第753話 学園襲撃ですが何か?
王宮で何者かによる襲撃が行われている時、時を同じくしてリズ王女のいる王立学園も襲撃を受けていた。
王立学園の事務員や庭師、さらには生徒の一部が学園内の警備兵を襲撃して、外部の者を招き入れたのだ。
閉ざされていた校門は開かれ、通行人を装っていた者達が続々と武器を持って乱入してくる。
外部の者達が突入してきたのは、二年生校舎であった。
目標は、リズ王女の拘束だろう。
学園内部の者達が外部の者達を先導して、迷うことなくリズ王女のいる教室に向かう。
現在は、授業中という事もあって、ほとんどの生徒達は教室におり、それ以外だと特別教室、体育館に一クラスずつ散っているだけであった。
襲撃犯達は、それらは無視して、リズ王女の教室を目指す。
教室では、担任のビョード・スルンジャー先生の授業が行われていたが、生徒の中にその動きにいち早く気づいた者がいた。
それがランドマーク家の守護神に納まっている黄竜の分身体で生徒に扮しているイエラ・フォレス嬢である。
「やれやれじゃ……。人族の世界に興味はあっても干渉する気は、あまりないのじゃが……、かと言って我まで巻き込まれてはかなわんな……。──皆の者、どうやら招かれざる客が、王女を捕らえに来たようじゃ。とりあえず、扉を塞ぐぞ?」
イエラ・フォレスは、突然立ち上がって生徒達にそう警告すると、出入り口に向かって手をかざした。
すると魔法の壁が、扉を覆う。
その直後に、扉を必死に開けようとする音が響いてくる。
最初は、ノブをガチャガチャと弄る音であったが、扉を破ろうと蹴ったり、殴る音に変わった。
これには担任のスルンジャー先生も驚き、何事かと扉に近づいて行く。
生徒達も一連の流れに、戸惑っている。
「先生、開けては駄目です!」
イエラ・フォレスの言葉にピンときた兎人族でリューの部下の一人であるラーシュが立ち上がると、普段は出さない程、大きな声で担任の行動を止めた。
ラーシュの言葉により、スルンジャー先生も止まって振り返る。
すぐに、ランスやシズ、その幼馴染のナジンなども、ラーシュの緊迫した言葉にハッとして、何が起きているのかを推測した。
そして、ナジンが、
「障壁魔法を使用できる人は、窓に使用して!」
と切迫した声色で生徒達に訴える。
それでやっと、他の生徒達もリズ王女に危機が迫っている事に気づき、席を立つとナジンに言われた通り冷静に魔法を使って窓に唱え、強化していく。
その間に、ランス達力自慢の男子生徒達は、力を合わせて机の天板を強引に剥がし、窓や扉を塞ぐ事にした。
残念な事に、学校には武器類の持ち込みはできないから、身を守る術は魔法しかない。
当のリズ王女は、一見冷静であったが、まさかこのような事態が起きるとは思っていなかったので、内心ではかなり困惑していた。
それでも友人達が傍にいるので、平静を装っていられていたのだが、ここで襲撃犯達に自分が捕らえられたら、王家に迷惑がかかるであろう事は予想できたので、今は、戦うしかないという結論に至る。
「襲撃犯の目的は私のようです。ですが、王家に連なるものとして、黙って拘束されるわけにはいきません。みなさん、力を貸して頂けますか?」
教室にリズ王女の声が響き渡る。
すると、
「当たり前だろ!」
とランス。
「……親友としてリズに指一本触れさせないよ」
とシズ。
「右に同じだ」
とナジン。
「当然です……!」
とラーシュが続いてリズに賛同した。
それにより、教室の生徒達も同意するように、
「「「王女殿下をお守りします!」」」
と一致団結するのであった。
思わず、扉は我の魔法で塞いだが、あまり、干渉もしたくない。どうしたものかのう……。
イエラ・フォレスは、一人、生徒達の士気が上がる中、悩んでいた。
彼女の本体である黄龍フォレスは文字通り、その気になれば国も亡ぼせる力を持っている。
それだけ強力な力を持っている為、加減も難しいだけに、あまり、人里で力を使用したくないのだ。
そのうえで、分身体のイエラ・フォレスは限度がある事もあり、あまり、人族に干渉する事は避けたいというのが正直な気持ちであったから、それで出した答えが、「静観」である。
とはいえ、外では死者も出ている様子であったので、イエラ・フォレスは、この分身体で出来る範囲の結界だけは学園の敷地内に張り、思わず扉を魔法で防御してしまったが、それ以外は、彼らに任せる結論に至るのであった。
「イエラさんの魔法もいつ切れるかわからないから、障壁魔法を使える人は、切れた場合に備えておいて!」
ナジンが、数人の生徒を集めてそう指示する。
ランスは力自慢の生徒を集めて、机の天板を剥がし始めていた。
扉もだが、窓も塞いで強化しないと、そちらから侵入を試みる者がいると考えたのだ。
シズとラーシュは女生徒を中心としたメンバーでリズ王女の周囲に集まり、身を盾にする気でいる。
あとは、教室のロッカーにあった木剣数本で抵抗するしかないのだが、これはクラスでリュー達を除いて腕が立つランスやナジンの仕事になりそうだ。
「こんな時に、リュー達がいれば、マジック収納から武器を出してもらったり、『次元回廊』で避難できたのにな」
ランスが、休学中の友人達を思い出してそう漏らす。
「そもそも、戦時下でなければ、こんな事は起きていないさ」
ナジンが、ランスの言葉に反応してそう答えた。
「みんな、ごめんなさい。私がいなければ巻き込まれる事もなかったのに」
リズ王女が、友人達にそう言うと謝った。
「「「それはない!」」」
間髪を入れずに、ランス達は声を揃えてその可能性を否定した。
「俺達はリズの友人で良かったとは思っても、謝られるような嫌な思いはしてないぜ」
ランスは、笑顔でそう告げる。
すると、シズ達もそれに同意するように頷く。
それは、教室の生徒達も一緒で、全員も口々に王家の忠誠を誓ったり、「王女殿下と同じクラスで光栄です!」と応じるのであった。
その間、リズ王女クラスの扉越しの攻防が行われている間、職員室は占拠されていた。
襲撃犯達は、どこで学園内部の情報を入手したのか、襲撃の際に誰を最初に拘束しておくべきかよく心得ており、職員室でも剣や魔法に優れている教師や警備兵は個人名まで把握して優先的に拘束していく。
ただし、それが行われたのは、二年生校舎と職員校舎だけであったので、一年生校舎、三年生校舎、四年生校舎は無視である。
その代わり、しっかり、各校舎に繋がる通路はしっかり押さえてあり、防備も万全の体制であった。
そんな二年生校舎の緊急事態に、他の校舎生徒や教師は授業が終わるまで気づかないでいた。
二年生校舎の方が騒がしい? とはどの校舎の生徒達や教師も、薄っすら感じていたのだが、校舎が離れているので非常事態とは思っていなかった。
そして、授業が終わり、教師が職員室に戻ろうして、職員校舎に続く通路を通過するとその先で待ち伏せていた襲撃犯に拘束されていく。
だが、それを偶然、一部の生徒が見ていた事で、他の校舎にもこの事が急速に伝わり、一瞬で大騒ぎになるのであった。