第798話 新たな象徴になりそうですが何か?
ランドマーク総合ビルの改装開店は着々と進んでいた。
すでに商業エリアの店舗は埋まり、各店、開店までに従業員の教育から、どう販売展開していくかの研究が行われている。
当然、他所の店舗を参考にするというのが基本だろう。
その中で、やはり、誰もが挨拶がてら参考にする為訪れるのが、ビルのオーナーであるランドマーク商会系列のお店である。
新たな総合ビルになる事で、一番の人気店であった喫茶『ランドマーク』は、商業エリア二階から同じく商業エリアの最上階である七階に移動した。
これにより、窓際の席やテラス席などからは、眼下に王都を楽しみながらの休憩が取れる事になった。
ちなみに、ランドマーク総合ビルは、今回、周辺の土地も買い占めているので、商業エリアと呼ばれる中央と、その左右には住居エリアと宿泊エリアが一体となる広さとなっている。
特に、住居エリアはとても広く取ってあり、最上階の七階エリアはランドマーク家の自宅をはじめとし、親しい派閥の上級貴族から他国の王族の住居もあった。
当然、六階より下も優先されて入っている同派閥の下級貴族や諸外国の重臣なども入居しており、すでに生活が始まっている。
各階には共有スペースも設けられ、運動する場所も完備しているので、ここですでに貴族や各国の人々との交流が始まっていた。
ランドマーク伯爵派閥の貴族達も、これを機に、リューの次元回廊を利用して王都に乗り出す者もいたので、積極的にスゴエラ侯爵派閥との交流や各国の大使などとも言葉を交わしているようだ。
そこに、リューの歳の離れた友人であるオイテン男爵も、リューの紹介のもと、その輪に入って交流を始めている。
時には息子のワース・オイテンや若い妻を紹介して家族ぐるみの付き合いを他国との貴族とも行っているとかで、オイテン男爵は老いて益々盛んであった。
リューはオイテン男爵の能力をとても買っているので、この動きを歓迎している。
と言うのも、現在、クレストリア王国は、各地の貴族を処罰した事で王家直轄領がかなり増えつつある程、貴族の人材が不足しているのだ。
オイテン男爵は、それこそ引退間際と言ってもいい年齢ではあるが、能力があるし、息子が成人するまでは頑張る意向を示していた。
国としては使える者はスライムでも使いたいくらいであったから、リューとしては、オイテン男爵を外交官として推薦したいのである。
もちろん、他国ではなく、国内で各国大使やその関係者を相手にする人物としてであるが、オイテン男爵の人となりなら、それも上手くやってくれるだろうと考えていた。
だから、オイテン男爵にはこの住居エリアで積極的に交友関係を広げてもらう必要があったのである。
まあ、リューが心配する必要もないくらい、オイテン男爵とその家族は、積極的に動いてくれていた。
きっと、リューの心遣いを理解して、それに応えてくれているのだろう。
利発な嫡男ワースなどは、リューと顔を合わせる度に、尊敬を表すように恭しい挨拶を忘れない。
リューとしては、そういうのは困るのであったが、
「ワースはリュー殿を尊敬しているのは事実です。それに私達家族は寄り親以外ではリュー殿に一番お世話になっていますから、息子の態度は当然ですよ」
とオイテン男爵は笑って答えたものである。
嫡男のワースはまだ六歳だが、その利発さと礼儀正しさから、この住居エリアではすでに有名になりつつあった。
将来が嘱望される人物には唾を付けておきたいのが、各国の大使や各派閥の貴族達であるから、この頭のいいワースと話した者達は、無下に扱うわけがない。
親のオイテン男爵も紳士的で嫌味のない人物であったから、この親にしてこの子あり、というもので、付き合っておいて損はないと考えるのが、当然である。
それに、この国の『王家の騎士』の称号持ちであるリューの紹介でもあったので、誰もが、今は男爵でも将来性を考えると、王宮で力を持つのも時間の問題だと思う者が多いのであった。
こうして、住居エリアでは、リューが狙っていた交流が、ランドマーク総合ビル内で自然と行われ、新たな人脈が形成されていく。
本家のランドマーク家は当然として、ミナトミュラー家や、シーパラダイン家の名声もこうして確実に近隣諸国にも伝わる事になるのであった。
リューは住居エリアはもう問題ない状態になっている事に満足すると、管理者であるレンドにもその事を伝える。
「リュー坊ちゃん。それは良いですが、管理するこちらの身にもなってくださいよ?他国の王侯貴族も入居した事で、その対応も大変なんですから」
王都のランドマーク家の執事とも言うべきレンドは、大して困った様子ではなかった。
「なんだ、充実しているみたいじゃない。それに、建物の造りについては僕も色々考えて動線を作っているから、警備体制は敷きやすいでしょ?」
リューはこの優秀な管理者の働きぶりを評価しているので、管理については心配していない。
それに、警備もしやすいように、住居エリアへの動線は限られており、余所者が入るとしたら、内部の者が招き入れるしかない。
それも、出入り口で警備員が確認を取るので、何か起きた時はすぐに対応できるようになっている。
「そうなんですよね。専用階段やエレベーター? の出入り口を抑えるだけなので、警備はしやすいです。リュー坊ちゃんもよくここまで考えて建築しましたね。俺ではさすがにあそこまでは気が回らないですよ」
レンドは、相変わらず先の先まで考えているリューの頭脳に感心するどころか呆れるしかない。
「私も一緒に考えたのよ? まあ、ほとんどはリューの案だけど」
この建物の弱点を探してはリューに指摘していたので、その結果、警備体制は万全になっていたから、リーンが誇るのも当然であった。
「リーンは僕の護衛をしてくれているから、いろんなところに目がいくから助かったよ」
リューはこの半身と言ってもいい家族が頼もしい。
「はははっ! 坊ちゃん達が知恵を絞って造ったのは、管理してみてよくわかりましたよ。お陰で、ご指摘通りやりがいがあります。──そうだ、商業エリアは見て回りました? この数日の間、開店を前に入居者がすでに利用しているので、結構賑わっていますよ」
レンドはこの頼もしい少年達に、見てもらいたくてそう伝えた。
「あとで一階から確認する予定だよ。開店もあと数日後だしね。ついでだから、お父さん達も呼ぼうかな」
「それは助かります。そろそろファーザ様かタウロ様に最終確認してもらわないと、俺も困りますから」
レンドはリューの言葉に思い出したように、応じる。
「お父さんは、こっちの事はタウロお兄ちゃんに任せるつもりみたいだけどね。とりあえず、みんなを呼ぶよ」
最近、長男タウロに王都の仕事は任せて、本領の方で忙しくしている父ファーザの事を頭に浮かべた。
そして、記念すべきランドマーク総合ビルの開店だから万全を期して家族を呼びに、本領へ『次元回廊』で向かうのであった。




