第794話 人気者達ですが何か?
ハンナの王立学園合格が決まり、ランドマーク本領では、お祭り騒ぎになっていた。
もちろん、ハンナだけでなく、自領の平民出身でありハンナの親衛隊を自称する二人、イトラとフレトが合格した事も当然理由の一つとしての騒ぎだが、何よりハンナが領民に愛されている事が一番にある。
ハンナはイトラとフレトなどの平民達と遊んでいる姿がよく見られていたので、領民達も温かい目で見守っていたのだ。
それに、ハンナは兄であるリューを尊敬していた事から、領民の役に立つ事を常に考え、普段から魔法で道の舗装や修繕を行ったり、領民の住居建築に携わる事もあった。
その他にも上下水道の工事でもその才能あふれる魔法を駆使して、お手伝いをする事もあり、以前のリューが崇められたように、ハンナを崇める者がいた程である。
そんな慕われていたハンナであったから、親衛隊の二人共々、祝福される事になったのであった。
「合格おめでとうございます! お嬢が、王都に行ってしまうと寂しくなりますが、リュー坊ちゃんのように活躍して、その知らせがこの領都に届くのを楽しみにしていますよ!」
合格の知らせと入学準備の為に戻っているハンナ達、そして、リュー達に祝辞を述べる為、領民の代表者が、領民を引き連れて城館まで挨拶に来ると、応接室でそう告げた。
「おじちゃん! それにみんなも……、わざわざ訪ねて来てくれてありがとう!」
ハンナは、顔見知りの相手なのだろう、親しい物言いでお礼を言う。
ハンナは文字通り、リューとリーンが王都に行ってしまった後の、領都のアイドルであったから、領民達はそのハンナの頑張りが報われた事がとても嬉しいのだ。
それに日頃からハンナは、
「リューお兄ちゃんみたいに、家族やみんなを守れる強い人になりたいの!」
と宣言していたから、リューを追ってその道を確実に歩んでいる事が、日々の成長を見てきた領民達も誇らしかった。
「我々にとって、お嬢は、光ですから。これからも自分の道を進んで周囲を照らしてくださいよ」
領民の代表であるおじさんはそう告げると、領民一同からの合格祝いだと、金に縁どられた中に、加工された青い色の小さい魔石の入ったネックレスを贈る。
リューはそれを鑑定スキルで何気に確認すると、光魔法、水魔法を強化する力が付与されているかなり高価な代物であった。
ランドマーク領の職人さん達の技術も相当上がってきているなぁ……。
とリューは感心する。
「こんな高そうなものは、受け取れないよ、おじさん」
ハンナはとても出来のいいネックレスに驚き断る。
「これは日頃お世話になっているとみんなが感じているから用意されたものだよ? ハンナに対する感謝の証だから、受け取って大切にしな」
リューは、領民に慕われるハンナを誇らしく感じながら、そう背中を押す。
「……お兄ちゃんが言うのなら……。──みなさん、こんなに綺麗なネックレスありがとうございます、大切にするね!」
ハンナは感涙に目を光らせながら、領民達にお礼を言う。
「はははっ! お嬢、感動するのはまだ早いぞ、入学式も先なんだしな!」
代表者であるおじさんは、ハンナに少しもらい泣きしながら元気よく応じると、他の領民達が持ってきた食べ物などの差し入れを次々に並べていく。
そこへ父ファーザが騒ぎを聞きつけて、応接室までやってきた。
「今日はどうしたんだい、みなさん? ああ! 娘の為に祝いに来てくれたのですね。これはありがたい。よし、これから、みなさんで飲みましょうか! ──セバスチャン、中庭に食事の準備を!」
父ファーザもハンナの合格が嬉しくて、前日は合格祝いのパーティーを家族で開き、結構な量のお酒を飲んだばかりであったが、今度は領民達と一緒に祝う判断をする。
こうなると母セシルが、連日大量のお酒を飲もうとする父ファーザを怒りそうなものであるが、領民の嬉しそうな雰囲気を壊すほど野暮でもなく、母親としても合格を自分の事のように喜んで慕ってくれる者が沢山いるハンナを誇りに思っていたから、そこは大目に見るのであった。
この日、即興で始まった合格祝いパーティーは、ハンナと親衛隊の二人であるイトラとフレトも一緒に主役としてもてはやされ、夜遅くまで行われる事になるのだが、それを聞きつけた他の領民達も祝いの品を持参して参加するものだから、その賑わいぶりは収まらない。
「ハンナは本当にみんなに愛されているわね」
リーンが自分の事のように喜んでリューに言う。
「うん。家族や領民を大切にする気持ちを持って成長した事が誇らしいね!」
リューも中庭の隅で、リーンと二人喜びを分かち合う。
そこに、次男ジーロとその婚約者であるソフィア・レッドレーン嬢がやって来た。
「ハンナはいつの間に、あんな人気になっていたの?」
次男ジーロもこの数年はスゴエラ侯爵領の学校か、シーパラダイン子爵領にいる事が多かったので、領内でのハンナの人気ぶりに驚いた様子である。
「それを言ったら、ジーロお兄ちゃんとソフィアさんがシーパラダイン領の領民に人気があるのと一緒だよ?」
リューは笑ってこの仲睦まじい二人を冷やかすように言う。
「僕達はハンナに比べるとまだまだだよね?」
ジーロは将来の奥さんにおっとりと聞き返す。
「ふふふっ。あなたやタウロさん、リュー殿の人気もいい勝負ですよ?」
ソフィアは、この兄妹達の領民から慕われる人柄に笑顔が漏れるとそう告げる。
「「それを言ったらタウロお兄ちゃんが一番でしょ?」」
ジーロとリューが声を揃えて、人たらしの人気者である長男タウロの名前を口にした。
そこへ、名前を呼ばれて気づいた長男タウロが、奥さんのエリスとみんなのところにやってくる。
「なんだい二人共? 僕を呼んだよね?」
「領民に一番慕われているよね、って話だよ」
リューが尊敬する長男に正直な気持ちで答えた。
「はははっ! それはリュー達じゃない? うちの領地だけでなく自領でも慕われているじゃない。あ、でも、最近のハンナの人気は一番凄いかもしれないなぁ。──ねぇ?」
長男タウロは謙遜すると奥さんのエリスに確認する。
「うふふっ。私達から見たら、リーンさんを含め、ランドマーク家の家族みんなが領民に慕われていると思いますよ」
エリスはジーロの婚約者であるソフィアと視線を交わすと、他所から嫁いだ者からみて、忌憚のない意見を述べた。
ソフィアも義理の姉になるであろうエリスと同意見とばかりに笑って頷く。
「比べるまでもないって事よ。みんなの笑顔を見ればそれがわかるじゃない」
リーンがパーティーに来ている領民達の楽しそうな雰囲気から結論を出す。
兄弟三人は目を見合わせるとリーンの言葉に納得した様子になる。
そして、その幸福を祝うように、手にしていたコップで乾杯し直すのであった。