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77話 盗賊ですが何か?

 ブナーン子爵との契約翌日。


 リュー達一行はブナーン子爵に見送られる事なく、帰路に就いた。


「最後までよくわからない人だったわね」


 リーンが馬車内で不満を漏らした。


「パーティーするって歓迎ムードかと思ったら取りやめるし、帰りは見送りひとつしない冷たい態度だし……。あ、パーティーを期待したとかじゃないわよ?コロコロ変わる態度が不快なだけ。エルフの私にはあのブナーン子爵の考えは理解出来ないわ」


「同じ人間のぼくにも理解できないから安心して。リーンが言う様にブナーン子爵の態度は不可解だったね」


 リューは自分達を引き留めようとした理由が思いつかなかった。



 ブナーン子爵領からマミーレ子爵領の領境の森の道に達した頃だった。


「……リュー、この先に不自然に固まってる一団がいるわ。待ち伏せしてる可能性があるかも」


 リーンがいち早く気づいてリューに警告した。


 リューは慌てて御者に馬車を止めさせる。


「数はどのくらい?」


 リーンに確認をする。


「……三十人、いえ、三十二人いるわ」


 リュー一行は馬車二台に護衛の領兵が六人、セバスチャンにリーンにリュー、御者二人と計十一人だ。


 うちの領兵は祖父カミーザに時折訓練を受けていて結構な実力があるので盗賊相手に後れは取らないと思っている。


 それに、待ち伏せを先に気づいた事も大きい。

 領兵にこの先で襲撃される可能性を伝えると、一同は停車させていた馬車を進めた。



 待ち伏せしてるポイントに来ると、丸太を倒して道を塞ぎ、男達が立ち塞がっていた。


「命が惜しけりゃ、積み荷と女を置いていきな」


 リーダーらしき男が、要求してきた。


 その言葉にリューは少し引っ掛かりを覚えた。

 なぜ、女がいる事を知っているのかと。

 偶然かもしれないが違和感があった。


「おい!答えろ!」


 盗賊団のリーダーが怒鳴った時だった。

 地鳴りが起き、盗賊団の足元が揺れた。


「土魔法『地面陥没』!」


 リューの声がどこからかすると、前方の道を塞いでいた盗賊団のリーダー達がいた場所の地面は砕けて穴が開き十人以上いた盗賊団達を飲み込んでいく。


 リーダーは咄嗟に飛びのいて辛くも穴に落ちるのを逃れた。


「クソがー!こんなバケモノみたいな魔法が使えるなんて聞いてないぞ!?野郎共!後ろの馬車の積み荷さえ手に入ればいい、後は皆殺しだ!」


 盗賊達は馬車に群がった。

 領兵達は一塊になると馬車の後方に下がって陣形を取る。

 馬車が無防備の状態になった。


 息巻いた盗賊の1人が馬車のドアを開けると中には誰もいない。

 ましてや積み荷などあろうはずもない。


「ボス!誰も乗ってませんぜ!?」


「こっちも積み荷が一つもありません!」


 手下達の報告にボスと呼ばれた男は色めき立った。


「あの野郎、俺を騙しやがったな!」


「それが最後の言葉でいいですか?」


 ボスの男の背後から声がした。

 振り返ると目の前には剣の刃先が向けられ、その握られた剣の先には子供がいた。


「……おいおい。何で俺の後ろに居やがる……」


「それは、わざわざ迂回してきたので。あ、動かない方がいいですよ。これでも、このリーンと僕は場数は踏んで来てるのでこの距離ならあなたを仕留める自信があります」


 子供の背後に立つエルフがこちらに向けて弓を引き絞り、いつでも放つ準備が出来ていた。


 この距離で躱す自信はこちらにもない。


「わ、わかった。降参する……!」


 握っていた剣をボスと呼ばれている男は手放した。

 馬車の周囲にいた手下は領兵とセバスチャンと対峙していたが、ボスが降参したので動揺した。


「あ、仕込みナイフに触れようとしないで下さい、バレてますよ」


 リューは『鑑定』スキルで仕込み武器の位置を把握していた。


「……くっ!」


 手下のひとりがいよいよ状況がまずいと思ったのか手にしていた槍を投げ捨て、茂みに飛び込んで逃走した。


 それを見た他の二十人弱の手下達もあっという間に蜘蛛の子を散らした様に森の中に逃げ込んでいくのだった。


 セバスチャンは追おうとする領兵を止めると、ボスの男を縛り上げる様に命令した。



「くそっ!こんな事で俺も終わりかよ!」


 縛り上げられたボスの男は、吐き捨てる様に自分の最後を悟った。


「本当なら、領主に引き渡してあなたの処分を見届けるところですが、ここはブナーン子爵とマミーレ子爵の領境。どちらに引き渡した方がいいと思いますか?」


 リューは捕らえた盗賊のボスに質問した。


「……頼む。俺を雇ったのはブナーン子爵だ。おたくの積み荷とそこのエルフを欲しがっていたのは奴だ。証言するから助けてくれ!」


 リューが想像していた答えが返ってきたのでどうするかと考えたところ、セバスチャンが提案した。


「リュー坊ちゃん。ここはファーザ様に判断を仰がれた方がよろしいかと思います」


 確かにセバスチャンの言う事が一理ある。

 問題はブナーン子爵の進退に及ぶものだからだ。

 子供の自分の判断だけで決めていいものではない。


「そうだね。ちょっとお父さんに会ってくる」


 リューはそう答えると、次の瞬間にはその場から消えていなくなった。


 捕らえられた盗賊のボスはその光景を目の当たりにして、ただ驚くしかないのだった。

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