第760話 王都への潜入ですが何か?
リューとリーン、スードにイバルは、『簡易回廊』を使用して王都の『竜星組』の縄張りである平民の居住区域に移動していた。
当初、出入り口を設置しているランドマークビルに向かおうとしたが、イバルに止められたのだ。
現在、ランドマークビルは、クーデターを起こしたオウヘ王子軍によって、占拠されているらしい。
ランドマークビルの管理者であるレンドは、警備に当たっていた近衛騎士、ランドマークビル警備兵と共に、抵抗していたようだが、レンドが従業員の安全を確保できないと判断、何度目かの防衛の後、深夜にランドマークビルを放棄して『竜星組』の縄張りに逃げ込んだのだという。
ちなみに、近衛騎士達は、国王からの命令を完遂する為、ランドマークビルに留まったようだ。
それは、リューの生活圏の警備とリュー自身の護衛が職務であり、ランドマークビルはその対象に入るので、レンド達と一緒に退去する選択はしなかったのだとか。
失態続きの近衛騎士団であったから、命令を完遂する事で意地を見せたという事かもしれない。
イバルの調べでは、その後、オウヘ王子軍がランドマークビルを占拠しているというから、近衛騎士達は拘束、もしくは討ち死にした可能性が高いだろうとイバルは推測してみせた。
そして、占拠しているオウヘ王子軍は、リューが戻った時、即座に拘束できるように待機しているとの事で、近づかない方がよいとの事である。
だから、『竜星組』の縄張りになっている地域に安全を期して移動したのであった。
「ぼ、坊ちゃん!」
ランドマークビルの管理者であるレンドは、リュー達が現れたという知らせを受けて、居住区の小さな広場にいたリュー達のもとに駆け付けてきた。
「レンド、従業員の事を考えてよく退去してくれたね。君の判断は間違っていないよ。それどころか、見事な判断だったと思う。本当にありがとう」
頭に包帯を巻き、ボロボロの姿で悔しそうな表情を浮かべるレンドに、リューはそう声をかけて労う。
「……すみません! あそこは王都でのランドマーク家の象徴なのに、それを守れませんでした……!」
レンドは、労いの言葉が耳に入らないのか、即座に頭を下げて謝る。
「レンド。ランドマーク家にとって一番大事なのは領民なんだ。ランドマークビルの従業員のほとんどは本領から働きに来ている領民だからね。レンドはそのランドマーク家の家族の命を優先してくれた。だからその判断は正しい。なのに謝られたらその方針が間違っているみたいじゃないか」
リューは笑顔でレンドの判断を褒めると、冗談交じりに、指摘した。
「はい……! すみません……!」
レンドはまた謝ったが、それがランドマークビルを放棄した事か、その方針を否定した事を謝ったのかは、確認できない。
ただ、リューの言葉に涙して、膝をつくレンドの姿が多くを語っているように見えるのであった。
レンドと従業員、そして、その家族達は、すぐにリューの『次元回廊』でランドマーク本領に移動させた。
「レンドはあっちでも、タウロに謝っていたわね」
リーンが、リューにそう漏らす。
「レンドにとってランドマークビルは、成功の象徴だったろうからね。あそこの管理者として成功し、いろんな事業を手掛けてランドマーク家に尽くしてきたから、それを奪われるのは自分の体を傷つけられるよりも辛い事だったんだと思う……。僕も王都での第一歩として作り上げた場所が、どこの馬の骨だかわからない連中に占拠されていると思ったら、はらわたが煮えくり返りそうだよ」
リューは淡々とだが、凄味をもってリーンに答えた。
これには黙って傍にいたイバルとスードもたじろぐ。
「……奴らに罪を償わせないといけないわね」
リーンもリューの言葉に同調して答える。
「うん。──王都内の『竜星組』に連絡は?」
リューはリーンに返事を返すと、イバルに聞く。
「ああ、すぐにでも。それに、現在、オウヘ王子軍は裏社会を敵に回したくないのか、うちをはじめとした裏組織の関係する縄張りには手を出していないから、十人以上集まっても捕縛されずに済んでいる」
イバルは手はずは整っているとばかりに答える。
ちなみに、王都で緊急事態宣言がなされた段階で、集団での移動や集会などが禁止されている。
それを破ると拘束されるのだが、オウヘ王子軍は裏社会を刺激したくないのか、『竜星組』以下、そういった組織の関係者達が大勢集まっていても遠巻きに監視するだけで動いていない。
「あまり集まり過ぎても警戒されるだけだから、移動は五人以下で。それ以上集まる時は屋内のみでお願い」
リューが冷静にイバルに指示を出す。
「わかった。──お前ら聞いたな? いつでも動けるようにしておけ」
「「「へい!」」」
イバルの後ろには五人の部下が控えていて短く返事をすると、その中の三人が連絡の為に散っていく。
二人の部下が、報告があるのか残った。
「なんだ?」
イバルが報告するように促す。
「まずは自分から。──『月下狼』のボス・スクラと『黒炎の羊』の新ボス・メリノの二人が『竜星組』の責任者と会いたいと申し出が来ています」
「では俺も。──実は、縄張りに逃げ込んでくる連中が結構いるんですが、その中で先日、負傷した男と子供が逃げ込んで来まして……。治療してやろうとしたのですが、警戒心が強くて誰も近づけようとしません。何か事情がありそうなんですが、俺達では話もできない状態でして……。放っておくにしても二人共すっかり憔悴しているようなので、早めに報告した方が良いなと」
部下達は、順番にそう報告する。
『月下狼』と『黒炎の羊』が面会を求めているのは組長代理であるマルコの事だろう。
だが、そのマルコはクーデター当時、マイスタの街にいたから、厳戒態勢の王都に入れなくなっている。
だから、現状では、『竜星組』やその系列事務所は各責任者に任せている状況であった。
『月下狼』と『黒炎の羊』とは、戦時下にあって帝国には従わない事で同意していたので、今回のクーデターをどう判断していいか話し合いをしたいのであろう事は予想できる。
「『月下狼』と『黒炎の羊』については、僕がマルコを連れてくるから、適当な日取りを決めて話し合いの場を設けよう。両者には、近いうちにマルコが会うと伝えておいて」
「へい、わかりやした!」
部下は返事をすると、その場から去る。
「──それで、その負傷した親子? はどこにいるのかな?」
リューはもう一人の待機している部下に聞く。
「この辺りは宿がないので、近くの路地裏の軒下を借りて、じっとしています。男の方は結構な重傷みたいなんで放っておくとこのままでは死ぬかもしれません……」
部下が眉をしかめてそう告げる。
「子供の方は?」
「それが……、その辺で適当に選んだと思われる大きめの服を着せられてはいますが、育ちが良さそうな子供です。男の方も俺達を毛嫌いしているので、こちらも育ちが良さそうですが……。自分が睨んだところでは、今回のクーデターで抵抗した貴族、もしくはその関係者じゃないかなと……」
部下は、貴族と予想してリューに報告すべきと考えたようだ。
「……気になるね。──僕が会ってみよう。案内して」
リューは、少し考えると、部下に命じてその路地裏に案内させるのであった。
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