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第755話 王女救出ですが何か?

 リューはランドマーク本領の城館前で手を止めると、エルフで友人、そして、従者であるリーンや護衛役のスード、そして、見送る為にその場にいた長男タウロに不思議そうに見つめられた。


「どうしたんだリュー? リーンとスードもあちらに送らないのかい?」


 長男タウロは、リューが眉にしわを寄せて黙り込んだので、理由がわからず、問うた。


「……タウロお兄ちゃん。王宮が何者かに占拠されたかもしれない……」


 リューは真剣な表情で、一同の想像を遥かに超える事を告げる。


「「「ええ!?」」」


 これには、言われたタウロだけでなく傍で聞いていたリーンとスードも突然の突飛としか思えない発言に驚くしかない。


「先に送ったウーサン隊長達、近衛騎士が剣を抜いて何者かと戦っていたから、あちらはすでに誰かが待ち伏せしているみたいなんだ……」


 リューも一瞬の事であったのであちらの情報について、わかる事はほんの少しであったが、それでも、ウーサン隊長がこちらに来ては駄目だと自分に警告を発した時点で、すでに王宮が別勢力による占領がなされているという事くらいは、容易に想像がつく。


 リューの簡単な言葉にすぐ、長男タウロ、リーン、スードもある程度、理解することが出来た。


「そんな……。──そうなると、王宮の占拠はもちろんの事、王都ももしかしたら何者かの軍に占領されている可能性がある……?」


 長男タウロは、冷静に分析してそう口にする。


「リュー、どうする? 『次元回廊』の出入り口で現在設定しているのは、王宮、マイスタの街、ここに、ノーエランド王国、東部最前線の五か所よね? 王都が危険ならまずはマイスタの街に戻って、防備を固めた方が良いと思うのだけど?」


 リーンが、もっともな指摘をした。


「うん、ちょっと行って執事のマーセナルに警告してくる」


 リューはそう言うと、すぐに『次元回廊』を開いてその場から消える。


 長男タウロは、城館の扉を開けると近くにいたメイドに執事のセバスチャンを呼ぶように告げた。


「リーン、僕はお父さん達にこの事を告げる為に、手紙を書くから、そっちは任せるよ」


 長男タウロは、そう告げると急いでやってきた執事のセバスチャンに王都の状況を伝え、一緒に執務室に向かうのであった。


 そこに、リューが戻ってきた。


「あっちは、マーセナルに城門を閉ざして、緊急事態宣言をして街の守備に当たっている領兵の召集と予備兵の動員をするように言っておいたよ。その間に僕達は王都の様子を窺っておきたいところだけど、設置した出入り口以外の移動は『簡易回廊』で一日一回だからね。この緊急事態では使いどころを失敗すると、一日分、後悔する事になるかもしれない……」


 リューは馬鹿正直にランドマークビル前に行く選択はしない。


「……リュー。王宮が占拠されているという事は、王家の人々も拘束されている可能性が高いという事よね? リズが心配だわ。一時間前まで何も起きていなかった事を考えると、囚われているかギリギリなところじゃないかしら……?」


 リーンがそう漏らすと、リューの判断は早かった。


 リューは、リーンの言葉に、無言で『簡易回廊』を開くと、飛び込むのであった。



 リューは、『簡易回廊』で王立学園の自分の教室の席に移動していた。


 すると最初に飛び込んできたのは、怒号と悲鳴、魔法による爆発音に絶叫である。


 クラスメイトであるランス達は、教室の出入り口付近で、襲撃犯と木剣と魔法、もしくは椅子を振り回して戦っている最中で、教室の左隅っこには誰もいない。いや、右隅っこの方に戦うスキルがない生徒が数名、負傷した生徒の治療を行っていた。


