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第772話 簒奪者ですが何か?

 王城前広場は、今や裏社会の面々だけでなく、それに釣られて集まってきた民衆やオウヘ王子軍に対して反抗していた勢力、国王の安否を心配していたノーエランド王国を中心とした他国の一団なども続々と集まり、その数は数万人に膨れ上がっていた。


 これに対し、オウヘ王子軍の主力である王国地方軍は、それを包囲するよう周辺に展開し、一触即発状態にある。


 それでもまだ、衝突していないのは、裏社会の面々がその間に入り、抑えていたからである。


『竜星組』を中心とした王都の主要裏社会組織は、『竜星組』組長の名で依頼され、民衆の感情を調整する形で動いていた。


 民衆も自分達の為に率先して動いてくれている『竜星組』をはじめとした組織に対して信頼が生まれていたから、オウヘ王子に対する怒りを持ちつつも、それを爆発させる事なく王城広場で静かにその時を待っている形だ。


 その時とは、『竜星組』の面々が言う、正義の鉄槌を下すタイミング、というやつであり、その時が来れば、わかるという事であった。


 そこへ、王城広場を見下ろす塔の上に、王冠を被り、ビロードのマントを付けたオウヘ王子が現れた。


 民衆はその姿を見て、明らかに動揺してざわつき始める。


「陛下はどうしたのだ?」


「ちょっと待て。あれはオウヘ王子ではないか? なぜ、オウヘ王子が、王冠を被っている?」


「おいおい……、まさか……?」


 民衆達の不吉な予感は、塔に近い者達から、塔の様子が見えない後方まで伝播していく。


「諸君! よくこの日に集ってくれた。我はクレストリア王国第二王子にして王位継承権第七位であったオウヘである! この度、健康上の理由で陛下がご退位なされ、空位になった王位を我が継ぐ事になった! 皆は知らないかもしれないが、我が兄であるジミーダ第一王子は先の不慮の事故により亡くなり、弟達であるヤーボ、オサナ両名も王宮での混乱の折、亡くなってしまった。妹達は心を痛め、王位継承権を放棄し、我に王位を譲ってくれる事になったのである。本当は、明日、盛大に戴冠式を行う為準備を進めていたが、皆がこの広場に集まった以上、早くその事を伝える義務が我にはあると思い、今に至った! これでクレストリア王国の未来は明るいぞ! 我が王位を継いだ以上、侵攻してきている帝国軍も即座に撃退し、停滞していた経済もすぐに建て直す事になるだろう! 皆は安心して生活に戻るがよい!」


 オウヘ新国王が音声魔法で増幅した声で、自分に酔った状態で演説をすると、民衆達はポカンとした様子でその話を聞いていた。


 そして、国王が退位し、王子達も亡くなったと聞くと、どこからともなく、


「……ふざけんな……」


「……お前がやったんだろう……?」


「……陛下が退位する理由がどこにあるんだ……!」


 という怒りに震える声がぽつぽつと広場中から聞こえはじめる。


 そこへ、


「王位の簒奪は、大罪だぞ!」


「オウヘ王子は、兄弟殺しの大罪人だ!」


「それに従う者も、罪は免れないぞ、投降しろ!」


 という声が音声魔法を通して広場の各所から上がり始めた。


 これらは、『竜星組』の者達であり、これが合図だと理解した民衆は、一気に怒号に包まれる。


「「「オウヘ王子は大罪人!」」」


 民衆はそう連呼すると、王城に向かって進み始める。


 これには、当の新国王オウヘも予想外だったようで、


「ど、どういう事だ!? 新国王の万歳三唱で祝福されるはずではないのか!?」


 と側近であるモブーノ子爵を問い質す。


「それよりも、今は、王門を固く閉ざし、軍による民衆の制圧が先です!」


 モブーノ子爵が、慌てた様子で助言する。


「そ、そうだ。新国王である我に悪態を漏らすこの不届きな民衆達には罰を与えないといけない! 王城の守りを固めよ! 広場を包囲している軍には、反抗的な民衆を制圧させるのだ!」


 オウヘ新国王の最初の勅令が、国民の制圧であった事は、歴史の汚点となるであろうが、それも在位を認めれば、の話であった。



 広場の民衆は、すでに武装を始めていた。


 どこからか沢山の木箱が広場に持ち込まれ、希望する者に渡されていく。


 周囲にはオウヘ新国王軍が肉薄しているが、実際のところ、広場に続く通りの出入り口や建物の間の狭い通路などしか衝突するところは限られており、そういった場所は、すでに『竜星組』をはじめとした戦闘のプロ集団が押さえていたので、実際に衝突するのは民衆ではない。


 だから、オウヘ軍が民衆の武装蜂起に慌てて対処する為に広場に迫ると、その前に『竜星組』などの裏社会の面々が立ちはだかり、ぶつかる事になる。


 そして、その『竜星組』をはじめとした面々は、市街地戦を得意としていたし、何より、オウヘ軍に拘束されていた王国警備隊をこのタイミングで救出したからオウヘ軍は兵力的には多いはずなのだが、王都内で孤立する事になるのであった。


 これはリューが事前に指示していた事であり、各所で戦闘が始まると、オウヘ軍はその対応の為、王城の兵も王門に集めて、防衛に集中しなくてはいけなくなる。


 この時が、リューの狙いであった。


 リューは、絶好のタイミングとばかりにランドマーク本領で留守を守っているタウロと領兵隊を、『次元回廊』で王宮内に送り込む。


 これは、前国王救出の為である。


 オウヘ簒奪王は当然ながらリューの『次元回廊』を警戒し、王宮内の警備も厳重であった。


 しかし、広場の騒ぎで王城内に民衆が雪崩れ込んでくるのを恐れたオウヘ簒奪王が、王門と自分の護衛に兵力を集中させる事で、王宮内部を手薄にする瞬間をリューは待っていたのである。


 さすがのリューも『次元回廊』で送り込んだ先に兵士が待機していたら、為す術もないのだ。


 だから、派手に王城前広場で騒いでもらい、そちらに意識を向けさせる事で前国王救出を行ったのである。


 その役目は当然、『王家の騎士』の称号を持つ父ファーザの嫡男タウロが相応しい。


 リューでもいいのだが、この場合は、本家の役目だろう。


 そして、リューはというと、リーン、イバル、スード、ノーマンを連れて、王宮を突っ切り、オウヘ簒奪王がいる塔に向かうのであった。

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