第758話 街道から追い払いますが何か?
リューはリーン、スードと共に、マイスタの街の様子を確認しに戻った。
王宮を占拠された今、王都全体も占拠された可能性があったので、外からその確認をしようという考えもあったからだ。
「若様、お帰りなさいませ」
執事であるマーセナルが、リュー達を玄関で出迎える。
「みんな、ご苦労様。こちらの様子はどう? ちょっと、僕もバタバタしていたから何が起きているのかあまり把握できていないんだ」
リューはマーセナルに、王都で起きている事について情報がないか問うた。
「まずは、このマイスタの街の城門を閉ざして厳戒態勢を取った事、正解でした。実は若様が去った後、所属不明の軍がこの街に接近してきたのですが、すでに門を閉ざし迎撃態勢を取っているのを確認すると、街道付近に布陣してこちらを牽制している状況です」
「所属不明の軍?」
「はい、一見すると王国地方軍ですが、その中には所属が明らかではない身なりの兵士もかなりの数混じっております。この軍は当初、若様に出頭を命ずる国王陛下の印の入った命令書を持参しておりましたが、サインが明らかに陛下のものとは異なるものであったので、こちらは開門を拒否させてもらいました。その間にイバル殿が王都の様子やこの軍について調べているところです」
「……つまり、帝国軍関係ではないという事か」
リューはマーセナルの説明を聞いてそう結論付けた。
「なんで? 帝国が王国地方軍に擬態させて送り込んだ部隊かもしれないじゃない?」
リーンが、リューの言葉に疑問を投げかける。
「いや、帝国軍なら、こちらの士気を下げる為、帝国軍の権威を示す為、自国の旗を掲げるくらいするはずさ。それをしないという事は、第三者が帝国の侵攻に合わせてクーデターを起こしたという事だと思う」
リューは想定の範囲内で可能性がある人物が頭を過るが、その名は口にしない。
「その第三者は誰だと思っているの? 私にはどこぞの公爵様しか想像できないのだけど?」
リーンがほぼ確信に触れる事を告げた。
「あははっ……。僕も最初に考えたのはその人だけどね? でも、これだけあの人を警戒してサン・ダーロ達に周囲を調べさせていたのに、こんな大規模なクーデターに気づけなかったのが不思議なんだよね……。もしかすると、完全にこちらが警戒を怠っていた組織が存在したのかな? って」
現在、必死に調査しているであろうイバル達の報告を待つしかない程、リューも見当がついていなかったのである。
「そんな組織ってあるのかしら……?」
リーンもリューの指摘に考え込む。
「まあ、今はともかく、街道に布陣している敵軍をどうにかしようか」
リューはそう言うと、マイスタと王都を繋ぐ街道が延びる南門へと移動するのであった。
リューが城門を訪れると、マーセナルの言葉通り城門は固く閉ざされ、その周辺には領兵隊や街の有志達が鎧を身に纏い、敵を警戒していた。
ちなみに、この城門は、新たに作られた第二防壁の方であり、元々からある第一防壁と比べ、かなり堅固な造りになっている。
防壁は分厚いし、城門も二重構造になっていて力づくでの破壊は難しい。
当然、対魔法対策も施されており、リューでもこの門と防壁を魔法で破壊する事は不可能ではないが大変である。
「敵は門が閉ざされている想定をしていなかったみたいだね。攻城兵器は用意していないみたいだ」
リューは門の上に設置している櫓から敵軍を見渡して、そう判断した。
その間、領兵達はリューが現れたので、安堵する者が多い。
どうやら、リューからの緊急事態宣言以降、その姿が見えなかったので、リューの身に何か起きたのかもしれないとみんな心配していたようだ。
「若様、無事だったのか、良かった……」
「やつらが若様を引き渡せと言っている時点で、俺は無事だと思っていたけどな」
「お前だって、この緊急事態で若様が現れないから心配していただろ」
など、領兵達の会話が耳の良いリーンのもとに聞こえてきた。
「リュー、みんなに何か声をかけて安心させたあげて」
リーンが領兵達の気持ちを汲んで言う。
「うん。──領兵のみなさん、任務ご苦労様。そして、この街の危機に駆け付けてくれた有志のみなさん、お陰でこの街の防備は万全です、感謝します。ただ、敵は正体不明の軍です。油断する事無く、防備に当たってください。──それでは少し、王都、マイスタ間の街道を塞がれたままなのも癪なので、こちらの武威を示したいと思います」
リューは領兵隊や有志達に感謝すると、防壁の上にある大きな布を取るように指示する。
それだけで領兵達は全てを理解した。
厳重に布が掛けられていたそれは、例の魔法大砲だったからである。
敵軍はマイスタの城門の上で動きがあったので、それに気づいて動きをみせた。
と言っても、装備を整え、様子を窺っているだけであったが。
リューは日ごろの訓練のお陰か、領兵達はすぐに特殊な実弾をすぐに運び込むと砲門に装填する。
「砲撃用意。──放て!」
砲門は、城壁の上の両側に一門ずつ備えてあり、その両方ともに手際よく砲撃準備がなされると、リューの命令の元、敵軍に向けて放たれるのであった。
敵軍は、魔法大砲を見た事もないのだろう、発射直前まで偵察の兵士が見た事もない形状の魔法大砲の様子を上官に伝えていたのだが、その魔法大砲が轟音を鳴らして実弾をこちらに向けて飛ばした時にはすでに遅い。
実弾は自軍内に二発とも着弾する。
この実弾は広範囲を薙ぎ払う榴弾のようなものだったから、着弾音と共に、内部に仕込まれていた強力な火魔法が発動して爆発した。
そして、その火魔法が一帯を飲み込む。
これにより、指揮官は巻き込まれあっという間に戦死、当然ながら副官達も傍にいたのでこれも戦死である。
当然現場は大混乱になったのは言わずともわかるだろう。
兵士達は、見た事も聞いた事もない強力な兵器が、マイスタの街にある事がわかって逃げ惑った。
指揮官も副官も戦死してしまったので、それを制止する者はいない。
生き残った隊長クラスも自分の命が大事であったし、指揮官クラス以外、この街の領主であるリューについては拘束命令をされている事以外詳しく知らなかったので、リューの重要性もあまりわからないから、早々に撤退を部下に命令するのであった。
「これでマイスタの街を強引に狙うと痛い目に遭うしかない事を知っただろうね。それに街道を塞がれるとこっちも色々困るし。あっ、あと追撃もよろしく」
リューは敵を蹴散らしたのを確認すると、出撃して追撃を行うように命令する。
これは、街を狙う者は容赦しないという警告でもあった。
領兵隊は、門を開けて騎馬で出撃すると、逃げ惑う敵軍を掃討して恐怖心をこれでもかという程、植え付ける。
リューとリーンも防壁の上から魔法で攻撃した事で、さらに敵は生きた心地がしないままひたすら逃げ惑う。
こうして、マイスタの街の占領とリューの拘束を命じられていた謎の敵軍は、為す術もなく街道から逃げ散ってしまうのであった。