 だが、そちらも必死であり、リューが現れた事には気づいていない。


 様子を見る限り、リズ王女もランス達と一緒に、出入り口付近を死守する為に、前の方で魔法を使用して戦っており、無事なようである。


 リューはその状況を把握すると、その場に出入り口を設置して、リーンとスードをランドマーク本領から移動させた。


 そして、リューは、扉付近で戦っているリズの肩を黙って軽く叩く。


「リュー君!?」


 リズ王女は、リュー達が突然現れたので、驚く。


「「「下がっていて(ください)」」」


 三人が声を揃えて生徒達に声をかけ、リューは伝家の宝刀『異世雷光いせのらいこう』、リーンは『風鳴異太刀かざなりのいたち』、スードは特製ドスを引き抜くと前に出る。


 扉や窓から侵入を試みようと肉薄していた襲撃犯達は、この三人の物理攻撃に吹き飛ばされた。


「「「リュー!」」」


 ランス達生徒は、消耗戦に絶望を感じる中、リズ王女を守る為に戦っていたのであるが、思わぬ助っ人であるリュー達に希望の光を見て名前を叫ぶのであった。



「リュー、どうやって現れたのかはわからないけど、とにかく助かった……」


 扉付近でずっと戦い、深手を負った傷だらけのランスが、リーン達に任せると後方に移動する。そして、リューの援軍に安堵しそう漏らした。


「……リュー君、遅いよ……!」


 シズは返り血を浴びているのか、血に汚れた顔で泣きそうな表情の元、安堵した声色でそう言い募る。


 ナジンは、教室の隅で気を失って倒れている。


 誰かのハンカチで止血する為に、腕や足の根本、傷の場所が縛られていた。


 どうやら、重傷のようだ。


「ごめんみんな。今、さっき気づいたばかりなんだ。──リーン時間を稼いで! 僕は、怪我人をランドマーク本領に送るから!」


 リューはようやくそこで、生徒達がみんな怪我を負っているか、返り血を浴びて汚れ、疲れ切っている事に気づいた。


「わかったわ! ──スード、窓側をお願い!」


「了解です!」


 リーンとスードは、すぐに理解すると他の生徒達を下がらせて一切を引き受けるのであった。



 教室にいた生徒達は、すぐさまランドマーク本領に『次元回廊』で移動させられた。


 特に、気を失って重傷のナジン、意識はあるがこちらも深手の怪我を負っているランスやラーシュ、男子生徒達はランドマーク本領にいる者達に引き渡す。


 他の生徒達は城館前に移動したら、数瞬呆然としていたが、助かったとわかると泣き出す者も多い。


 その中、リューは教室に戻る。


 そこには、戦っているリーンとスード、そして、最後まで残ったリズ王女とイエラ・フォレスだけがいた。


 最初、桁違いの力を持つ黄竜・イエラ・フォレスがいて、なぜこの事態を免れる事が出来なかったのかと思ったのであったが、学園全体を覆う魔法に気づいた。


 それは、学園内の生徒達に対する治癒効果などを与える結界のようであり、そのお陰でクラスの生徒に死者が出なかったようだ。


 そこでようやく、リューは、イエラ・フォレスが敵を倒す為に動いていたら、弱い味方まで巻き込んでしまう恐れがあったので、それができず、結界を張るに留まっていたのだと理解した。


「すまなかったのじゃ。この分身体では加減が難しくてな。本体の力を使おうとすれば、この教室を吹き飛ばす恐れがあったのじゃ……」


 イエラ・フォレスはリューの思考が読めたのかそう応じる。


「いえ、イエラさんのお陰で死人は出ていないのでしょう?」


 リューが確認した。


「今のところこの教室にいた者はだがのう。だが、リズ王女を助ける為に、生徒会長のジョーイ・ナランデールであったか? あの者が三年生の中から有志を募り、それを率いて襲撃してきた軍と死に物狂いで戦っておる。そちらはここよりも激しい戦いを繰り広げていて数人すでに死者が出ておるようじゃ。我が去ると確実にもっと死人が出るだろう」


 イエラ・フォレスは事実とこれからの状況を淡々と伝える。


「……リズ。君はランドマーク領に避難を」


 リズ王女は魔法を使用しすぎて疲労困憊の中、みんなを置いて先に避難する事を拒んでいたが、そのリズ王女に有無も言わさぬ声色で告げた。


「……」


 リズ王女は校舎の外で自分の為に戦っている生徒達がいる事をわかっていたので、リューの言葉にすぐには反応せず、沈黙した。


「君がいると、先輩達も退けないから」


 リューが厳しい口調で言う。


 そこでようやく、リズ王女は押し黙ったまま頷くと、リューの手を取ってランドマーク本領に移動するのであった。

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― 新着の感想 ―
これはケジメ案件ですねぇ
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