第785話 予算会議でしたが何か?
王宮の会議室。
そこでは、新国王であるオサナをはじめ、宰相オーテン侯爵、先王エドワード、そして、前宰相のジョージ・シュタイン侯爵、大臣である上級貴族や官吏達、さらに、『王家の騎士』の称号持ちであるエラインダー公爵、ランドマーク伯爵の嫡男タウロ、その与力のミナトミュラー子爵などが出席していた。
連日の会議に時間を取られ、リューも内心うんざりであったが、オサナ国王の後見の一人とあっては、文句も言えない。
とはいえ、会議に出席している中では、まだ、今年で十四歳という最年少の臣下であったから、本当はこういうのは免除してもらいたいところではある。
なにしろミナトミュラー商会の被害が大きかったので、王都復興と合わせて自分のところもやる事が多いからだ。
まあ、それは他の貴族も多かれ少なかれ、王家派の時点で簒奪王オウヘに狙い撃ちされ、被害を受けていたので、立場は一緒であったのだが……。
「──以上で王都と被害が最も大きい東部の復興予算は以上です」
大臣の一人が揉めに揉めた予算報告を終える。
当初、復興予算はこの戦争で国に貢献した貴族や軍の兵士などの褒賞を支払った後に組んだので、国庫が底を尽いて足りないくらいなのであったが、国の危機に駆け付けなかった地方貴族の処罰で多額の罰金を容赦なく徴収した事でなんとか、復興予算を組んでも、元が取れる結果となったのである。
それくらい、地方貴族達は貯め込んでいたのだ。
爵位剥奪で領地ごと没収された者もいたから、これには会議に出席していながらも終始沈黙を守っていたエラインダー公爵も苦言を呈する場面もあった。
だが、当人もそこまで抵抗する素振りは見せず、一応、議事録に反対したという形だけ残しておく事が狙いであったようだ。
お陰で国王派の貴族で固めている会議は、ようやく終える事となる。
「そう言えば、今回、被害に遭った者達の支援策が決定しましたが、すでに、王都に本店を置くいくつかの商会や、裏社会の者達が力を合わせて、焼け出された者達の為に炊き出しを行っているそうですな」
大臣の一人が、小耳に挟んだ情報を口にした。
「そう言えば、ランドマーク伯爵の商会も参加したそうですね。素晴らしい事ですな!」
他の大臣も、この会議に代理参加しているタウロに声をかけて、賞賛する。
「お恥ずかしい事ながら、ランドマーク商会は、与力であるこちらの我が弟の提案に同意しただけですので、誇れる程の事ではありません」
タウロは笑顔でそう恐縮した。
「ほう! ミナトミュラー子爵が提案された事なのですか? なんとまだ、十四歳なのに、立派な心掛けです。我が家の嫡男にも見習わせたいものですよ」
大臣の一人が、王家を支える未来の重臣の一人になるであろうリューに目を細めて親目線で賞賛を送る。
「恐れながら、申し上げます。──裏社会の者達は、戦時中も王都占拠事件の折、敵兵より民衆を守っていたと聞き及んでおりました。その彼らが、被害に遭った者達を援助したいが、我々貴族の助けがないと勝手にやるわけにもいかないと申すので、その事を本家に報告しただけであり、今回は庶民と共にある彼らの働きが大きかったと思っております」
リューは今回、『竜星組』との連携で王家を助けた経緯もあるので、関係性を疑われている可能性があった。
だから、王都占拠事件をきっかけに関係を持っただけである事、その裏社会の者達が庶民の味方として、国よりも早く動いてくれた事をアピールする事で、関係性も健全なものである事を暗に示し、印象を良くする狙いで告げた。
「ミナトミュラー子爵は実に謙虚で聡明な事だ。──それにしても、裏社会の者達が、これ程まで王家に対して尽くす者達であったというのは驚きだな」
大臣の一人が、リューを褒めるのであったが、リューの言葉に上手く乗せられて、裏社会の印象を良くする発言をした。
「うむ。あの者達は裏社会の住人だから、表だって褒賞は与えられぬが、王国騎士団や警備隊には、一部の裏組織について多少手心を加えるように伝えておいていいかもしれん……、──どうであろうか国王陛下?」
ここ数年の裏社会の動静に関心を示していた先王エドワードが感心すると、息子であるオサナ国王に判断を仰ぐ。
簡単な判断ではあるが、こういったどうでもいいレベルの判断から国王の責務を果たさせる事で慣れさせようという親心でもある。
「はい、ち……、先王陛下。私も彼らの縄張りに逃げ込んだお陰で、ヤーク伯爵と共に命を拾いました。確かに裏では悪い事をしているのも確かなのでしょうが、私には統治する民の一人なのだと感じました」
オサナ国王は、先王の事を父上と呼びそうになったが、すぐに言い直し、独自の考えを口にした。
これには、大臣達も幼い国王の懐の深さに、感心する。
誰もが今回の影の立役者の一人であろう裏社会の者達に対し、多少、見方を変えるきっかけになったようだ。
「──ですが、悪党は悪党。特に『竜星組』と呼ばれる者達は、今回、王都の民を扇動し、オウヘ軍と衝突させようとした行為はとても危険な事だったと思いますぞ? あの時、我が軍が介入し、武装解除させなければ、民に多数の死人が出ていたでしょうな」
場が、良い雰囲気で終わろうとしていたところに、エラインダー公爵が水を差す指摘をする。
公爵は『竜星組』に対し、良い印象が全くないのが事実であったから、誰もが敢えて名前を出さずに誉めていたのに、実名を挙げて非難するのであった。
「だが実際には、彼ら自身が身を張った事で民の中に負傷者はいなかったそうではないか。それに、あのお陰で、タウロ殿達が先王陛下と私の命を救ってくれる結果に繋がっている。エラインダー公爵、貴殿の功績も大きいが、だからと言って彼らの影ながらの功績まで否定する権利はありませんぞ?」
場の雰囲気が悪くなり、誰もが眉を顰めるのであったが、そこに、前宰相であるジョージ・シュタイン侯爵が口を挟んだ。
このきつい指摘には、誰もが驚く。
宰相時代なら、今後の事も考えて、もっと穏便な言葉で仲裁する場面なのだが、宰相の任を下りて肩の荷が下りたのか、歯に衣着せぬ物言いに変わっていたからだ。
この反撃にはエラインダー公爵も少し驚いた表情であったが、すぐさま、新宰相であるオーテン侯爵が間に入る。
「そこまでです。どちらの言い分もわかりますが、この場は復興予算会議の場です。──それでは、終わりとしましょうか」
宰相オーテン侯爵は、そう告げると、会議を終わらせるのであった。
「ふぅー……。今の会議でエラインダー公爵の内心を少し知れたかな……。思ったよりも根に持つタイプかもしれない……」
リューは、前宰相ジョージ・シュタイン侯爵とのやり合いで出たエラインダー公爵の反応を見た感想を一人漏らす。
「何かあったの?」
リーンは音が遮断されていた会議室での内容がわからないので、リューの様子から状況を聞く。
「音を魔法で遮断してくれる? ──実は、会議の最後にひと悶着が──」
リューはリーンにその時の様子をひそひそと説明するのであった。
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