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第750話 何かが動き出しますが何か?

 前線が長期化しそうな状況の中、連日、王都には各地の王国地方軍が続々と集結しつつあった。


 これは、各地の派閥貴族達が煮え切らない態度で援軍を出さない事により、各地の防衛をその貴族達に任せ、各国境や王家直轄領の防衛にあたっている地方軍を招集したからである。


 これにより、王都郊外へ兵が集まってきたので、北東部以外の東部前線、南東部前線にリューが『次元回廊』で連日送り届けるという忙しい展開になっていた。


 リューの『次元回廊』は魔力を消費するから、大軍を送り込む時は魔力回復ポーションは必須である。


 だから、毎回、お腹を水で膨らまして前線に送り届けている。


 北東部には、王都で軍として編成して、現地に急行する形であったから、こちらは騎馬隊や馬車が多めに編成されていく。


 そういう意味では、東部戦線は帝国軍に騎馬隊が多いのに比べ、王国軍は少ないので戦い方も難しいところである。


 だが、地の利と城塞による防衛で互角に渡り合っているところであった。


 その辺りは、東部戦線の王国軍最高指揮官であるエアレーゲ侯爵元帥をはじめ、派閥の長であるサクソン侯爵が、よく耐えているところである。


 そこへ、リューの『次元回廊』を通して、王国地方軍がまとまった数で援軍としてきた事に、各前線の指揮官達は当然喜ぶことになった。


 斥候の情報では、帝国軍は、また、本土から援軍が送り込まれる様子であったから、これ以上、兵の数で負けるのは避けたかったのである。


 一時的とはいえ、これで、帝国との兵力差がかなり埋まった事で、東部戦線も籠城から野戦でぶつかる姿勢を見せているようだ。


 北東部のサムスギン辺境伯派閥軍は、まだ、援軍到着までは時間がかかるので、厳しい戦いは継続中であるが、援軍の報が届けば、士気も上がるだろう。


 それだけで十分喜ぶだろう事は想像できるのであった。


「これで、ずっと不利な戦況を我慢して戦い続けている前線の指揮官達は戦い方にも選択肢が増えるだろうね」


 リューは、『次元回廊』での送り届ける仕事を一息つくと、リーンにそう漏らした。


「本当ね。連日、まとまった兵を送り届けられているのは、大きいわ。それもこれもリューの活躍のお陰ね」


 リーンはリューの事を自慢げに、リュー本人に告げる。


 これにはリューも苦笑するしかない。


「みんながやれる事をやれる範囲でやっているからだよ。僕もランドマーク家の与力として王家の役に立てているのは嬉しい事だけどね」


 リューは近衛騎士団の警護を意識してそう答える。


 近衛騎士団は、王家への忠誠が一番であるから、周囲にも王家への忠誠を第一にしてもらいたい思いがあるようであったから、活躍の自慢は王家の為と言ってほしいところがあるようだ。


 だが、リューにとっては、ランドマーク本家が与力として第一である事を鮮明にして、それを理解してもらう意図があるようであった。


 ちなみに、この日は、隊長のウーサン準男爵はいない。


 リューの警護には近衛騎士団五十名が付いていると言っても、常にいるわけでなく、交代制で行われているで、いつも傍にいるのは実質、十名にも満たない。


 大抵はマイスタの街の街長邸、ランドマークビルなど、リューが常にいるところにも、数人常駐させているからだ。


 その中に、休養日なども入れるから、今、リューの傍には八名の近衛騎士がいる。


 そして、リューの警備の責任者であるウーサン準男爵はというと、この一週間の勤務記録を提出する為、近衛騎士団本部に出頭していた。


「クサイム男爵、お疲れ様です!」


 ウーサン準男爵は、懲罰的に事務仕事に回されている先輩騎士に挨拶をして、報告書を提出する。


「……ご苦労様。そちらの警備対象はどうしている?」


 クサイム男爵は、報告書を受け取ると、後任の後輩騎士に世間話とばかりに聞く。


「はい。この一週間、ずっと兵士や関係物資の送迎と領主としての仕事、または、商会の仕事で連日長い会議を行っているので、こちらは蚊帳の外です。はははっ」


 ウーサン準男爵は、任務から外されたクサイム男爵に気を遣って、自分もあまり、扱い良くないですよ、という雰囲気を出して答えた。


「……そうか。──報告書通りだな」


 クサイム男爵は、そう一言応じると、黙々と事務作業に戻る。


「……じゃ、じゃあ、自分はここで失礼します」


 ウーサン準男爵は気まずく感じたのか、あとの処理を先輩騎士に任せると、本部を後にするのであった。


 そして、クサイム男爵はというと、ウーサン男爵からの報告書を持って立ち上がると、使われていないはずの古い資料室に歩いていく。


 その資料室の奥にある机の下に置いてあった魔導具を出し、それに報告書を挟んで何やら稼働させた。


 まるで前世のコピー機のように一瞬光を発した魔導具をすぐに元の場所に戻すと、何事もなかったかのように、クサイム男爵は資料室を出て仕事に戻るのであった。



 暗い室内で突然、魔導具が浮き出し、紙にリューの警備報告書が印刷されていく。


 その瞬間、室内には何人かの人影がある事に気づく。


「リュー・ミナトミュラー男爵の動き、怪しいですな」


 そう言うと言葉の主は暗闇の中、報告書の写しを手にして目を通し、そう漏らした。


「やはり、あの小僧は警戒しておいた方が良いだろう。この戦いにおいて、あれは中枢の情報に関係しすぎだ。会議時間が連日長いというのも、気になる。奴の使用する『次元回廊』による移動箇所が、三か所以上である場合、陰で何をしているかわからないしな」


「便利な能力である以上、今後も活用したいところではありますが、敵になった場合、危険性が上回るかと」


「やはり、処分が妥当か……。こちら側に引き込みたいところではあったが、仕方あるまい。『王家の騎士』の称号持ちとあってはそれも難しいだろう……。それに近衛騎士団も国王の命令で粛清が進み、クサイム男爵以外、外部に情報を漏らしてくれる者がいなくなった。その近衛騎士団諜報部とも少年男爵は親しくしていると聞くから、これを機に力を削っておこう」


「『支援者』も、あの少年男爵については、場合によって、処分してかまわないと言っているからな。──では、『処分』でよろしいか?」


「「「異議なし」」」


 暗い室内の中、話し合いを行う謎の人物達は、リューの扱いについてそう決定を下して、部屋から一人また一人と退室していくのであった。



 マイスタの街、ミナトミュラー商会本部事務所の会議室──


「ハックション!」


 リューは背筋に寒気を感じて、くしゃみをした。


「リュー、働き過ぎて、風邪でも引いたんじゃない?」


 リーンが心配する。


「風邪ではないと思うんだけど……。誰かが噂してるのかな? 何か良くない事が起きそうで嫌な感じがするなぁ……」


 リューは身を震わせて、そう漏らす。


「気をつけてくれよ。リューが、この時期、病気にでもなられたら、色々と大変だからさ」


 会議に参加していたイバルが友人として部下として心配する。


「そういう事だ、若。今日は珍しく普通の会議だが、早めに切り上げて休んでくれていいんだぜ?」


 商会長代理であるノストラもイバルに同意して休養を勧めた。


「いや、外の近衛騎士さん達にはいつも会議は長いという印象を与えておきたいからね。しっかり、時間まで会議を行うよ」


 リューはそう言うと、背筋に走った冷たいものを振り払い、会議を続けるのであった。

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