表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

749/852

第749話 混沌として来ましたが何か?

 南東部の戦場は、落ち着きつつあった。


 帝国南軍への敵本土からの増援が、リューによって未然に防がれた事により、有利に戦を進めていた南軍を率いるヤン・ソーゴス将軍の計算にミスを生じさせた事で、勝敗がわからなくなった事による。


 と言っても、元々、スゴエラ侯爵派閥・ランドマーク伯爵は派閥連合と帝国南軍では、その兵力差は倍以上であり、各地で籠城戦を展開するしか戦い方としては難しかったのではあるが。


 だが現在、南部の王国地方軍が王都を経由せず、直接援軍として南東部に急行してくれた事により、その兵力差も縮める事に成功した。


 帝国南軍も王国軍の援軍が来た事により、警戒の為に一旦兵を下げ、スゴエラ侯爵派閥軍が立て籠もる城の包囲を解いている。


 それまでは、ヤン・ソーゴス将軍は、兵力が優位である事を最大限に利用して、スゴエラ侯爵派閥軍本隊を城に釘づけにし、周囲に兵を投入して局地戦で勝利を重ねていたのだが、ここに来て、謎の部隊による反撃でその局地戦で敗退を繰り返し、今では、複数の補給線上の街と村を押さえるだけになっていた。


 とはいえ、そのくらいは想定の範囲内であったのだが、先日の一番重要な補給地点を本土からの援軍と共に、壊滅させられたのは、かなりの痛手となっている。


 これが、もし、本土の援軍と南軍本隊が合流していたら、王国地方軍の援軍ごと、籠城するスゴエラ侯爵派閥軍に大攻勢をかけて、揉み潰すつもりでいたからだ。


 その計画がとん挫したうえ、王国地方軍の援軍が到着した事で、ヤン・ソーゴス将軍は、城攻めを一旦、放棄する事にしたのであった。



「帝国軍が包囲を解いたのは、やはり、後方の補給線をカミーザ、リンデス達が攻撃した事と王国地方軍の援軍到着が原因か……。ようやく兵達を休ませることが出来るな」


 スゴエラ侯爵は、連日、帝国軍の昼夜問わずの城攻めに対応していた事で、疲労困憊であったが、ようやく兵士達に休憩が与える事が出来て安堵する。


 ちなみに、リューが帝国南軍最大の補給拠点を破壊した事は、まだ誰も知らない。


「はい、これで北の城のベイブリッジ伯爵軍、南東の城のランドマーク伯爵軍も籠城から一転、動けそうですね」


 スゴエラの公爵の部下も、主君の言葉に同意した。


「ベイブリッジ伯爵の心労は特にひどい事だったろう。領地を攻められ、戻る事も出来ずに籠城するしかなかったのだからな」


 スゴエラ侯爵はヤン・ソーゴス将軍の本隊と籠城戦で釘づけにされていたが、ベイブリッジ伯爵の城も攻撃を受けて釘付けになっていたので、自領の領都を別の敵に攻撃されても助けに戻れず、籠城して我慢するしかなかったのだ。


 その為、戦場となったベイブリッジ伯爵領は、領都以外は一時帝国軍の占領下におかれ、多大な損害を出したのである。


 その一つが、ランドマーク伯爵との交易の為に作った工場群の損失であった。


 ランドマーク商会のブランド商品製造工場が、ベイブリッジ伯爵領にも複数あったのである。


 それらは、全て戦火に焼けてゼロになってしまった。


 ベイブリッジ伯爵にしたら、領都が無事なだけマシという事になるが、領内の大きな収入源となっていた工場群が燃えたのは正直かなりの痛手である。


 これが戦争だと言ってしまえば、それまでなのだが、これはベイブリッジ伯爵にとってはかなりの損失であった。


 そして、それは、ランドマーク伯爵家も同じである。


 投資をしたのは、ランドマーク伯爵家であり、南東部の需要と供給は、ベイブリッジ伯爵領内の工場群が全体の数割を担っていたからだ。


 領主であるファーザは戦時だから仕方がないと気持ちを切り替え、あまり気にしないだろうが、地味に損失は大きいのであった。



「スゴエラ侯爵のもとに王国地方軍が援軍として到着した事により、籠城戦から野戦に移りそうだな」


 父ファーザは、スゴエラ侯爵に防衛を任されている南東の城の作戦会議室でそう漏らした。


 そこには、元々の城の城主であり、ファーザの指揮下に入っているボヤキーノ騎士爵と、息子のジーロ・シーパラダイン男爵にその部下、ランドマーク家の領兵隊長スーゴ、そして、リューが援軍として送り込んだ大幹部のランスキーと、その副官として元冒険者で執事助手のタンクがいる。


