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第756話 上級生の意地ですが何か?

 リューとリーン、護衛役であるスード、そして黄竜の分身体イエラ・フォレスの四人は、学園に一旦残って襲撃犯達と戦闘を続けている他の生徒や職員達を退かせる為に動く事にした。


「みんな、校舎を破壊する事になるかもしれないけれど、緊急事態だから手加減はいらないよ。──あっ、イエラさんだけは例外で」


 リューは、自分の青春の一ページである学園と友人達が襲撃で汚された事に、怒り心頭であったが、それでもイエラ・フォレスを止めるくらいの冷静さは残っている。


 リーンとスードは、この教室を襲う襲撃犯達を悉く蹴散らしながら、


「「了解!」」


 と返事をして敵を一掃するのであった。



 すでに、教室の前には再起不能になった襲撃犯達が積み上げられ、新たな助っ人であるリュー達に怯んで襲撃犯の攻撃の手は止まっている。


 襲撃犯にしたら、リズ王女を拘束して占領している王宮に連行するのが目的であったのでその任務が果たせず多少は焦っていたのだが、抵抗していた生徒達も限界に近づいていたからそれも時間の問題だと考えていた。


 しかし、リュー達という尋常ではない戦い方を見せる者達の登場で、それも計画変更しなければならないかもしれない。


 それに、リズ王女を渡すまいとして、拘束から逃れた職員と生徒達の一部が、逃げ出さずにこちらに敵対している状況だ。


 まあ、完全装備した大人の戦闘集団と装備もほとんど整わない生徒と職員では勝負にならないと考えていたくらいであったが、子供の割に王家に対する忠誠が厚い者も意外に多く、少し手を焼いている。


 こちらも、手加減する事は無く、大義の為には抵抗する者は殺しても構わないと指示しているが、意外に死者があまり出ていないようであった。


「この場所は何かが変だ……。学園独自の結界でも張っているのか? 前情報では校舎の方は一部の魔法規制結界が張られているだけという話だったが……」


 学園長室で外の様子を窺っていた学園襲撃犯のリーダーは、肌で感じる違和感に首を傾げる。


 これは、黄竜の分身体であるイエラ・フォレスが被害を抑える為に、学園全体に張った結界によるものであったが、さすがにそんな超高レベルの結界を見抜けはしないのであった。


 そこへ、部下の一人が飛び込んできた。


「大変です! 王女拘束の任についていた部隊が全滅したとの事です!」


「どういう事だ!? さっきまでは抵抗していた主力生徒の一人を瀕死の状況に追い込んで制圧するのも時間の問題という報告があったばかりだぞ!?」


「それが奴ら、温存していた生徒達がいたようで、そいつらに部隊が悉くやられてしまったみたいです……」


「……王女救出を叫んでいる生徒集団を討伐している部隊から王女拘束にいくらか回せ。あくまでも我々は王女を拘束して王宮に連行できればいいのだからな。どちらにせよ、王都制圧もすぐだろうから、この敷地内から逃げられなければ、問題はない」


 リーダーは、そう言うと寛大に振舞っていたが、内心では、


(くそー! 時間をかけ過ぎると他の部隊の連中が応援にやってきてしまう。それでは王女拘束の任を与えられた俺の面子が無くなるではないか!)


 と焦るのであった。


「一応、部隊を全滅させた連中以外に教室から出てきた者はいないようです」


 部下はリーダーが怒らず、冷静に対応してくれたので内心安堵して報告を続ける。


「何? それなら今こそ、教室の制圧を急がせよ。──それで、厄介な相手は教室を守らずにどこに向かったのだ?」


「わかりません、多分、一人はこちら側に、二人は一年校舎を制圧している部隊の方に向かったと思われます」


「ますますわからんな……。──職員室に拘束している学園長以下職員達の見張り以外は、俺に続け。その厄介な一人を直々に捕縛してくれる」


 リーダーはそう部下に命じると、学園長室を出るのであった。



 その頃のリュー達はというと。


 イエラ・フォレスだけは、力の加減が難しいという事で、『瞬間移動』を使って校舎の屋上に移動している。


 リュー達が目的を果たした段階で、移動するつもりだろう。


 リーンとスードは、一年生校舎に向かっている。


 そちらでも、戦闘が繰り広げられているようであったからだ。


 そして、リューは、二年生校舎を出て三年校舎に向かっていた。


 二年生校舎との間の通路付近で襲撃部隊とリズ王女救助を目的とした生徒会長ジョーイ・ナランデール率いる職員と生徒達志願した有志一同が犠牲を払って戦闘を繰り広げていたからだ。


「王女殿下を敵に渡すな! それだけは学園の上級生として王家の臣下として許せるものではない! 下級生も助けて三年生の意地を見せるぞ!」


「「「おお!!!」」」


 生徒会長は、生徒会室に秘蔵してあった高そうな武器や防具の数々を用いて二年生校舎に陣を構える襲撃犯に何度も突撃を敢行していた。


 その度に、王女クラスまで届かずに跳ね返されて撤退し、負傷した者達を他の生徒に任せ、突撃隊を再編成して再度突撃するという事を繰り返しているのだ。


 生徒会長は頭や体にいくつもの傷を負っていたが、ずっと先頭に立ってみんなを指揮している。


 すでに、中心になって動いていた生徒会役員である副会長達が重傷を負って戦線離脱。


 生徒会役員は、会長以外いなくなっている。


 有志の三年生達もどこかしら負傷している者がほとんどで、一時、怪我で離脱した者も、仲間や職員の治療で動ける程度に回復すると再度突撃隊に参加するという上級生の意地を見せていた。


 そのお陰で、他の二年生徒などはどうにか学園の外に逃がしていたのだが、どうしても王女のいる教室には近づけないでいたので、生徒会長や他の三年生達は必死であった。


 もう何度突撃したかわからないが、敵の守りは固く、また跳ね返されたその時である。


 襲撃犯の後方でバチバチという音が立て続けに鳴り、悲鳴や絶叫が巻き起こった。


 明らかに何者かによって隊列が乱れた様子で、その証拠に襲撃犯の一部がこちら側に気を失った数名が派手に飛ばされてくるではないか。


「理由はわからないが敵の陣形が乱れたぞ! 動ける者は私に続け!」


 生徒会長ジョーイ・ナランデールは負傷したばかりであったが、左腕をだらりとさせたままの状態で右手に剣を握りしめ、敵にまた、突っ込もうとする。


 さすがに他の三年生達はそれを止めると、


「「「自分達が行きます!」」」


 と疲れ果てている状態ながら、代わりに最後の力を絞って敵に突撃していく。


「その必要はありません!」


 襲撃犯達の真っただ中から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「その声は……、ミナトミュラー君!?」


 生徒会長は、すぐに声に反応した。


「こちらはもう大丈夫です! この意味が分かりますよね!?」


 襲撃犯集団の真っただ中からその声が響いてきた事で、ようやく生徒会長の顔に安堵の表情が浮かんだ。


 そして、


「三年生有志諸君! 負傷者を連れて、学園から撤退するぞ!」


 と宣言する。


 すると、その意味がすぐに理解できたのか、


「「「おう!」」」


 と一同から安堵に満ちた声が上がるのであった。

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