79話 今年も甘味を用意しますが何か?
今年も一年の集大成である収穫の時期が近づいていた。
この時期はランドマーク領の発展が感じられるのでリューも楽しみだった。
そして、収穫後の領民の最大の楽しみが豊穣祭であり、リューが用意する甘味の出店だ。
贅沢な砂糖菓子が安く食べられる機会だから、領民もウキウキしていた。
「去年食べた、『チョコバナーナ』は美味しかったから、また、あれを食べたいなぁ」
「俺は『リゴーパイ』も好きだけどな。あ、お前は移り住んできたばかりだから、リゴーパイは食べてないか?」
「なんだそれ?美味しいのか?」
「サクサクのパイ生地と、砂糖で味付けされた甘いリゴーの実が本来の酸味と相まって絶妙なんだよ。まあ、チョコバナーナも美味しかったけどな」
元からいた領民は移民したての領民に、ここ数年味わってきた砂糖菓子を自慢するのだった。
そういう事で領民達の期待は大きい。
リューは今回、何にするか悩んだが出店と言えば、何だろうかと考えるとやはり答えは限られてくる。
前世でも人気があり、こちらの技術で作れるもの。
「……よし、今年はクレープだ!」
リューは早速、ランドマーク家の料理長に相談すると、連日、試行錯誤する事になった。
前世での知識を頼りにリューは生クリームを作る事にした。
生クリームは、原材料のクリームが作れれば簡単にできる。
それは、精製していないモーモー(牛)の乳を加熱殺菌した後、放置、冷却してクリームを上層に分離させる事で出来た。
あとは、そのクリームを器に入れそこに砂糖を入れる。
それを冷やしながら(氷魔法)ひたすら混ぜる(風魔法)。
八分ほど混ぜたら出来上りだ。
これを大量に作った。
料理長もリューのアドバイスを受けて、一緒に作ったのだが、こちらは自力でかき混ぜていたので翌日、腱鞘炎になり料理作りに大きく支障が出たのだった。
意外に苦心したのが、生地だった。
前世でテキヤ担当の先輩極道が、器用にT字の木の棒を使って円形に生地を伸ばし焼いていたものだが、同じものを作ってマネしてみたらムラが出来てこれが結構難しかった。
リーンは横で見ていたのだが、
「リューがやりたい事がやっとわかったわ」
というと、簡単にこれをやってのけた。
意外なところで意外な開花であった。
「おお!リーンは器用だよね。クレープ屋さんに向いてるかもしれない!」
と褒めると、まんざらでもなかったのか、
「ふふん。私、エルフよ?器用に決まってるじゃない。クレープ屋さん?には、ならないけど」
と、鼻高々であった。
これはイケると思ったリューはリーンを褒めると沢山生地を焼いて貰う事に成功するのだった。
リーン、チョロいぞ。
と、思うリューであったが、もちろん本人には言わないのであった。
あとは具である。
リューは、バナーナとチョコと生クリームの組み合わせだけで最強の気はしたが、幸い魔境の森の奥地に入ると珍しい果物も手に入りやすい。
新たな発見もあるかもしれないし、祖父のカミーザにも協力して貰って、集める事にした。
「おーいリュー!こっちのこの紫色の小さい実、甘酸っぱくて美味しいぞ?」
「キャー、リュー!この赤い実も、甘くて酸味があって美味しいわよ!?」
多くの人々が恐れ、冒険者と言えど、そう軽々と踏み込めない魔物達が跋扈する魔境の森で、それに似つかわしくない声が上がっていた。
カミーザが発見したのは前世で言うところのブルーベリーで、こちらではブルンの実と言うらしい。
リーンが見つけたのは、前世で言うところの苺だった。
こちらではイイチゴと言う。
リューも毛モジャの実を発見した。
この3種類だけでも十分みんな喜んでくれると確信したリューは集められるだけ集めてマジック収納に次々と入れていくのだった。
屋敷に戻ると、祖母のケイからメイド、使用人も集めて試食会を行う事にした。
リューとリーン、料理長で、みんなの前でクレープを作っていく。
「今回は簡単で良いのう」
カミーザは前回カカオン豆からのチョコ作りを見ていたので簡単に出来上がっていくクレープに感心していた。
「これが、『クレープ』か?白いのはなんだ?」
ファーザがリューが布を搾ってクレープ生地に出していた白い物体を覗き込んで聞いてきた。
「これは、生クリームだよ。美味しいよ」
そこに仕上げとばかりにランドマーク家自慢のチョコを溶かしたものを全体にかけて折りたたんでいくと完成だ。
みんな勧められるがまま、見た事がない果物が入った、生地に包まれたクレープを一口頬張った。
「「「「「「美味い!」」」」」」
一同は、その美味しさに感動するのだった。
「この生クリーム?の甘さとチョコの甘さと苦み、果物の甘さ、そして、酸味。複雑な味がこの生地に包まれて一体になってる!」
「この生地自体には味が付いてないけど、他の味を引き立てて、食感にもアクセントを付けてるから良いね!」
「こんな美味しいもの、チョコバナーナ以来です……!」
次々に高評価が点けられた。
これで今年も領民に喜んで貰えるぞ!
リューは確かな手応えを感じるのだった。