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第788話 裏社会の動きも心配ですが何か?

 裏切者であるシバイン元侯爵派閥貴族暗殺計画が密かに進行する事になった。


 リューはいきなり、東部に部下達を『次元回廊』で送り込むのではなく、まずはリューとリーン、スードが東部地方に移動し、そこからランドマーク製の馬車を使って北東部を目指す事にした。


 というのも、今や、北東部地方は帝国の占領下としてクレストリア王国の支配下ではなくなっている事で、侵入自体が難しくなっているからだ。


 そこへ闇雲に部下を送り込んで、危険を冒させるつもりはない。


 まずは、リュー自身が、帝国占領下の北東部地方に潜入して、そこに『次元回廊』の出入り口を作り、安全を確保したうえで部下達を送り込むのが上司として最低限やれることだと考えていた。


 だから、東部の裏社会で現在、一番勢いがあるコーエン子爵(昇爵した)率いる『蒼亀組』の力を借りる事にしている。


『蒼亀組』は、現在帝国領になっている地域に本部を置く『赤竜会』と敵対関係にあるので、以前から情報収集の為、間者を多く放っているからだ。


 その為、北東部の情勢や地理にも明るいのでリューとしてはとてもありがたい存在である。


 リューのお陰で、コーエン子爵も戦時には帝国軍の攻勢を防ぎ、打撃を与える事が出来たお陰で昇爵もしたし、寄り親であるサクソン侯爵からもこれまで以上の厚い信頼を得ることが出来ていたので、協力は惜しまないとの事であった。


 そして、現在、リュー達は、帝国の占領下にある北東部を目指して、馬車を飛ばしている最中である。


 馬車内にはリューとリーン、スードの三人はいつもの事であったが、御者台には御者と道案内役である『蒼亀組』の者が乗車していた。


「そう言えば、東部裏社会の抗争は、戦争がきっかけで、止まっているんだよね?」


 リューがふと、話題に上がったコーエン子爵と『蒼亀組』の事から、自分達にも関係のある話題を口にする。


「へい。『赤竜会』の本部が丸々帝国の占領下になった事で、あちらも身動きが取れなくなったみたいです。黒虎一家も自分達から好き好んで帝国に支配されている地域に乗り込むつもりもないようですし」


 御者台と車内の間の小窓に向かって『蒼亀組』の者が答えた。


「『蒼亀組』は両者が争っている間に、周辺の組織やグループをかなり吸収して大きくなっているんでしょ? この機会に弱っている黒虎一家を叩く予定はないの?」


 リューは遠く離れた王都から東部裏社会の状況をそれなりに把握している。


 特に戦時下は毎日のように東部には顔を出していたので、その時に東部で活動をしていたランスキーの部下から報告を度々受けていたのだ。


「旦那のご指摘通り、うちの幹部達もその提案をしていたのですが、王都とうちの間の裏社会で動きがあったのはご存じですよね?」


「うん、元『かばね』から分裂してできた『むくろ』の事だよね?」


「へい。その『骸』に最近、新たなボスが誕生したようで、動きが慌ただしくなっているんですよ」


「新たなボス?」


 リューは初耳なので、聞き返す。


「数日前、自分の上司から聞いた話なんですが、その新たなボスになってから、『骸』は周辺の組織やグループを飲み込み始めているらしく、黒虎一家をこのタイミングで相手にしたら、その間に足元を掬われかねないと幹部会で警戒を強める事で一致したらしいです」


『蒼亀組』の組員は、相手が自分の組の恩人であるリューには、機密情報も隠す事無く話した。


「……今は、まだ、手を出されていないのかな?」


 リューは少し考える素振りを見せて聞く。


「へい、今は全く。なので中には一部、今のうちに黒虎一家を滅ぼしても大丈夫じゃないか? と考える幹部もいたみたいですが、ボスは『骸』の統制の効いた動きは警戒しないと隙を見せた瞬間、背後から首を斬られる可能性があると告げて幹部会はそれに納得してまとまった感じです」


「それはいい判断かもしれないね」


 リューも心当たりがあるのか、その組員の話を聞いて納得する。


 実は、王都でもそういった周辺の動きが、オウヘ軍の王都占領以降、あったのだ。


 それは、『骸』と同じく元『屍』から分裂した『亡屍会』が、王都に人員を送り込んだ形跡があったのである。


 戦時下という事でリューも裏社会の動きは、優先順位的に警戒を後回しにしていたから、それに付け込まれた形だ。


 当時、エラインダー公爵と派閥の動きの警戒や王都内の裏社会とは協力体制を呼び掛けていた事、王都周辺貴族の動きを監視するなどして人員を割いていたから、『亡屍会』の監視までは、手が回らなかったのである。


 その間に、『亡屍会』は、王都に多くの人間を送り込んだ形跡があるようだと、幹部のノストラから報告があった。


 ノストラは商人の情報網から、商人に紛れて不審な連中が南西部から流れてきている事に気づいたという。


 それが、どうも、裏社会関係のようで、戦時下という事もあり、闇取引が横行しやすい状況であったから、その時は、あまり警戒していなかったらしい。


 だが、戦争終結で、王都内の物資の動きを再確認してみると、人の流れの割に闇取引の物資の数が少なかったので、念の為調べてみたら、『亡屍会』の影が見え隠れしている事に気づいたようだ。


 リューはその報告を聞いて、冷や汗をかいたものである。


 まさか、戦時下にそのような動きを見せる組織があった事が盲点だったからだ。


 狙いが戦時下の闇取引による一儲けならば、リューもあまり気にはしないが、そうではないとなると、確実にこちらが警戒すべき動きを行っているはずである。


 それを暗殺計画が実行される段になって、報告を受けたので、リューは心が休まる暇がないのであった。



「旦那、到着しましたぜ」


 道案内役の『蒼亀組』組員が馬車内のリューに知らせる。


 馬車は林の中で止まっており、リュー達が馬車から降りてその林の先を見ると、開けた街道の先には大きな橋があり、その向こうに柵が張り巡らされた検問所があった。


 結構大きな川沿いという事で多分、橋周辺は守りを固めた検問所が設置されているであろう事は容易に想像がつく。


「もうすぐ、夕方だし、暗くなってから見張りの少なそうな辺りに移動してそこから川を渡ろうか」


 リューは厳重な境界線を見てもあまり気にした様子もなくそう答える。


「この大きな川だと、船が無いと厳しいですぜ? 一応、商人用の偽装身分証と、領民を示す身分証の二種類を人数分用意しているので、それらを使用して入ろうかと思っていたんですが……」


 組員は、驚いて準備した偽装身分証を懐から取り出して、リュー達に配った。


「これは、領内で帝国軍に呼び止められた時に使用するよ。こういう状況下での検問所は最初から疑って調べられるだろうからね。相手に優秀な鑑定士がいたら、バレて終わりだよ」


「ですが、この大きな川を渡るというのもかなり難しいですぜ?」


 リューの言葉に組員は食い下がる。


 恩人を泳がせるわけにもいかないと思ったのだ。


「それには僕に簡単な策があるから大丈夫だよ」


 リューは笑顔で応じると、心配そうな組員を宥めるのであった。

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