第803話 三年生の初日ですが何か?
オサナ国王をはじめとして、妹ハンナ達の入学が注目されている中、リュー達は始業式を終え、新学期を迎えていた。
本来ならば三年生は最後のクラス替えが行われる予定であったが、学園襲撃事件により現状のクラスのままが安全を保てるという事で変更されない事になった。
その為、隣の特別クラスもエマ王女達が成績に関係なくそのままという事になっている。
クレストリア王国としても他国の姫君を国内事情で事件に巻き込みかけた事もあり、リズ王女と同じクラスにするのは避けた形だ。
「リズさんと同じクラスになれると期待していたのですが、残念です」
エマ王女は、リズ王女クラスまで新学期の挨拶に来ると、そう漏らした。
「ふふふっ。隣のクラスだからいつでも会えますよ」
リズ王女は、この気心の知れたエマ王女に微笑んだ。
「そうですが、リズさんと同じクラスになれると思っていたので、期待した分残念です……。──こうなったら来年に期待しますね!」
エマ王女は残念そうに笑顔を浮かべた。
「姫様、四年生は環境の変化で就職活動に影響が出ないように、三年時と同じクラスのままのはずですわ」
エマ王女の身辺の世話もしているノーエランド王国財務大臣の令嬢アリス・サイジョー(十二歳)が、重要な指摘をする。
「そうなの? ……もう! みんなと一緒のクラスで楽しみたかったのに」
エマ王女は、リズだけでなく、リューやリーン達とも同じクラスになるのを楽しみにしていたから、不満を漏らす。
「はははっ。クラスが違う事で楽しめる事もあると思いますよ。特にエマ王女殿下のもとには僕達に対抗意識を持って頑張っているみなさんがいますし」
リューが笑って二人の会話に入った。
「姫様、我々はノーエランド王国を代表して編入している事をお忘れなく。同じクラスにまでなって、これ以上馴れ合うと対抗意識が萎えてしまいますから、隣のクラスで丁度いいかと思いますよ?」
ノーエランド王国宰相の子息サイムス・サイエンが、リューの言葉に刺激されたようだった。
「そうだぜ、姫様。リューの旦那には、全く勝てる気はしないが、他の生徒には成績で勝ってノーエランド王国の意地を見せたいですからね。同じクラスだと現状に満足してしまうかもしれないですよ」
海軍元帥の孫シン・ガーシップも幼馴染を支持する。
「はははっ! 同じクラスかどうかは、関係ないって。俺なんか、成績一桁順位を目指して仲間を倒す気満々だぜ?」
そこにランスが笑って話に入った。
ランスは前回のテスト結果が十一位だったから一桁順位も射程圏内なのだ。
「慣れ合いじゃなく切磋琢磨できる友人関係を築けばいいだけじゃない? 同じクラスかどうかは関係ないわよ」
ここでリーンが正論を口にする。
これには、サイムス・サイエン達も「うっ……」と言葉に詰まった。
「はははっ! とにかく新学期も仲良くすればいいだけだよ。テストはお互い頑張るという事で」
成績で一番であるリューが言うと、誰もが納得するしかない。
リューはほとんどずっと、一番を取る事で実力を示してきた人物だからだ。
誰もがノーマークであったイエラ・フォレスの登場で二番になる事もあったが、それでリューの言葉の重みが失われる事は無い。
それくらいリューは学園内外で実績を積んできている。
「リュー様は、私と一歳違いとは思えないくらいしっかりしていますね」
エマ王女は微笑むと改めてこの命の恩人に感心した。
「リュー殿は特殊な方なので比べるだけ無駄ですよ、姫様」
サイムス・サイエンが苦笑する。
これには、エマ王女一行だけでなく、リズ王女達も同意するように大きく頷く。
「ちょっと! リューが変な人みたいな言い方止めてよね? リューは家族思いのしっかり者で努力家なだけよ!」
リュー贔屓のリーンがみんなの頷きに不満を漏らすのであった。
ちなみに、始業式の後、表彰式が行われる事になった。
それは、リューと新二年生のエクス・カリバール二人の昇爵に対するものと、学園襲撃事件でリズ王女を守る為に死闘を繰り広げた新四年生のジョーイ・ナランデールらの叙爵式である。
すでに、正式な叙爵、昇爵は終わっているのだが、学園としてはこんな名誉な事は、復興後の士気高揚も兼ねて全校生徒の前で改めてやる事に意義があるという事らしい。
ちなみに、ランスやナジン、ラーシュ、シズ達にも叙爵の打診があったのだが、それを全員が断っていた。
その理由は、友人を守ろうとしただけ、だそうだ。
命を賭して王族を守ろうとしたのだから叙爵に値すると思うのだが、見返りを求めて戦ったわけではないと、各自が使者に伝えたというのだから、それを聞いたリューは、友人として誇らしかった。
リズ王女もそれを聞いて、感動に人知れず泣いた事は誰も知らない。
リズ王女は当時、友人達が負傷し、倒れていく様を見て、自分が出ていけばみんなが助かるかもしれない。
王女としては失格な思いが脳裏を過った事もあったから、それだけにこの友人達の言葉には救われた思いだ。
特にシズの幼馴染であるナジンなどは、当時重傷を負った事で、その体には治癒魔法では消せない程の大きな傷跡が残っていたから、感謝の思いは強い。
リズ王女はナジンにその事でお詫びをしたいと思っていたが、ナジン本人は、
「友人を守って付いた傷だから逆に誇らしい」
とランス辺りが言いそうな事を言ってリズ王女を励ましたのも、王宮の一室での出来事だ。
「リューはこれで子爵かぁ。うちは男爵以上になる気が無い家柄だからあれだけど、他の連中はリューが在学中に実家の爵位を追い越されるんじゃないか?」
ランスが式の最中に、整列している友人達にそう漏らす。
「……この中で、実家の爵位に追いつかれそうなのは、あとはナジン君くらいだよね?」
シズが後ろを振り返って幼馴染のナジンに危機感を煽る。
「うっ……。──ま、まあ、マーモルン家も伯爵としての地位に誇りを持っているから、リューに追いつかれても何とも思わないさ」
ナジンはシズの煽りに多少困るのだったが、リューの能力を考えたら追いつかれるのは十分あり得た。
まあ、上級貴族への昇爵は基本、実績があっても余程の事が無い限り上がらないのが慣例である。
とはいえ、ランドマーク伯爵家のような国の文化に関わるような貢献をした者は当然別である。
実際、実績を上げてすぐに上級貴族に昇爵したのは近年、ランドマーク家以外にはほとんどいないのだ。
ましてや、リューはランドマーク家の与力であったから、その寄り親と爵位で並ぶ事はないだろう。
リュー本人もランドマーク家の与力である事に誇りを持っており、独立する気はなさそうだ。
友人達は、舞台上で照れるリューに拍手を送りながら、改めてこの友人の規格外な活躍を思い出し、その凄さに呆れるしかないのだった。