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第807話 こじれていますが何か?

 リュー達一行は、会談の行われた大きな部屋を出て、待合室に移動していた。


 リーンが室内に防音魔法を使用すると、


「妙な展開になったわね」


 と一言、告げる。


「まさか、帝国と交戦派だと思っていた会長の方が、あっちに靡きかけているとはな」


 同行していたイバルは、会長の心変わりに呆れ気味だ。


「『吠え猛る金獣』の攻勢にそれだけ悩まされているかという事なのだろうけどね。最大の要因はナンバー3だったゴートンと有力若手幹部候補を大量に失った事かもしれない」


 その大元であるリューが、一番の理由を指摘した。


「そこに『黒虎一家』との泥沼抗争があったうえに、戦争で縄張り一帯が帝国領になったらじり貧……か。確かに、心が折れて仕方がないかもしれない……」


 イバルは、『赤竜会』の栄光から衰退までを想像すると、考えを改めて同情する。


「うちもいつかは、そういう日がくるかもしれないからね。他人事ではないよ」


 リューは自戒を兼ねて、イバル達を諭す。


 これには、イバル達も真剣な表情で頷くのだった。



「すまないが、今日はお引き取り頂いていいか? 親父はどうやらかなり参っているみたいでな」


 小一時間待たされたリュー達であったが、『赤竜会』ナンバー2のカイアは、ボスである父親を説得しきれなかったようだった。


「……『吠え猛る金獣』の存在ですか?」


「それだけではないが、昨晩、親父を庇って死んだ護衛は、腹心だったのさ。帝国や『吠え猛る金獣』との徹底抗戦を考えていた親父を支持していた……、な。それが死んで、親父の動揺は大きいみたいだ。あたしが王国に帰順を勧めたら、怒り出すくくらいにね……」


 カイアは父親との逆転した考えに嘆息する。


「一週間ほど時間を貰えますか? 僕達で『吠え猛る金獣』について調べたいので」


「その必要はないわよ。情報ならあたしが提供しても構わないから。それで何が知りたいのさ?」


 元々帝国派だったカイアだから、帝国の内部事情から、裏社会についても詳しかった。


 リューは『赤竜会』の縄張りを荒らしている『吠え猛る金獣』についてできる限りの情報をもらうのだった。



 リュー達一行は、レッドラの屋敷をあとにした。


 そして、一旦、『次元回廊』で『赤蜥蜴組』の縄張りの街に移動すると、イバルとノーマンとは別行動とし、リュー自身は、リーンとスードを連れて、そこからカイアの情報を頼りに東進する。


 情報では、帝国本土に近い『赤竜会』の縄張りはすでに『吠え猛る金獣』のものになっているらしい。


 そこが、旧シバイン領に進出する為の拠点になっている可能性が高いと教えてもらっていた。


「主、どうするのですか? まさか、『赤竜会』と天秤にかけて、『金獣』と何かしらの交渉をするとか?」


 護衛に徹していたスードが、リューの行動が心配になって口を開いた。


「行けるところまでだけどね? 『次元回廊』で国境近くまでは移動できるようにしておいた方が便利ってのもあるし。──帝国側の裏社会にも興味はあるけど、今のところ交渉はないよ。はははっ」


「という事は……」


 スードは何か察した。


「ちょっかいを出している連中を潰すに決まっているでしょ!」


 リューに応える暇を与えず、リーンが当然とばかりに胸を張る。


「リーン。それ、僕のセリフだからね?」


 リューは呆れ気味に苦笑するのだった。



 リューは、二日かけて東部地方の主要な街に寄りながら横断する。


 そして、帝国の警備が厳重な国境付近までは何とか辿り着いていた。


「これ以上、日中の移動は難しいかもね。よし、あとは部下を送り込んで詳細を掴んでもらおうかな」


 リューは、帝国との国境付近の警備態勢や雰囲気を感じて満足したのか、あとは部下に任せる事にして、『次元回廊』で王都に戻る事にした。



 新学期早々、二日も学園を休んでいたが、学園側はリュー達が国の特命によって動いている事は知らされているから、出席扱いになっていた。


 その数日ぶりの教室──。


「おはよう、リュー。現役貴族は、大変だな」


 ランスが深くは聞かず、数日ぶりのリューを労う。


「あははっ……。数日後、また、休む事になると思うけどね」


「そうなのか? 忙しいのはわかるけど、みんな勉強は大丈夫か? また、イエラ・フォレスさんに抜かれるかもしれないぞ?」


 ランスは、リューがなぜ忙しいのかを知らなかったが、成績上位組である五人の心配をした。


「うっ……。それは切実な悩みだから言わないで……」


 リューは痛いところを突かれたとばかりに、よろける素振りを見せる。


「安心せよ。我はこのクラスでは常に三位を狙う事にしたからな!」


 黄龍フォレスの分身体であるイエラ・フォレスは、強力な認識阻害能力で普段から目立たないのだが、成績でリュー達より目立つとそれも意味がないと考えているようだった。


「……その宣言もどうかと思うよ?」


 ラソーエ侯爵令嬢のシズが、イエラにツッコミを入れる。


「でも、イバルやノーマン、スードは順位が落ちる危機じゃないか?」


 シズの幼馴染であるナジンが、リューとリーンの事より、他の友人の心配をした。


「うっ……。それは上司として申し訳ない……」


 リューは鋭い指摘に反省の弁を述べるしかない。


「ちょっと! リューは空いた時間はしっかり、三人の勉強も見ているんだからね?」


 主であるリューが責められているので、リーンがフォローに入った。


「そうだぜ。俺はいいって言っているんだけどな。卒業さえできれば、あとはリューのところで働けるわけだし。まあ、成績を落とすと上司が不満そうだから頑張るけどな」


 イバルが、リューの方を見て笑う。


「リュー君の部下でまともに学校に通っているのは私だけなので、みなさんを抜いて上位に食い込みますね」


 ミナトミュラー商会の従業員である兎人族のラーシュが、冗談なのか本気なのか笑顔で話に入ってきた。


「ふふふっ。私もリュー君達三人を追い抜く為に勉強しているから、今度こそチャンスね」


 リュー達の事情を知るリズ王女も、話に入る。


「僕達は課外授業という形で加点される可能性があるから! ……あくまで可能性だけど……」


 リューは今学期からの自分達の扱いについて、配慮がなされるという話は聞いていたから、それを匂わせた。


「そうなのか!? それはいいなぁ。あっ、でも……、国の為に働いている事を考えると、それも当然か。──みんな、ありがとうな」


 ランスは友人達を代表して、リュー達に感謝するのだった。

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