第793話 当然合格ですが何か?
この日、王立学園の入学試験結果が発表された。
成績順位は発表されなかったので、詳しい事はわからないが、妹のハンナは無事合格していたのでみんなで喜びを噛み締める。
場所は、王都のランドマーク総合ビル自宅。
「やったね、ハンナ!」
リューは試験の手応えを聞いて合格するであろう事は確信していたが、やはり、実際に合格を当人から聞くと、嬉しいものだ。
「うん、ありがとう、リューお兄ちゃん! ココちゃんやイトラ君、フレト君もみんな一緒に合格できたよ! これで同じ学校だね!」
ハンナは満面の笑みで尊敬するリューと喜びを分かち合う。
ちなみに、イトラ、フレトとは、ランドマーク本領でのハンナの親衛隊を務める少年二人であり、能力が非常に優れていた事から、領主である父ファーザが将来への投資とばかりに資金を出し、ハンナと一緒に王立学園を受験させたのである。
「これでココちゃんは別として、ランドマーク本領から一気に三名もの生徒が誕生かぁ……。──兄として、先輩として、とても鼻が高いよ」
リューは感慨深げに感想を漏らす。
リューが主体となって、ランドマーク本領に学校を作って辺境の識字率を上げるところから始まった事を考えると、わずか数年で国内一の王立学園に平民の生徒を二人も送り込めたのは、実績としてかなり大きい。
特に学校を任せているシキョウという女性責任者の頑張りが大きいだろう。
任せた当初から責任をもって、地元の識字率を上げる事に粉骨砕身してくれていたのが、今ではその学校から優秀な者をどんどん輩出している。
その集大成がイトラとフレトの二人なのだ。
まあ、この二人は、幼少期にリューから「ハンナを守れる騎士になれ」と発破をかけられた事から努力をし続けていた。
そんな二人も元は、リューの事を兄貴と慕っていた子供達なのである。
だからきっかけは全てリューであったのだが、リューにとっては二人の努力の賜物であったので、それを評価してイトラとフレトには制服の仕立てや靴、鞄など必要なものをリューが用意する事に決めた。
まあ、リューがやらなくても、父ファーザが用意したとは思うのだが、これはリューがきっかけでの合格だから、そこは弟分達の面倒を見る事にするのであった。
そのハンナ、ココ、イトラ、フレトの四人は実のところ、王立学園の受験生の中でもかなり良い点数を取っていた。
今回の受験は新国王のオサナ陛下も受験したという事で、成績順位は発表していなかったから表沙汰にはなっていないが、ハンナは主要なスキルである『賢者』と『天衣無縫』を、能力の『鑑定阻害』で秘匿し、あとになって取得したスキル『テイマー』のみで受験して、その結果、一位で通っていたのである。
とは言っても、魔法は『賢者』持ちであるから、イバル以上に全属性を使いこなせるし、ランドマーク家直伝の剣術も『天衣無縫』でかなりのレベルに達していたので当然と言えば当然であった。
弱点があるとすれば、ハンナは非力という事くらいだろうか?
それでも、魔法やスキルでそれをカバーするだけの能力を持ち合わせていたのだが……。
スキルについても、試験会場周辺に待機させていたムササビデビルのサビを、試験官の前に呼び出して、驚かせた事は言うまでもないだろう。
実際に試験官は、この『ゴブリンハント種』という狂暴なはずのムササビデビルを自在に操り手懐けているという、まだ、十二歳のハンナに高い評価を与えずにはいられなかったのである。
そして、親友であるココはというと、兄であるノーマンと同じくその天才ぶりを発揮していた。
得意分野として魔法を見せたのだが、ハンナと連日練習したお陰で入学前の子供とは思えない実力を示し、他の受験生達が自信喪失してしまう程であったようだ。
そして、ハンナの親衛隊イトラとフレトは全ての試験をそつなくこなし、その全てがとても高いレベルに達していた事から、穴のない好成績で合格を決めていた。
ちなみに全員の順位は、
一位ハンナ
二位ココ
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七位イトラ
八位フレト
といった感じである。
ちなみに、オサナ国王は、まだ、九歳という事で学ぶ時間が他の受験者よりも少なかった為、順位は六十五位だったが、それでも受験者としては立派な合格ラインの成績だ。
もちろん、この順位は学校側が秘密にしていたので表に出る事はなく、入学式の新入生代表挨拶もオサナ国王自身が行ったので、ハンナ達の実力は試験会場で直接目撃した受験者のみが知っている状態であった。
その受験者達も決して合格者ばかりとは言えなかったので、ハンナ達の実力を知っているものは、ほぼいない。
つまり、その真の実力は学園生活で明らかになっていく事だろう。
とはいえ、学園の教師陣の間では、当然、話題になっていた。
なにしろあの『王家の騎士』、学園の始まって以来の現役子供子爵であり、ずっと成績上位に君臨しているリュー・ミナトミュラーの実の妹であり、あのランドマーク伯爵家の令嬢だからである。
その美貌も高い評価をされていたので、早くも将来を期待される状態になっていた。
それに、現役生徒であるノーマンの妹であり、ミナトミュラー商会の従業員という肩書を持つココや、ランドマーク伯爵領の領民としてイトラとフレトも成績上位に入っていたので、リュー・ミナトミュラーの関係者には優秀な者しかいないのか!? と職員室がざわついた事も記述しておく。
こうして、妹ハンナも王都における学園生活が始まろうとしているのであった。




