第784話 被害を取り戻す為ですが何か?
本家のランドマーク商会とミナトミュラー商会は、王都占拠事件で多大な被害を受けたのであったが、現在、残りの私財を投じて王都の復興作業にも協力していた。
処刑されたオウヘ簒奪者によって、ミナトミュラー家とランドマーク家は目の敵にされていたから、他所よりも狙い撃ちにされる形で略奪から放火まで容赦なくやられたのであったが、その周辺のお店や住居なども巻き込まれ、結構な範囲でお店や家を失った者は多かったのだ。
だから、リュー達は、炊き出しをやったり、燃えてなくなった残骸だけの土地を言い値で買い取る事や、無金利で金を貸し出すなどして、被害を受けた王都民の支援を行っているのである。
一見すると慈善事業にも思えるが、リューの狙いは、本家であるランドマーク家の評判を高める事、今後の事業で元を取る事など、色々考えての事だ。
それに、現在、王都での評判はエラインダー公爵が独り占めしている事もあった。
王都占拠事件では美味しいところ持っていき、戦争の方も、公爵派閥軍が動いた事で帝国軍が退いた、という形になっている。
その事もあって、『王家の騎士』の称号も与えられたエラインダー公爵家が、名を高めていたから、リューとしては王家の為にも本家と自分の名も『王家の騎士』として高める必要が求められていたのだ。
「本家はともかく、うちは戦争で特殊砲弾を撃ちまくったから、私財もあんまりないんだけどね」
リューは、王都でも指折りの商会の会長を務めているのだが、今回、狙い撃ちされた事で、王都で行っている事業はほぼ、赤字になる被害を出していた。
お店や事務所ビルなどはほぼ略奪や放火などで半壊状態で一から立て直さなければならず、その為予算を組む元となる資金も、ランドマーク本家から一部借金したりしている状態なのである。
まあ、『竜星組』はほとんど無傷なので、そちらの私財はたんまりあるのだが、それは裏社会のものであって、表のものではない。
それを表に回してミナトミュラー家の資金にすると、そのお金の動きを追われて、『竜星組』との関係がバレる可能性があるので、それができないのである。
だから、被害著しいミナトミュラー家は、表の厳しい経済状況だけで、乗り切らないといけない。
そこで問題となるのが、事業縮小問題である。
資金が限られている状態で、事業拡大を進めてきた商会の部門を減らして、建て直しをはかる必要性を求められているのだ。
幸い、どの部門も黒字であったのだが、限られた予算の中で全ての事業再開は難しいから悩みどころである。
「建築部門は人材の問題だから大丈夫。酒造部門もマイスタの街に酒蔵があるから、営業事務所や販売店舗のビル以外は問題なしなのよね? そうなると飲食部門は、一からお店自体を立て直さないといけないから後回しかしら?」
リーンが淡々と話を整理して、厳しい事を告げる。
飲食関連の従業員達はショックであろうが、今は他の部門に回ってもらい、違う仕事をやってもらうしかないかもしれない。
「うん、残念だけど、順序を踏まないとね。建築部門はこれから、建て直しするところは沢山あるから、継続。酒造部門も、お酒は人々の癒しになるから、店舗を立て直して、すぐにも販売再開したいところ。それに、稼ぎ頭だしね」
リューとしてはここまで順調に事業拡大できていたのに、戦争が起きただけで何もかもが台無しになる事に、改めて戦争は怖いものだなと痛感するのであったが、その中でも儲ける者は当然いる。
自分もその中に入る事で、いつ何時、被害を受けても他でフォローできる体制は作っておくべきと頭を悩ませるところだ。
「『竜星組』の方は、稼げているのにね。こちらに回せれば楽だったのに」
「とにかく今は現金が必要なんだよね。僕も特殊砲弾作るのにミナトミュラー商会で作らず、『竜星組』のお金を使って裏で作ればよかったと後悔しているよ。裏で撃つんだから商会の資金で生産する必要なかったんだよね」
リーンの指摘にリューは苦笑して答える。
「今は、本家に甘えて資金を出してもらいましょう。無金利で貸してくれるんでしょ?」
リーンが借金を口にした。
「うん。結構な額を工面してくれたけど、甘えてばかりもいられないかなと。一番良いのは、『竜星組』の資金を洗浄できるシステムを考える事なんだよね」
「それって架空の商会や名義を作ったり、実在する商会や他人名義を利用する事で出所を有耶無耶にする事よね?」
リーンがリューから聞いて覚えていた事をおさらいする。
「うん。うちの場合は、『竜星組』の傘下にダミスター商会や白山羊総合商会があるから、それを通して洗浄する事を考えていたのだけど、どっちも綺麗なイメージの商会だからなぁ。あんまり、関わらせると誰か気づきそうだから、やるならもっと慎重にやらないと……」
リューもせっかく部下達が大きくしてくれている商会を汚れ仕事には使いたくないのだ。
とくに白山羊総合商会は、裏社会の大規模組織『屍黒』から丸々頂いた、完全真っ白の商会なので、現状、元マルコの部下で仕事人間のシーツを会長に据えて営業を続けてもらっている。
ダミスター商会も若手の部下であるアントニオが、アントを名乗って、オチメラルダ侯爵家をはじめとした北部にその勢力を絶賛拡大中であったから、汚れ仕事をさせてケチを付けたくない。
「じゃあ、また、架空の商会を作るしかないわね」
リーンが当然のように、提案する。
「……やっぱりそうなるよね? それだと誰に任せようかな……。いつバレてもすぐに解体して後を濁さない、逃げ足の速い頭の切れる部下……。──サン・ダーロにでも任せようか?」
リューはピンときたのか、資金洗浄用の架空商会の会長名義にサン・ダーロを思いつく。
「それなら丁度いいかもね。サン・ダーロは各地で情報収集の為、間者として動いてくれているから肩書があるとさらに動きやすいでしょうし」
リーンも納得ばかりに頷く。
こうして、ひょんな事から『竜星組』の資金洗浄の為、新たにサンドラ商会という架空の商会ができるのであるが、これが、裏社会で悪名を馳せる事になるのは、遠くない話であった。




