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第809話 華麗に去りますが何か?

 クレストリア王国と帝国の国境周辺を含めた一帯に勢力を持つ『吠え猛る金獣』は、虫の息だったはずの『赤竜会』の反撃の前に大敗を喫する事になった。


『赤竜会』に止めを刺す為に、自ら出張ってきていたボスは捕らえられた。


 そして、率いていた幹部や多くの構成員達も、この計算された大規模な襲撃の前に悉く駆逐されたのである。


 『赤竜会』の者達は襲撃後、勝利の余韻を楽しむ事もなく、煙のように消えたという。


 その後、取り締まりという名目で『吠え猛る金獣』を助けようと駆け付けた帝国警備兵も唖然とするしかなかった。


『吠え猛る金獣』の事務所や拠点となった隠れ家などに残されていた金目の物には一切手を付けていなかったからだ。


 あくまでも、敵構成員の殲滅だけを目的とし、短時間で撤収したと思われる。


 当然ながら帝国警備隊は襲撃犯を追い、あらゆる場所に検問を張る事になるのだが、全くその行方を追う事ができなかった。


『赤竜会』も、表向きには動いた形跡がなかった。


 その為、証拠の無いこの大規模襲撃事件は捜査のしようがなく、帝国警備隊も犯人捜しを諦めるしかなかった。



 その頃、マイスタの街の『竜星組』本部事務所地下室。


 マルコの部下が、捕らえた『吠え猛る金獣』のボスから、《《念入りに》》話を聞かせてもらっていた。


 最初こそ、尋問に抵抗していたボスも、数日間、睡眠もとれない瀕死の状態で生かされる苦しみに耐えきれず、組織の事を全て話す事になった。


「あらかた情報は吐かせたか。若には、手土産にすると言われているから壊すなよ」


 マルコは、部下に命令すると、『吠え猛る金獣』のボスを治療させるのだった。



 リューは、旧シバイン領都郊外の小さい屋敷で『赤蜥蜴組』のリザッドの報告を待っていた。


 今回、『赤竜会』に止めを刺す為に、『吠え猛る金獣』の本隊が遠征してきているという情報を、会長のレッドラに流しておいたのだ。


「さあ、どうなるかな? 遠征してきた本隊が、国境近くで殲滅された事は、まだ、知らないはずだけど」


「あの腰の引けた状態なら、恐慌状態になるんじゃないかしら?」


 リーンがリューの疑問に、一番あり得そうな答えを告げる。


「最後の最後で腹を括る姿を見たいんだけどね? ナンバー2のカイアもいるし、そうなる事を願うよ」


 さすがのリューも、弱気になっているレッドラがどこまで、逃げ腰なのかは予想できない。


 それだけに、様子を窺いに行ったリザッドの報告が大事だった。



 一時間後──。


 リュー達が待機している屋敷にリザッドが急いでやって来た。


「レッドラ会長が、今すぐ会いたいそうです!」


 リューは、いよいよケツに火が付いた、いや、大炎上しているレッドラが、どういう判断をするのか確認する為、会談に向かう。


 ランドマーク製の馬車は、あっという間に旧シバイン領都に到着すると、リューはリーンとスード、リザッドのみを連れていた。


 大きな部屋の席にはすでにレッドラが座っており、どこかそわそわしている。


 傍には、いつも通り、ナンバー2のカイアもいるが、こちらは目を瞑って冷静さを保とうとしているようだった。


「それで、奴らの本隊の規模は!?」


 レッドラはリューが現れると挨拶もなく、単刀直入に聞く。


「ボスに率いられた精鋭と思われる者が三百人程でした


 リューは過去形である事は告げず、数だけを報告した。


「せ、精鋭を三百人!? それもボス自らだと……!? ──ただでさえ、こっちは縄張りのどこかで毎日襲撃を受けて疲弊しているというのにか!?」


 レッドラには、『赤竜会』が崩壊していく絶望の音が聞こえていたのかもしれない。


『不死身の男』の異名を持っていた昔の面影はそこになく、絶望に打ちひしがれる弱々しい姿がそこにはあった。


 ナンバー2のカイアも三百人という数に目を見開き驚愕していたが、その目は死んでいない。


「親父! もう、帝国には頼れないよ。その数をこちらに移動できる時点で帝国が黙認しているのは明らかだわ。こうなったら最後まで戦うしかない!」