 地図を囲むようにその全員がファーザの言葉を聞いていた。


「ですが、この城に籠る兵は、うちとランドマーク伯爵殿の兵を合わせても全部で約三千ですよ? こちらを包囲していた兵力はその倍以上。籠城戦ならいざ知らず、野戦になるとその兵力差の影響は確実に出ますぞ」


 ボヤキーノ騎士爵は、ファーザの言葉に反応してぼやく。


「でも、王国地方軍の援軍が到着して敵味方、本隊同士の兵力差は埋まっているので、スゴエラ侯爵は一戦交えようと考えると思います」


 ジーロは地図に援軍の駒を置いて、そう指摘する。


「俺もそう思いますよ。籠城ばかりでは士気が下がる一方ですからな。ここで兵のうっぷんを晴らさせ、士気を高める事で、領民にも希望を与える必要があります。ただでさえ、自分の田畑を荒らされ、略奪されるがまま逃げてきた者も多いですからね」


 領兵隊長のスーゴが、野戦の合理性を説く。


 そう、人が戦う以上、食糧や武器があっても士気が下がってしまうと戦いを継続する事は難しくなる。


 籠城中は、うっぷんも溜まり、それを解消させないとまとまりを欠き、脱落者も出るから、もっともな意見であった。


「そうなると、我々はスゴエラ侯爵軍の右翼として布陣する事になりますな」


 ボヤキーノ騎士爵は、地図の会戦となりそうな地形に駒を移動させると、自分達の駒をスゴエラ侯爵の駒の横に置く。


「左翼がベイブリッジ伯爵軍だが、敵は兵力で劣るうちを狙ってくるかもしれない」


 ファーザはいつもの気の抜けそうなゆったりした様子はなく、真面目な表情で、帝国軍の駒を自分達の駒の正面に移動させる。


「ご安心を。そういう状況であっても数の不利を埋められるように、若の考えでうちの領兵隊は最新装備に身を固めさせていますから」


 ランスキーは、これまで、リューの代理として、本家のファーザの命令に忠実に従い、口を挟む事が一切なかったのだが、リューの代わりにアピールした。


 ファーザはその言葉に無言で頷く。


 ランスキーとタンクが率いる領兵隊は確かにその装備一式がかなり優れているようだというのは、見て何となく理解していた。


 だから、それを疑うつもりはない。


 しかし、ここは戦場である。


 何が起きるかわからないところであるから、多大な期待はしないで、最低限の計算に入れて作戦を練るファーザであった。



「おい、聞いたか? 北東部の戦場、かなり、泥沼になっているらしいぞ……」


 南東部の戦場に光が差し始めていた頃、王都ではそんな噂が広まりつつあった。


 帝国北軍とシバイン侯爵派閥軍に好きに荒らされている北東部に、サムスギン辺境伯派閥軍が抵抗勢力として向かい、戦になっている。


 サムスギン辺境伯派閥軍は、王国内でもその兵の強さは屈指の存在であるが、地の利がない土地での戦という事、さらには、帝国北軍を指揮する若いノス・トータン将軍が極めて優秀な人物であった事から、一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。


 その中でも、サムスギン辺境伯派閥軍の核となっていたのが、学校を休学して駆け付けた、エクス・カリバール少年男爵である。


 勇者のスキル持ちとして、爵位を得ている彼はリュー同様、貴族としての義務を果たす為、未成年だが参戦しているのだ。


 だが、その活躍をもってしても、帝国北軍との兵力差や地の不利の為、勝負がつかないのであった。



「エクス君も戦場に出ているのか……。あとは、王国軍とサクソン侯爵派閥軍の連合と帝国本軍だけど、そちらも一進一退。敵も本土から軍が整い次第、増援を送ってくるだろうから、王国地方軍が王都に集結次第、僕が送り届けないとなぁ……」


 リューには、奥の手である魔法大砲があるが、その砲弾も無限にあるわけではない。


 というか先の戦いでほとんど使ったので、現在、大金をつぎ込んで、さらに製造中である。


 だから、当分は戦場に投入できないので、今は、また、『次元回廊』による兵と必要物資の輸送に尽力するしかないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