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第801話 象徴的存在ですが何か?

 クレストリア王国王都最大の商業施設ランドマーク総合ビルは、文字通りの大きさと高さで王都民達の話題になった事は言うまでもない。


 初日から大勢が訪れ、最初は恐れられていたエレベーターも沢山の人が利用して話題になった。


 それと一緒に併設されたエスカレーターも驚きと感動を持って歓迎された。


 なにしろ七階建てというだけでも、度肝を抜かれる大きさであったし、その七階まで楽に上がれるという事で行ってみる価値がある。


 その七階にある喫茶『ランドマーク』の眺望は、お客だけしか味わえないものだったので冷やかしの者は入れなかったが、それでも閉店まで満席だったからその人気もわかる。


 商業エリアは、初日という事で出店している各店舗は、目玉商品を用意したりして、客引きを行い、売り上げもかなり良かったようである。


 やはり、この総合ビル自体の集客率が高いので、人気のなさそうなお店でも黒字になっていたくらいだからランドマーク総合ビル様様だった。


「これだけ大きいと、閑古鳥の鳴く店も自ずと出てくると思いましたが、各店の努力もあり、客同士の喧嘩はありましたが、ほとんど問題なくすみましたね」


 初日の閉店後、総管理者であるレンドが、総合ビル内の管理事務所内で安堵した様子だった。


「僕もこれ程の注目を浴びるとは思わなかったよ。それに、早くも復興し始めている王都を、お客さん達が眺めて感動してくれていたのは良かったなぁ」


 リューもレンド同様、初日が大成功で終えた事が嬉しかった。


「近所のおばあちゃんも、感動していたものね。王都占拠事件で、自分のお店が燃えてしまった時にはもう、『全て終わりだ……』と嘆いていたから」


 リーンは以前、ランドマークビルの近くで商売をしていたおばあちゃんの事を例に挙げた。


「それって、うちの三階で新たにお店を出す事にしたおツルさんの事ですね? あのおばあさん、以前よりも元気なくらいですよ?」


 レンドはすぐに誰の事か理解して笑って応じた。


 近所で商売をしていて焼け出されたお店の人々は、現在、ランドマーク総合ビル内にお店を構えている者がほとんどだ。


 父ファーザや長男タウロ、そして、リューがご近所の商売仲間に声をかけて、再建するお金がない人々に支援を行っていた。


 その一部は住居エリアに住み、商業エリアにお店を持つ事になって、今日を迎えた形だった。


 誰もが幸せになったとは言わないが、ご近所を見放さず、一緒に力を合わせてこのランドマーク総合ビルの開店を行った事で、この地域の結束は固まっている。


 その為、この一帯の民衆にとってランドマーク家は王都の象徴になりつつあった。


 もちろん、王都を治めるのは王家である。


 その『王家の騎士』の称号を持つランドマーク伯爵家は、平民の為に親身になってくれる稀有な貴族として、絶大な人気を得つつある。


「はははっ! あの、おばあちゃんか。確か、あと五十年は生きてこれからの王都の発展を見守る! って気合い入れていたよ。ここが、この地域の活性化に繋がって良かったよ。やり方を間違えると、地域の人々にマイナスになる事があるからね」


 前世でヤクザが土地の買収を行い、そこに大型店舗を作る事で、地元の商店街が潰れるという誰も喜ばないような状況を目撃した過去があったからだ。


 それだけに、リューは心の底から安堵していた。


 リューはそれに配慮し、長男タウロが近所の土地の買収を行う際は、ビル内に出店を進めていたのでお互い納得しての事であったから、不幸な道を避けられている。


 父ファーザもその為に、ご近所の挨拶回りを丁寧にしていた事もランドマーク家の人気の一助になっていた。


 貴族が平民に頭を下げて回るというのは、中々できない事だ。


 いや、これまで、それをやった者はいないだろう。


 腰が低いと、貴族の品位が! となるところも、父ファーザや長男タウロがやると説得力を持って相手はさらにへりくだるという図式になるのが不思議であった。


 これも、家族の人徳のなせる業であると、リューなどは贔屓目に見ていたが、実際、民衆の心を掴んでいた。


「坊ちゃんが言っていた、競争原理が過剰に働くと、結果的に全体の活力が失われる、というやつですね?」


 レンドがリューの過去の言葉を思い出して指摘した。


「うん、お互いが切磋琢磨できる環境下だと正常に働くけど、相手を叩きのめすやり方をする事で好敵手がいなくなる。その後は惰性での商売になり、結果的に活力が失われるという事だよ。ご近所さん達が総合ビル内でお互いに刺激し合って競争し続ける事で活気を保つ事が理想かな」


 リューは昔ながらの商店街が好きであったが、商売をする以上、発展させるうえで犠牲は付きものだと考えていた。


 だが、その地域を制して他を焼け野原にするのではないやり方を考えたのが、地元の商売人達も利益を得られる、出店方式だったのである。


 これなら、個人商店の者達の負担も安く抑えられ、今まで以上の利益が見込める商売ができるのだから、お互いウインウインであった。


 情報交換ができる状態にする事で、誰かが置いて行かれるという事もない。


 後は、各店舗の努力次第という形だ。


 さすがにリューも、努力しない者に利益を分配する気は毛頭ない。


 そういう者は出ていってもらう事になるだろうが、今のところはみんな、この総合ビル内で如何にして今後も商売を成功させていくかを知恵を絞っていた。


 それが出来ている間は、このランドマーク総合ビルは安泰だろうと考えている。


 この規模のビルを造れるのは、ミナトミュラー商会建築部門の技術力があってこそであった。


 設定作りもリューの発想とランドマーク家の人徳と求心力があってこそでもあったから、他所がマネしてすぐに成功できるかというと、難しいかもしれない。


「私の考えでは、今、他所がマネするのは不可能だと思うわ。ランドマーク家の資金力と人徳、リューの発想と技術、そして、今の地位があってこそ成立する気がするから」


 リーンは少し考える素振りを見せると鋭い指摘をする。


「はははっ、さすがだね! 僕もそう思う!」


 リューは笑ってリーンを評価すると、あとはレンドに任せて、自宅に戻るのだった。

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