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第781話 新たな総合ビルですが何か?

 帝国の侵攻による戦争以降、クレストリア王国は、西部地方以外の国境では大きな問題はなく安定している。


 通常ならば、クレストリア王国のごたごたに付け入る為に、隣国が国境線の軍を動かし、領地を少しでも頂いてしまおうと企んでもおかしくないのであったが、終戦までそれも起きていない。


 これは単に、先王エドワードと前宰相ジョージ・シュタイン侯爵の普段の外交力がものを言っていたと言っていいだろう。


 平和の世にあって、先王がいかに名君であったかという事の一端である。


 クレストリア王国は東部国境のアハネス帝国の他には西部国境を接する隣国以外には敵らしい敵を作っていないのだ。


 侵攻してきたアハネス帝国とも、友好関係を築こうと先王は努力していたし、西部の国境問題もお互い譲歩し合う事で落としどころを見つけられないかと探っていた。


 それらのお陰で、アハネス帝国侵攻後、対外的には大きな問題は起こる事無くすんでいる。


 もちろん、西部国境を守るルトバズキン公爵の存在も大きい。


 隣国がこれを大きな機会と侵攻してこなかったのは、ルトバズキン公爵が目を光らせていたからだ。


 つまり、クレストリア王国が危機的状況を最低限の被害で済んだのは、先王や前宰相、ルトバズキン公爵の存在が大きかったのである。


 そんな先王も前宰相も退位し、オサナ国王新体制となったクレストリア王国であったが、現在は復興に向けて国民が一丸とならなければいけない状態にあった。


 王都もオウヘ軍の占領に伴い略奪や放火などで多大な被害を出した地区は多いし、死人も少なからず出ている。


 悲しみに暮れる者もいるが、新国王の下、力を合わせる必要があった。


 しかし、それも、絵に描いた餅である。


 実際は、地方貴族の処罰の為、中小の紛争が各地で起きていたし、東部地方は特に帝国によってかなり被害を被っていたから、復興の為の予算も捻出しなければならない。


 オサナ国王は、新宰相オーテン侯爵や後見の『王家の騎士』の称号を与えられているエラインダー公爵、ランドマーク伯爵、ミナトミュラー子爵らと日夜検討した結果、処罰した地方貴族から多額の罰金を徴収し、それを復興に充てる事にした。


 これには最初、エラインダー公爵が難色を示したが、すぐに同意した。


 それは、なんて事はない会議の中での一場面であったが、リューはこれを計算と見ている。


 議事録にはしっかり、エラインダー公爵が難色を示したと記録が残る事が重要なのだ、と。


 これにより、地方貴族達はエラインダー公爵が自分達を庇おうとしたが、周囲に圧されて同意するしかなかったと捉える者も多いだろう。


 つまり、自分達の不満をエラインダー公爵は理解してくれている、と思わせる為の一時的な反対だったのだ。


 リューはこれにより、これまでの事も踏まえて、エラインダー公爵の目的がやはり、この国の支配にある事を理解したし、それと同時に油断できない相手である事も再確認させられる思いであった。


 だが、エラインダー公爵が一度、難色を示しつつ同意した事で、地方貴族の不満は一時的に収まる事となったのも確かである。


 自分達の理解者が中央にまだいてくれているという事がわかったからだ。


 さらに、それがエラインダー公爵なのだから、処罰に対する不満も我慢できる状態になったのである。


 これにより、王家の要請に従わず、処罰された地方貴族達は多かったが、当初の想定よりも混乱はすぐに落ち着き、復興にシフトチェンジ出来る事になったのであった。



「復興と言っても、うちは本家も含めて、被害が大きいからなぁ」


 リューは、王都の各所で延焼して危険な建物の取り壊しや、補修に再整備、整地をした土地には新たな建築が始まっているのを、ランドマークビル跡地の建築現場で周囲を見回しながら愚痴を漏らす。


 リューとリーンは、ランドマークビル跡とその周囲の土地を買い取り、新たなランドマーク総合ビルを建築中であった。


 なぜ、部下に任せるでもなく、当主であるリューが直接建築しているのかというと、今回の総合ビルは、七階建ての予定だからである。


 これ程の、高層建築を人に任せるには、技術や魔力的に心配であったし、さらには、この総合ビルには、暗殺ギルドの拠点にあった魔力仕様のエレベーターシステムを導入する事になっていたので、リューが自ら設置する事にしたのだ。


 傍には、リーンとミナトミュラー家の相談役に納まっている元暗殺ギルドの長であるミザールがいる。


 スードは、建築現場の下で待機していた。


「だからこそ私達が直接、手伝う事で経費を抑えているんでしょ?」


 リーンが、リューの愚痴に対して正論を告げる。


「そうなんだけどさ……。毎日届く被害報告書の山を見ると、さすがにね?」


 リューはそう愚痴を続けながら、土魔法で、中に鋼鉄の入った硬い石状の壁や床天井を作っていく。


 リーンもそれに合わせるように、魔法を使用する。


 二人は設計図を見ながら、一階、二階、三階と作っていき、この日ようやく予定である七階全部を作り上げる事に成功した。


 これは王都の建築物では、公共施設を除いては一番高く大きな建物になるだろう。


 もちろん、建築の許可はもらっているから、問題ない。


 このランドマーク総合ビルは、当然ながら、ランドマーク商会のお店が入る事になるのだが、それ以外に与力であるミナトミュラー家、シーパラダイン家の店舗も入る。


 さらには、住居部分も大きくとり、王都における同派閥の貴族に住居の貸し出しも行う。


 他には、同盟派閥であるスゴエラ侯爵やベイブリッジ伯爵とも賃貸契約を結ぶ事になっている。


 これは、王都の邸宅が略奪に遭い、大きな被害を受けたという事で、この際、仲間内が一か所に固まる事で守りやすい住居の確保が肝心だと考えての事だ。


 新たなランドマーク総合ビルは、敷地に広い駐馬車スペースはもちろんだが、高い壁で覆われており、広い玄関も前世の校門のように、時間外になると開閉できる造りにしてある。


 つまり、いざという時、要塞になる造りにしたのであった。


 それに、南東部で共に戦った貴族達の結束は高まっていたので、王都でも力を合わせて助け合うという事で話はまとまっている。


 つまり、新ランドマーク総合ビルは、結束の証とも言える建物になる予定だ。


 その為、かなり大掛かりな工事がリューとリーン、そして、ミナトミュラー商会建築部門によって行われているのであった。


 ちなみに、一週間後には、新学期を控えているリューであったから、それまでには住居スペースの工事を終えて、仮住居で過ごしている従業員や派閥貴族の王都における宿舎などとして入居を終える予定である。


「大変だけど、これが完成したら、いろんな方面への架け橋になりそうなんだよなぁ」


 リューは、額に浮かんだ汗を拭いながら、リーンと相談役のミザールに笑顔を浮かべるのであった。

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