
前回の倍もの数を用意したのだが、領都民だけでなく離れの村々からも噂で駆けつけた者は多く、ランドマーク領にこんなに人がいたのかと思う程ごった返したのでその売れ方は凄まじく、あれよあれよという間に売り切れてしまった。
今回も沢山の領民が満足してくれて良かったとリュー達は喜んだ。
そして、手伝ってくれた子供達に残して置いたクレープとお駄賃を配るとランドマーク家の出店はこの年も大盛況のうちに、今年が最後かもしれないという残念さに惜しまれながら、お店を閉じるのだった。
リューが、マジック収納で、出店をあっという間に収納すると、
「来年はどうするの?」
リーンが聞いてきた。
「うーん……。タウロお兄ちゃんにお願いする予定だけど、場合によっては『次元回廊』で戻ってきてやる方法もあるけど……。」
チラッっとリーンを見る。
「それなら私も参加したいんだけど?」
「そうなるよね……」
残念ながらリューの『次元回廊』は、本人と小さいハンナくらいの重さしか通れない。
物ならリューの『マジック収納』に入れればいいのだが、人ではそうはいかない。
リーンの事を考えると今は保留して『次元回廊』の熟練度を上げるしかないと考え直すリューであった。