第757話 生徒達の救出ですが何か?
リューが三年生達に助力して戦うのを止めていた頃、リーンとスードは、一年生校舎に向かい、三年生と同じようにリズ王女を助けようと逃げずに残る選択をしたエミリー・オチメラルダ嬢とレオーナ嬢を中心とした一年生有志達が拘束され教室の一角に押し込まれていたのを救出していた。
幸いこちらは、襲撃犯も数が少なかったので、リーンとスード二人で呆気なく制圧できたのである。
リーン達が教室に入ると、一年生有志の中心として戦っていたエミリー嬢とレオーナ嬢が重傷を負って他の負傷した生徒と共に片隅に寝かされていた。
リーンは、それを見てすぐに治療にあたる。
「リーン先輩、エミリー様とレオーナ様を助けてください……! 私達の治癒魔法ではもう限界なんです……」
一年生有志の女の子が、ボロボロと泣きながらリーンにお願いした。
「あとは任せて頂戴。──リズ……。エリザベス王女殿下はすでに脱出したから安心して、あなた達は学園から脱出して。──スード、あなたが学園の外まで先導してあげて」
リーンはエミリー嬢とレオーナ嬢を助ける為に、治癒魔法を使用しながら、そう声をかける。
「わかりました」
スードはリーンの言葉に頷くと、軽症者を含めた一年生有志二十名余りを立たせるとそれを引き連れて教室を後にするのであった。
リーンは治癒魔法で二人の止血を行うと、一先ず安堵する。
すると、レオーナ嬢が眠りから目が覚めるようにうっすらと目を開いた。
「……リーンお姉様……?」
「レオーナ、よく頑張ったわね。あなた達が襲撃犯の一部を引き受けてくれたお陰でリズ達は拘束されずに堪えることが出来たわ。そして、今は安全なところに移動しているから安心して」
リーンの言葉に、レオーナ嬢は、
「良かった……」
と安堵の一言を漏らす。
「少し寝ていなさい。血を流し過ぎたみたいだから、すぐには動けないでしょ?」
「エミリー嬢は……?」
レオーナ嬢は命を掛けて共に戦った友人の心配をする。
「エミリー嬢も無事よ。まだ、あなたの方が重傷だったのだから、まずは自分の事を心配しなさい」
リーンはかわいい後輩の頑張りを評価して労わるのであった。
リューは、三年生校舎と二年生校舎の間の通路に堅い守りを築いていた襲撃犯達を一人で一掃しつつあった。
リューの力もさることながら、その手にしている『異世雷光』を使用した『対撃万雷』の攻撃で、広範囲の襲撃犯達を一気に失神させていった事が大きい。
これにより、一瞬で無力化されていく者は後を絶たなかった。
リューへの対策を持たない襲撃犯達は、完全に怯むと、一時撤退が頭を過る。
そこへ、学園長室と職員室を占拠していたリーダー率いる一隊が二階から降りてきた。
「どうやら、ミナトミュラー男爵、貴様のせいで俺の任務が失敗に終わったようだ。前情報では、勇者エクス・カリバールとあなたは学園にいないはずだったのに。やれやれだ。しかし、ここで貴様を討ち取るか捕縛すれば、帳消しとはいかないだろうが、上も納得はしてくれるだろうな」
リーダーは仮面越しにそう告げると、反り刃の剣を抜いて構える。
部下達もそれを合図にして剣を抜き、リューを囲むように広がっていく。
リューは、そこへ容赦なく、再度、『異世雷光』を使用した『対撃万雷』を放つ。
リューを囲んだ者達をリーダーと一緒に無力化する為である。
だが、敵は、「うっ」とは言いつつも、誰一人、倒れる者がいない。
「驚いたか? 勇者と貴様の能力についてはこちらも対策を用意していたのでな。早速、使わせてもらったよ」
リーダーはそう言うと、手袋を取って指輪を示した。
どうやら、雷魔法対策がなされた魔導具のようだ。
「……ふぅ。──こちらは、身内をやられているからそれなりの報復をしたいところだけど、時間が勿体ないのでとっとと終わらせましょうか」
リューは、少し怒りを見せつつも冷静な判断をすると、また、『異世雷光』に魔力を注いで、『対撃万雷』を放つ。
だが、当然ながら魔導具によってまた、それは無力化された。
「はははっ! 馬鹿の一つ覚えか? 効かぬと言っただろう! この指輪はこの日の為に作られた特注品だぞ!」
リーダーが勝ち誇って答えると、リューに接近する。
だが、リューはそれが聞こえていないのか、また、『対撃万雷』を使用した。
すると、リーダーの指輪がバチンと弾ける。
いや、リーダーだけでなく、部下達の指輪も次々に弾けて壊れたではないか。
「わざわざ、僕に指輪を見せたのは失敗でしたね。微かにヒビが入っているのを気づかせてくれました」
リューはそう言うと、また、『異世雷光』を構えて『対撃万雷』を発動する。
「ま、待て──」
リーダーが慌ててそう口走ると同時に、最大魔力を込めた雷撃が周囲に激しい勢いでほとばしった。
リーダーと部下達は、その激しい雷撃に黒い煙を上げて焼け焦げると、その場にバタバタと倒れるのであった。
「僕の学園で暴れた事をあの世で後悔しろ」
リューはそう漏らすと、その場を後にするのであった。
リューは、残って抵抗を続けていた三年生有志と生徒会長ジョーイ・ナランデール、一年生のエミリー・オチメラルダ、レオーナ・ライハートの両名、そして、学園から脱出させたスードが戻ってくると、リーンと共にランドマーク本領へ『次元回廊』で移動させた。
すでに、ランドマーク本領では、母セシルが負傷者の為に、チームを編成して治療行為に当たっている。
魔法での治療にも限界があるので、妹ハンナの治療ポーションと医者の技術を併用して多数の患者にあたるのであった。
そんな中、リズ王女はリューが戻ってくるのを待っていた。
「戻ってきたばかりで申し訳ないのですが……、ご相談があります」
リズ王女は、改まってリューに口を開く。
「何かな?」
リューはリズ王女が真剣な表情なので、一言聞き返すと、言葉を待つ。
「王宮が占拠されたというのは、こちらでリュー君のお兄さんから聞いたわ。それでですが、他の王家の者が無事かどうか調べてほしいの……。特に、父や兄弟を。場合によっては『王家の騎士』として、救出してほしいのです。お願いします」
リズは、そう言うとリューに頭を下げた。
リズ王女は王家の人間として、現国王である父親や次代の王になる可能性のある男子の無事を願っていた。
それだけに、『王家の騎士』の称号持ちであるリューを頼るのは当然と言えるだろう。
「頭を上げて、リズ。いえ、エリザベス王女殿下。もちろん、『王家の騎士』として、その命に従います」
リューはリズの悲痛な面持ちでの願いに、臣下として膝をついて応じると、救出を誓うのであった。