『赤竜会』の中で一番の帝国支持派だった姿はすでになく、腹を括ったカイアは散る覚悟をしていた。


「馬鹿を言うな! そうなったら全てを失うのだぞ!? 『赤竜会』存続の為に、ギリギリまで帝国軍部に働きかけ、敵の攻勢を止めさせるしか道はない!」


 レッドラはもう赤い竜ではなく、牙が抜け落ちた、ただの蜥蜴だった。


 竜のような勇ましさは失われ、自ら築上げた組織を守る事に執着している。


「僕が止めても良いですよ?」


 レッドラの様子を窺っていたリューは潮時と見た。


「ここはもう帝国領だぞ!? 王国貴族ごときに、何ができると! ……いや、この少年貴族を帝国軍部に差し出せば、うちの価値を帝国軍部も少しは理解してくれるのではないか……?」


 レッドラは錯乱状態で、リューを見つめる。


「はぁ……。──カイア殿、あなたの父親は、引退した方がよさそうだ。味方を敵に売り渡し、叶わない目先の希望にしがみつこうとしている」


 溜息をつくと、リューは現実的な提案をした。


「……その味方とやらは、『赤竜会』に何を与えてくれるというんだい?」


 カイアは苦渋の面持ちで、リューに問う。


「敵を殲滅し、『赤竜会』の武威を示す役割を果たしましょう」


「……それが本当にできるのかい?」


 カイアはリューの自信に満ちた言葉を信じかけた。


「馬鹿な事を申すな! 子供に何ができる! できるとしたら、軍部との駆け引きの道具になるくらいだろう! もし、本当に敵を殲滅できるなら、儂は大人しく会長の座を娘に譲り、この業界から足を洗ってやるわ! わははっ!」


 レッドラはもう、投げやりな言い草だ。


「いいましたね? ここには、あなたをはじめ、カイア殿、護衛のみなさんがいる。言質は取りましたよ?」


「いいだろう。だが、期間は敵がこの街に到着するだろう三日間だけだ。それを過ぎる前に貴様を帝国軍部に引き渡すぞ!」


 レッドラの目は淀んでいる。


「親父! そんな無理難題を吹っかけても現状が変わらないのはわかっているだろう! これ以上は、『赤竜会』の面子に関わるから止めてくれ!」


 娘のカイアは悲痛な表情で、錯乱している父親を見た。


「三日もいりません。もうすぐ、結果が報告されると思うので」


 リューはニヤリと笑みを浮かべた。


「……何を言っている?」


 レッドラはこの自信に満ち溢れた子供貴族の態度に戸惑うしかない。


 そこへ、扉がノックされ、部下が一人飛び込んで来た。


「会談の最中ですが失礼します! 緊急報告が!」


「……何事だ?」


 カイアが冷静に対応しようとする。


 だが、その姿には明らかに動揺が見られた。


 リューがすぐに報告が来ると言ったばかりだからだ。


 部下はカイアの耳元で、何かを告げる。


 するとカイアは目を見開き、リューの方を見た。


 リューは不敵な笑みを浮かべ、黙って頷く。


「……親父。うちの縄張りだったところに拠点を作っていた『吠え猛る金獣』が、『赤竜会』を名乗る者達に殲滅されたそうです……」


「何……!?」


 レッドラもこれには驚きのあまり目を見開き、リューに視線を向ける。


「男に二言はありませんよね、レッドラ会長。いや、元会長、お疲れ様でした。その席は、カイア殿に譲って頂きます」


 リューは立ち上がると、堂々と宣言した。


「ば、馬鹿な!? どうやったのだ!?」


「先程の約束通りですよ。僕達が『赤竜会』の武威を示す形で敵を殲滅した、それだけです。──ああ、そうだった! 手土産もあるので、そちらは煮るなり焼くなり好きにしてください。あとは引き継ぎの時間が必要だと思うので、僕達は一旦帰ります」


 リューの合図で、控室に待たせていたイバルとノーマンが一人の人物を連れて室内に入ってくると、『赤竜会』の護衛に引き渡す。


 人物の頭には袋が被せられており、そこには『金獣のボス』と殴り書きがされている。


 それを見たカイア達が驚愕する中、リュー達は部屋から立ち去るのだった。

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